期待値はいつでもそこに在る
ゲホっ……ゴホっ……!
喉の奥が焼けるみたいに痛い。肺がうまく動かない。息を吸うたびに、身体の奥で何かが軋む。
「はぁ……はぁ……っ……」
苦しい。
けど、この苦しさには……もう慣れている。
ここは『DR星』の片隅、「ドドリ村」。この大陸の辺境と呼ばれる場所で、藁の家なんかもまだ残っているド田舎だ。
……なのに、学園設備だけは十分過ぎるほど揃っているという。
「学校、か……」
前に行ったのは、いつだったっけ。
僕の名前は「カビ助」。でも、これは本名じゃない。
生まれつきの病気で、身体中にカビが生える。そのせいで付けられた渾名が、いつの間にか定着してしまった。
——まあ、今さらどうでもいい。
プルルルル……プルルルル……
そんな時、机に置かれていた固定電話の音が鳴り響く。
「電話?」
一体誰から……?
いや……考えるまでもないか。担任の先生一択だ。
僕は受話器を手に取る。
「ゲホっ……もしもし……?」
『ああ、カビ助か。分かっているとは思うが……そろそろ授業日数がまずいぞ』
——やっぱり、か。
『辛いのは分かる。だが補講を受けに来い』
「分かりました。今から行きますよ……」
通話を切る。溜息混じりに、ガチャリと受話器を戻した。
ああ、“カビ助”、ね。
別に——何と呼ばれようが、どうでもいいんだけど。
「……はぁ」
正直、外に出るだけでもキツい。息は苦しいし、視線は痛いし、いいことなんて一つもない。
それでも——僕にとっては。
「久しぶりの……“冒険”だ」
うん、自分でも何を言ってるのか分からない。
ただ、部屋の中にいるだけの毎日よりは、少しマシな気がした。
いつか。
本当に、いつかでいいから。
——運命が、変わる日が来るはずだ。
僕はティッシュが散乱した部屋を後にし、扉に手をかける。
玄関には、履き慣れた靴とランドセル。そして——
『父さん』の、写真立て。
少しだけ、立ち止まる。
当然、写真の中の父さんは、何も返さないけど。
「……行ってきます、父さん!!」
僕は笑って扉を開ける。
外の空気は、少しだけ冷たかった。
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この物語の舞台は、地球と異なる不思議な惑星です。
そのため、次話に『DR星設定資料』を掲載しております。意味の分からない単語と遭遇した際は、そちらをご参照ください。読み飛ばしても構いません。




