幕間:中毒者と王位保持者
VRTCG『ユニオンウォーズ』。通称”UW”。
その仮想現実世界のとあるカードショップにて一人の男子がパックを開けて、デッキを組んでいた。
燃えさかる赤い髪にさっぱりとした目つき。衣装は貴人の礼服だ。それに対して彼の口から出る息は疲労が染みついていた。
その男は最近発売された『大決戦!天獄戦争』のパックを開き、新しいカードとシナジーのあうカードを探しだし、新しくカードの入れ替えをしながら唸っていた。
「う~ん、う~ん」
彼の頭の中にあるのはつい最近の大きな大会でのことだ。
彼は残念なことにかなり上位まで食い込んだのだが、自身のグループの長とぶつかり、敗北した。
その経験が彼の頭の隅を牛耳っているのだ。
数回続けた結末だが、やはり負けの味は新しくても古くても舌には残る。頭にはもっと残る。でもその苦みと苦しみも分かるのは被害者だけなのだ。
そんな勝利でしか直せない病を背負った彼の背を叩く者が居た。
「ん?何だよ・・・・ぉ」
最近負けばかりが続いているせいで無意識的にも攻撃性のある口調になっていた彼を、その負け味をを覆す程の驚きが上塗りする。
立っていたのは黒いフードを深く被り、黒いローブを全身に身に着けていたアバターだ。
何の変哲もないアバター。だが、それは分からない人が見た場合の話だ。
「あ、貴方のような方が何故・・・・?」
黒ローブの男、――もっともその黒ローブは一貫してとある”資格”を保持したことのある人物に送られる運営側から直々に渡されたローブで、男はそれを着るにふさわしい人物である。
そんな人物が着る黒ローブ、その正体は――。
――初代”王位保持者”の証なのだ。
そう、彼が驚くのも無理はない。
なぜなら彼は、初代から五年間もの間王座を独占していたVRTCG最強格の男。
エトワールなのだから。
だがエトワールはそんな彼の驚きにあまり感心はなく、むしろ「大げさ」と性別に似合わない程の萌え声で持ってして、彼の敬意の暴走を牽制する。
「確かに俺は王位保持者だったよ。もう昔の話じゃないか。掘り返すのは止めてくれよ。恥ずかしいし、なにより俺はそんな敬意を向けられるのには慣れてないんだ」
「そんなことは!私のグループの前リーダーと私は貴方の勇姿に胸を打たれ、強くなる決心をしたのです!」
「それはありがとう。でも、流石に公衆の面前で土下座はしないでくれないか?俺は単純に用事があって来ただけだから」
「よ、用事ですか!私で良ければ何なりと聞いてください。可能な範囲の全てをお話します!」
「わ、分かった!分かったから!お願いだから、膝を着かないで!讃えないで!胸に手を当てて十字架をかかないでええええ!!!」
彼は、その男は重度のエトワール中毒者だった。
エトワールは反射的に叫び声をあげたのだった。
「エンデュミオンの弱点を知りたい・・・ですか?」
やっと何とか色々言葉を尽くして同じ土俵。――心理的にはエトワールが絶対的に上なのだが、それでも同じ質の椅子に座り、両者が向き合う形で質疑応答が行われた。
最初にエトワールの出した疑問に首を捻る男に、エトワールは簡単な経緯を説明しだす。
「あぁ、ごめん説明不足だ。・・・・俺の友人、っていうか弟子にあたる奴が最近になって”UW”を始めてさ。取り敢えず目標を”週間トップキング大会”の優勝にしてるらしいんだけどね。・・・ほら、今の大会は”あれ”じゃん?」
「だから、アイツが嫌がるような台詞とか過去とか教えて欲しいってことですか」
「あぁそうだ。――やっぱダメかな?そういう遠回りでずるい方法は?」
「いえ!確かに大会の優勝を牛耳ってるアイツが原因なんですけど・・・・」
口ごもる男にエトワールは続きを待つ。待つ姿勢を崩さない。その態度はある意味の防御であり、攻撃への転換でもあり――。
だが先に折れたのは男の方だ。エトワール相手に隠し事は出来ないと悟ったのだろう。
「超傲岸不遜で、相手を煽ることを当然の権利だと思ってるクソなので正直”弱点”らしいのはないですかね・・・」
「そうか」
淡白に反応するエトワール。萌え声のせいで緊迫感が欠片もない上、顔が隠れているので表情が読み取れない。
それに対して男は軽く顎に手を当てて考える姿勢を取ると、思い出しそうで思い出せないような、曖昧な声を出しながら呟く。
「まぁでも、変化って類いの話なら、・・・少しありますね」
「君相手に初めてアレが切り札を出してくれた事かな?」
「それもありますね。アイツの”迷宮魔王”の”魔王”部分の意味がやっと分かりましたから」
一回息を吐いて、もう一度肺を酸素で満たした男は、ゆっくりと小さな声でエトワールに言う。
「此処だけの秘密ですよ。・・・・アイツ、最近いつもの動きで勝つまでのターンが長くなってるんですよ」
「」
いつもの動きと言うのは、『ダンジョン・エクスプロード』を撃ったり、墓地にイーラゲートを落として復活させるまでの流れの話だ。
それが遅くなっている。それは一体どういうことか。
エトワールは真っ先にその意味が分かったようで、すぐに顎を引いた。
そんな些細な心情はどうやら男には分からなかったようで「気のせいですかね?」と前置きして。
「そんな秘密と言う程大層な事じゃなかったです。すいません、変に好奇心を煽ってしまって・・・。エトワール様には分かる私には分からないことがあるのかと思ってましたが、杞憂でしたかね?」
「多分、そうじゃないかな?相手を勝った気にさせて、その上ずんだ心をへし折る真似、平気でしそうだな、彼女は」
「口調の不安定さに参ってるのに、そんな変な事しないでほしいですよねぇ・・・・」
「分かる」
エトワールが顎を引き、男は妙に嬉しい気持ちになった。
そして男は、心の隅にとどめていたことを聞いてきた。
今の軽い同調がエトワールとの心的な距離を近づけたのだ。
「エトワール様の弟子、お名前を窺ってもよろしいですか?」
「ダメ。変に『二世』とか重すぎるあだ名付けられてプレッシャー与えたくないし、そもそも俺は弟子に正体を明かしてない」
「え、」
「変に先輩の威を借りてウザい奴になってほしくないからね。弟子は弟子らしく弟子らしい道を歩んでくれるといいなぁ。弟子、俺をライバル視してるみたいなんで」
「あぁ、それはごもっともです。失礼しました」
「うん、別にいいんだけどねぇって!だから土下座しないで!せっかく友人感覚でおしゃべりで来てたのに!!」
「すいません!私の数々の悪行!エトワール様への失敬!弟子様の気持ちも鑑みない発言失礼しました!何なりと私の頭を踏みつけてください!!!」
「あぁもうやめてって、言ってるだろおおおおおおおおおッ!!!!」
椅子から立ち、その場に額を打ちつけ、許しを懇願する男にエトワールが絶叫した。




