一人前の探検家
僕らは個室に案内され、しばらくするとスピーカーから隊長の声が聞こえてきた。
「みんな、よく集まってくれたね。それでは、『探検隊』の新メンバーを紹介する!」
その掛け声と共に僕らは個室から大部屋のステージへと足を踏み入れる。
全校集会を思い出すな……。まさか、僕がステージ側に立つ日が来るとは思わなかった。
隊長はみなさんに向けて、僕らの紹介をする。てかゴハートのことも喋って大丈夫なんですか⁉︎
「カビ助くんと、ゴハートくんだ。今日から『地上班』に加わってもらおうと思う。わからないことだらけだろうから、みんな優しく教えてやってくれ」
パチパチパチ…………
あれ、意外と拍手が小さいな。歓迎されてないのか……?
いや、違う。どうやら探検隊の人数が少なかっただけのようだ。
まあ、少ければ少ないほどコミュ障の僕には助かるというもの……いや、逆に多い方が?
しかし、ほとんどの人がゴハートの存在を認知している。どうやら少数精鋭の組織のようだ。
全員が「召喚者」ってわけじゃないだろうけど……トリ族の首領たちのように、ある程度の実力があれば別次元の存在を視認することぐらいはできるみたいだ。
「隊長、『地上班』ってなんですか?」
ドリあえず僕は、最も質問しやすい隊長へと疑問を投げかける。
「ああ、うちは『探検隊』といっても実際の活動はパトロールみたいなものでね。その範囲は種族の壁も乗り越えるべきだと私は思っているんだ。だからトリ族の『空中』、スシ族の『水中』、ドリル族の『地中』、そして我々の住む『地上』。それぞれへ探検する班を分けているというわけだよ。まあ大体の隊員は『地上班』になるんだけどね……笑」
「はあ、なるほど……!」
口では冷静な感嘆を漏らしてしまったが、実際の僕の心は踊っていた。
隊長、この人は本当にかっこいい。まるで人生を何周も経験しているような人に感じる。
種族の壁も乗り越えるべき、か……。
僕もトリ族の争いを経験したが、そんな考えには至らなかった。
本名なんかよりも、彼の人生に興味が湧いてきた。
…………僕も、あんな人になりたい。
そう思った時、少しだけ未来への希望が見えてきたと同時に、一抹の不安を覚えた。
「希望……本当に……続くのか…………? ゲホっ、ゴホッ!」
結局僕は問題から逃げて、やり切ったように感じているだけだ。
トリ族のヤクザたちも燃やしたまま放置し、カブ太ともまともに会話していないまま旅に出た。今なお身体を蝕んでいる病気だって、症状がおさまったように見えて時々こんな感じでやってくる。だから……。
「……そんなんじゃ、遺骨を取り戻しても親父さんには認められないぜ」
ゴハートの声だった。
僕の心を読んだのか……?
いや、違う。僕が隠しきれてなかっただけだ。
「マスターは心配性すぎる。でもそれは仕方のないことなんじゃないか? あんたは今まで、部屋に引きこもらざるをえなかった生活を送ってきた。マスターの理想の人物像とは、経験値が違うんだからさ。それなら……どうするのが正解だと思う?」
……そうか。
僕は武蔵の脅威から逃れるために、探検隊に入った。それだけだと思っていた。
でも運命にはいつでも意味が在るんだ。僕はこの偶然すらも利用して……、
「お父さんも認めてくれるような、一人前の探検家になってみせる! ……どうかな?」
僕の決意にゴハートは、何も言わずにただうなずいていた。
ドラゴンマスクさん……いや隊長は僕の決意を何も聞いていなかったかのように、話を続けた。正直ちょっと恥ずかしいところだったから、こういう対応はありがたい。笑
「……では、『地上班』の班長を紹介するよ。ここにいる、『スライム博士』だ」
ここにいる……? 見たところ、どこにもいないけど……?
僕がそう思っていると、目の前の机が突然ジェル状になり、みるみる変化していった。
黒い博士帽を被り、可愛らしい目に丸い身体。
……どうやら「ライトモン族」のようだ。
僕は戸惑いつつも自己紹介をする。目上の人には礼儀を忘れず、だ。
「びっくりしたぁ……! カビ助です。よろしくお願いします、班長!」
「礼儀正しい子が来たね。でもワタシのことは博士の方で呼んで欲しいかな。……見ての通り、ワタシは『スライムの力』を持つライトモンです。よろしく」
「わ、わかりました! ええと……『博士』!」
少し変わった人だな……と思いつつもそう返事をすると、博士はニコリと笑って外を指差した。
「うんうん。じゃあ早速だが、今日から調査に行ってもらいますよ」
初めての調査! よーし、楽しみだなぁ…………。
「って、え……?」
「は、はぁ⁉︎ 今からですか⁉︎」
探検するのは歓迎なのだが今すぐは流石に早すぎる!
これにはゴハートも苦言を呈した。
「ちょ……隊長! 聞いてないっすよ‼︎ 何とかできないんですか⁉︎」
ドラゴンマスクさんは苦笑いして言った。
「すまない……。うちの隊は自主性を重んじていてね。各班の判断は、全て『班長』に任せているんだ……。大変だと思うが、頑張って……!」
それだけ言うと隊長は翼を広げて飛び立っていった。
えー……そ、そんなぁ……!
忙しいから飛び立ったんですよね? 面倒事だから逃げたわけでは……ないですよね、隊長?
隊長の姿が見えなくなると、スライム博士は一息ついて言った。
「……わかったかな? ここではワタシの言うことはたとえ『隊長』であろうと変えられない。君たちはワタシのモルモットというわけです」
「も、モルモット⁉︎ どういうことですか‼︎」
「はぁ……そんなことも分からないのか。実験台という意味ですよ……」
いやいや……そういう意味じゃなくて、この人、性格変わりすぎじゃないか⁉︎
口に出すと何をされるか分かったものじゃないので、僕は黙って笑い流した。
「実験台だとぉ……? 俺たちに何をする気ですか!」
ゴハート! そんな喧嘩腰じゃホントに危険な薬物実験とか……!
しかしスライム博士は意外と優しいのか、態度には有無を言わずに指示を出した。
「そこは安心しなさい。君たち程度の実力じゃあ、ワタシの薬には耐えられないだろうから無下には扱わない。まずは軽い調査に出て、力をつけてもらいます」
「い、一体どんな調査ですか……?」
「『フルーツの森』の汚染についての調査です。さあ、話は終わりで……出発ぅ‼︎」
「え……は、はい!」
ところどころ酷いけど、なんだかんだ一緒に来てくれるし優しい上司なのかもしれない。
絶望だらけだった僕の人生。そこに仲間が加わり、目標と出会った。
こうして僕の「一人前の探検家」への第一歩が始まった。
ライトモン族は自力で悪にはなりきれません。
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