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「ザガーン星人たちが来る前に、せめて魔法の扱いに慣れる程度までは練習しておく必要があるッチ。明日の朝九時に僕の基地のトレーニングルームへ集合するッチ」ホワイタチは言う。


 そして翌日。


「なんで、二人しかいないんだ?」ホワイタチからもらったワープゲートを使って基地へやってきた彼は、自分と山本緑以外、誰もいないことに驚く。言い出しっぺのホワイタチすらいない始末だ。


「なんか、外せない用事でもあったんじゃないですかね」彼女は言う。


「日曜日にか? まあいい、とりあえず始めよう」彼は言う。


「すみません。その前にひとつ、聞いていいですか?」


「なんだ?」


「サトウさんって、何歳なんですか?」


「え?」


「いや、なんか年下のようにも見えるけど、年上のようにも見えてよくわからなかったので、気になって。ほら、言葉遣いとかどうしたらいいかなって」 


「それは別に、最低限の礼儀さえ守ってくれればタメ口でもなんでもいいけど。でも、地球の時間単位は最近覚えたばっかだから、年齢なんていわれても数えてないんだよな・・・・・・まあ、1000歳とかそれぐらいだと思うけど」


「1000歳・・・・・・えっ、1000年も生きてるんですか!」


「俺は宇宙人だから、人間とは寿命が全然違うんだよ」彼はそう説明する。


「え、宇宙人なんですか? うそ、全然そんな風に見えないんですけど。すごく人間っぽいっていうか、宇宙人らしくないっていうか」


 緑の言う通り、彼は人間そっくりな見た目をしている。背は二メートルと人並み以上に高いが、髪色は黒色で、顔立ちや肌の色は日本人に近い。肌艶も若々しくて、しわもないので、はた目から見ると20代~30代の青年に見える。


「宇宙人らしくないっていうけど、お前だって宇宙生物だからな。宇宙空間に住んでいる生物なんだから」


 彼女ははっとしたような表情を浮かべる。そして「確かに」と納得したように言う。


「もういいか? 訓練を始めるぞ」彼は言う。


「あ、はい。すみません」


「じゃあさっそくだけど、魔法少女に変身してくれ」


「えっと、どうしても変身しなきゃだめですか?」彼女は尋ねる。


「当たり前だろ」


「ですよね、すみません」彼女は謝ってから、目を閉じる。すると彼女の体が白くまばゆい光に包まれる。じょじょに光は薄れていって、しだいに彼女の姿が見えるようになっていく。


「え、エメラルドアーモニ、参上!」光が消えて姿が現れたタイミングで、彼女はお決まりのセリフを言う。なぜか魔法少女はみんな、これを言う。まったく意味がないと彼は思っているのだが、言いたいなら言わせておけ、という考えで放置している。


 変身した彼女の髪色は、きれいな黒から宝石のような緑色へと変化している。さらに緑を基調とした、ところどころに白いフリルのついたドレス風のコスチュームに身を包んでいて、背中のあたりからは天使のそれみたいな白い羽が一対生えている。


「み、見るに堪えないようなものをお見せしてしまって、すみません。もし目が腐るというようでしたら、今すぐ脱ぎますので」彼女は恥ずかしそうに言う。


「せっかく着たものを脱いでどうする。しっかりしろ」


「しっかりしろって言ったって、陰キャの私はこんな恰好をしているだけでもSAN値がごりごり削られていくんです」


「サンチだかなんだか知らないが、それより魔法は使えるのか? 戦闘経験はあるのか?」


「戦闘経験ならあります。ていうか、初めてホワイタチさんに話しかけられたのがちょうど、通り魔事件があった時で、その場で魔法少女に変身させられて、戦わされたんです。幸い、ナイフをへし折って、一発殴ったら動かなくなったので、それはよかったんですけど」


「そうか、やるじゃないか」

 ホワイタチの強引なやり口には驚きつつも、彼女の勇敢さに彼は感心する。もしかしたら追い込まれると勇気を出すタイプなのかもしれないな、と彼は考える。


「じゃあ、さっそく戦ってみようか。俺を敵だと思って戦ってみてくれ。全力で攻撃してくれて構わない」彼は言う。


「え、全力って。でもそれって危ないんじゃ」


「心配しなくてもいい。むしろ、一対一で俺に傷をつけられたら誇っていいぞ」彼は笑みを浮かべて言う。


 彼は緑から歩いて距離をとる。十メートルくらい離れたところで、立ち止まる。


「さあ、いつでもこい」彼は言いながら、合掌するみたいに手を合わせて魔力を練り始める。


「は、はい」彼女は両手を前につきだす。そして手のひらから、エメラルド色の光の奔流を放つ。


 魔法少女は、魔法少女になったその時からもう魔法を使いこなせるようになっている。おそらく、ホワイタチがコスチュームか何かに細工をして、魔法の使い方がわかるようにしてあるのだろう。


 彼は手を前に出して、練りあげた魔力でバリアを作る。光の奔流はバリアにぶつかって、砕け散る。


「いい攻撃だ! 次はこちらから行くぞ!」彼は再び魔力を練ると、地面に手をつく。すると黒い光でできたつるのようなものが地面から何本も生えてきて、彼女へ向かって伸びていく。


 彼女はエメラルド色のバリアをドーム状に展開して、彼の攻撃を防ぐ。黒いつるはバリアにぶつかって、それ以上進めなくなる。


 彼はそれを見て取ると、立ち上がって、前に向かってゆっくりと歩いて行く。彼は歩きながら、魔力を練り始める。


 彼は今、無防備だ。しかし彼女は攻撃してこない。魔法に慣れていないせいで、バリアを展開しているあいだは攻撃ができないのだ。かといってバリアを解いたりすれば、黒いつるの攻撃を受けてしまう。


「お前の問題は、バリアを張っている間は何もできないということだ」彼は彼女のバリアのすぐそばで立ち止まって言う。そして手に黒い光を宿らせて、黒曜石のような色合いの刀を作り出す。彼はそれを振り下ろして、バリアを叩き斬る。


「だからこうやってバリアを破られたら、負ける」破壊されたバリアが霧散して、黒いつるが動き出す。しかし彼は黒いつるが彼女を襲う前に、それを消す。


 しかし攻撃を受けると思った緑は、無意識に後ろへあとずさろうとする。その際、足をもつらせて尻もちをついてしまう。


「大丈夫か?」


 彼は彼女のそばへ行って、手をさしのべて、彼女を助け起こす。彼女の手は彼のごつごつした手とは違って、細くて、触れれば壊れそうなかんじがする。こんな手の持ち主のいったいどこに悪の怪人などという恐ろしい存在へ立ち向かう勇気があるのか、と彼は不思議に思う。


「すみません」


「いや、いい。俺もやりすぎた。ただ、実際の戦闘でこうやって助け起こしてくれる人間はいない。戦闘中は何があっても動揺するな。何かあってもこれがあれば大丈夫と思えるような、心の支えとなるものを持て。そうすれば、魔力が安定して変なミスも減る」言ってから、彼は急に恥ずかしくなる。悪の怪人が魔法少女に心構えを説くなど、詐欺師が一般人に騙されない方法を教えるようなものだ。


 悪の怪人のくせに何を言ってるの、とでもいうような表情が浮かんでいるのではないかと不安になって、彼女の顔を見る。しかし彼女は、戦闘時の興奮からか、顔を少し赤くしているだけ。それを見て彼は安心する。


 それから彼は、バリアを複数展開する方法などを伝授したりして、昼頃まで彼女と訓練を続けた。しかしその間、誰一人としてトレーニングルームには来なかった。


 



 

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