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学園の聖母

今回は「メディ先生」視点のお話です。

************************************************


 窓の外で、男の子たちが言い合っている。


「そういやカビ助の奴、サボりだってな。いじり相手が消えたな、カブ太!」

「いや……俺はもうそういうのは辞めたんだ」

「カブ太〜。お前最近どうしちまったんだよ!」

「好きな女でも見つけたのか?笑」


 思わず、くすりと笑ってしまう。


 カブ太くんは、あれから随分と大人になった。

 あの日の説教のおかげかしら。それとも——


 カビ助くんの、影響?


「ふふ、いい関係ね」


 小耳に挟んでいた、彼へのいじめ。

 それは噂以上に酷いものだったけど——

 今では、お互いがお互いを引き上げているようだ。


 教師としては、関わった学生の成長を見ると、嬉しくなる。


「さて。仕事しますか!」


 私は気持ちを切り替えて、机の上の山に目を落とした。


 保健のテスト。

 答案用紙が、きれいに揃えられている。


「……今回、ちょっと難しかったかしら」


 赤ペンを手に取る。


 一枚目。

 名前を確認して、ぱらりとめくる。


「うーん……惜しい」


 丸をつけかけて、やめる。


 ここは減点。

 でも、考え方は悪くない。横に小さくコメントを書く。


 ——“あと一歩”


 こういう一言で、次が変わることもある。


 ペンを走らせる。

 カリカリ、と静かな音。


 外からはまだ、彼らの声が聞こえていた。


 少しずつ遠ざかっていく。


「ふふ……」

 また、笑ってしまう。


 ——元気なものだ。


 しばらく採点を続ける。

 丸、三角、バツ。


 淡々とした作業。


 でも、嫌いじゃない。

 むしろ、落ち着く。


「……あら?」


 次の答案をめくったところで、手が止まった。


 一瞬、雑音が消え、静寂が訪れた。


 なぜか、少しだけ胸がざわついた。


「変ね」

 私は小さく首を傾げる。


 ——疲れているのか?


 額に手を当てるが、熱はない。


「気のせい、よね」

 そう呟いて、再びペンを走らせる。


 カリカリ、と音が戻る。


 けれど。

 胸の奥に、ほんの少しだけ——


 空白のような感覚が残っていた。


 考えようとすると、するりと抜け落ちる。

 思い出せそうで、思い出せない。


 まるで、最初から無かったみたいに。


「……」

 私は、もう一度手を止めた。


 そして、窓の外を見る。


 誰もいない。静かな校庭。


「私……どうして教師になったんだっけ?」


 しばらく考えにふける。


 ——だが思い出せない。


「……まあ、いいか」


 私は小さく笑って、首を振った。


 今の自分に、支障はない。

 生徒たちが傷つくことでもない。

 なら、それで十分。



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