学園の聖母
今回は「メディ先生」視点のお話です。
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窓の外で、男の子たちが言い合っている。
「そういやカビ助の奴、サボりだってな。いじり相手が消えたな、カブ太!」
「いや……俺はもうそういうのは辞めたんだ」
「カブ太〜。お前最近どうしちまったんだよ!」
「好きな女でも見つけたのか?笑」
思わず、くすりと笑ってしまう。
カブ太くんは、あれから随分と大人になった。
あの日の説教のおかげかしら。それとも——
カビ助くんの、影響?
「ふふ、いい関係ね」
小耳に挟んでいた、彼へのいじめ。
それは噂以上に酷いものだったけど——
今では、お互いがお互いを引き上げているようだ。
教師としては、関わった学生の成長を見ると、嬉しくなる。
「さて。仕事しますか!」
私は気持ちを切り替えて、机の上の山に目を落とした。
保健のテスト。
答案用紙が、きれいに揃えられている。
「……今回、ちょっと難しかったかしら」
赤ペンを手に取る。
一枚目。
名前を確認して、ぱらりとめくる。
「うーん……惜しい」
丸をつけかけて、やめる。
ここは減点。
でも、考え方は悪くない。横に小さくコメントを書く。
——“あと一歩”
こういう一言で、次が変わることもある。
ペンを走らせる。
カリカリ、と静かな音。
外からはまだ、彼らの声が聞こえていた。
少しずつ遠ざかっていく。
「ふふ……」
また、笑ってしまう。
——元気なものだ。
しばらく採点を続ける。
丸、三角、バツ。
淡々とした作業。
でも、嫌いじゃない。
むしろ、落ち着く。
「……あら?」
次の答案をめくったところで、手が止まった。
一瞬、雑音が消え、静寂が訪れた。
なぜか、少しだけ胸がざわついた。
「変ね」
私は小さく首を傾げる。
——疲れているのか?
額に手を当てるが、熱はない。
「気のせい、よね」
そう呟いて、再びペンを走らせる。
カリカリ、と音が戻る。
けれど。
胸の奥に、ほんの少しだけ——
空白のような感覚が残っていた。
考えようとすると、するりと抜け落ちる。
思い出せそうで、思い出せない。
まるで、最初から無かったみたいに。
「……」
私は、もう一度手を止めた。
そして、窓の外を見る。
誰もいない。静かな校庭。
「私……どうして教師になったんだっけ?」
しばらく考えにふける。
——だが思い出せない。
「……まあ、いいか」
私は小さく笑って、首を振った。
今の自分に、支障はない。
生徒たちが傷つくことでもない。
なら、それで十分。




