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獣の魔女と黄昏の迷宮  作者: 白石しろ
第2章 黒の遺跡
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第10話 迷宮

「それじゃあ今度こそ君を遺跡に転送するよ。準備はいい?」

「……うん。大丈夫」


  本当はあんまり大丈夫じゃなかったけど、それを口に出しても不安が消えるわけじゃない。アリシエは頷くしかなかった。

 ルードが「転送開始」と言うとアリシエの視界が一瞬白くなった。そうして次にアリシエが見たのはさっきまでルードと共にいた遺跡ではなく、天井から光の射し込む石造りの建物の中だった。


「わっ……!」


 思わずアリシエは驚きの声をあげた。

 あらかじめ景色が変わると言われていたのに驚いてしまった。

 今日一日でどれだけ驚いたことだろう。

 もう何が起こっても驚かないようになっていてくれたらいいのになんて思ってしまったが、自分の臆病さはそう簡単には変わってくれないらしい。


(……仕方ないよ。前もって話をされてても目の前の景色が変わったら誰だって驚くよ。ミーシャだってきっと驚くよ……)


 そうアリシエは自分に言い聞かせ、平静を取り戻した。

 さて、いつまでも驚いているわけにもいかない。いつまでも驚いたままでは、またルードに小言を言われてしまうだろうから。

 まずはここがどんな場所なのか確認しよう。

 そう思い、アリシエは建物の外に出て、辺りを注意深く見回した。


(ここが迷宮なの……?)


 アリシエは目の前に広がる光景を見て、困惑した。

 そこは本当にのどかで心が和むような所だった。

 葉の茂った木が生え、緑が目立つ。

 地面の土は綺麗で、所々に花が咲いている。少し遠くを見ると岩の隙間から水が

 流れていて、小さな小川となっていた。あちこちから聞こえて来るのは小鳥の声だろうか。木の上を見ると子リスが餌を求めて動いているのが見える。

 

(迷宮ってもっと恐ろしい場所だと思ってた……)


 アリシエは本物の迷宮を目にしたことはない。

 だが、迷宮に関しての知識なら少しはある。どこかの国のお姫様を誘拐して、迷宮の奥底に閉じ込めた悪い魔法使いとその魔法使いを退治するために迷宮に乗り込んだ騎士の話を本で読んだことがあるのだ。

 その本の中で迷宮とは暗く、不気味な場所とされていた。

 凶暴な魔物たちがあちこちでうごめき、魔物に食い殺された人や獣の骨が散らばり、死臭が漂う。そんな場所で聞こえてくる音といえば魔物の唸り声か汚い所を寝ぐらとする気性の荒い鼠の鳴き声くらい。

 迷宮とは暗く、汚く、死と恐怖に満ちた場所である――と本の中では描かれていたはずなのだが……今、アリシエの目に広がっている光景は物語の中で描かれていたような恐ろしい光景とは似ても似つかないものだった。


(それになんでだろ。どこかで見た憶えがあるような気がする……)


 強い既視感を感じ、アリシエは目に映る景色と自らの記憶と照らし合わせてみた。

 そうして頭に浮かんだのは――故郷の村の光景だった。


(……そうだ。ミュルゼだ。ミーシャと一緒に遊んだミュルゼの村の裏山にそっくりなんだ)


 故郷の村と酷似した風景を前にして、アリシエの足が止まった。

 そんなアリシエの耳元でルードの声が聞こえた。


「……どうかしたの? 足が止まってるよ?」

「あ、えっと……私が想像してた場所と違って、びっくりしちゃって……」

「あの二人がどんな場所にいるかはさっき映像で見たはずじゃないか。なんで今更驚いてるの?」

「ご、ごめん。あの人たちのことを見てたけど、それだけで頭が一杯になっちゃって、周りの景色までは頭に入れる余裕なくって……」

「……ああ、そういうことか。だったらいいよ。まあ、君の身に起きたことを考えれば頭が回らなくなるのも無理はないか。泣き喚いたあげく、気絶しなかっただけでも良しとしないとね」

「…………」


 何やら酷いことを言われているが、臆病で泣き虫な自分の性格を考えれば、ルードの言う通りになっていてもおかしくなかった。

 それでもこんな風に嫌みを言われれば腹が立つ。

 だけど、ここでルードに言い返して彼の機嫌を悪くすれば、この先、彼の助けを得られなくなってしまうかもしれない。そうなれば困るのは自分だ。アリシエは言い返したくなる気持ちを抑え、ルードに尋ねた。


「ねえ、ルード。私が読んだ本には迷宮はすごく不気味で恐ろしい所だって書いてあったの。でもね、ここは全然そんなことなくて、怖くなるどころかとても落ち着くの。その……なんて言うか私のいた村の裏山にそっくりで……」

「そうだね。まさか、こんな場所になるなんて僕も予想してなかった」

「……? ルードは私と違ってここに来てるはずでしょ?」

「まあね、でも今はそのことを話してる場合じゃない。今の君は遺跡の侵入者と話し合うためにここに来たんだから、彼等と何をどう話し合うかを考えるべきだ」

「う、うん……そうだね」

「わかったならそのまま真っ直ぐ先に進んで。五分ほど歩いたら、あの二人の元へ辿り着くはずだよ」


 アリシエはルードに言われるまま、真っ直ぐに歩いた。

 どうしてここはミュルゼに似ているんだろう。

 わからない。ただの偶然なのか。それとも何か意味があるのか。

 それはわからないけど、ルードはここが迷宮であることを否定しなかった。だったらここは自分の故郷の村ではなく、遺跡の侵入者を阻むための『迷宮』なんだろう。

 どんなに穏やかで、心が和むように見えてもそれは見せかけだけのこと。

 あるいはそれすらも侵入者を欺くためのものなのかもしれない。


 ――迷宮とは死と恐怖に満ちた場所なのだから。

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