グループ参入
「・・・という訳で来ましたけれども」
「なんで僕まで・・・・・」
「いいじゃないレッドワーフ君も!せっかくグループに入れるのに、そんなフグみたいな顔をするのは止めなさい!」
アクセサリーや副次効果のあるコスチュームが売られているVRTCG”UW”の繁華街にて。
カグヤ、レッドワーフを引き連れたセツラが繁華街の大通りを歩いていた。
げんなりしながら結局カグヤに泣きすがられて陥落してしまったレッドワーフの愚痴を耐え、新しい可愛い格好いいコスチュームに目を奪われているカグヤの管理と、忙しい身の上にも関わらず、セツラは楽しそうだ。聖人ではなかろか・・・?
「んで、どこに向かうんですかね?カグヤと先輩の相手とか勘弁してくださいよ」
「そういうレッドワーフ君はカグヤちゃんに甘々だよね?「付いて来る」って言ってバックレればよかったんじゃない?」
「無茶言わないでくださいよ。カグヤに泣きつかれたら放っておけないし、なにより自分の拒絶で泣かれると罪悪感が・・・・」
「優しいねぇ意外と。そんな優しさを私にも向けてくれてもいいんだよ?」
「先輩は勝手に一人で泣いて、一人で立ち直るから必要ないでしょ。それに先輩でしょ。年上なんだだから我慢も出来るでしょ?」
「実際そうなんだけどね、う~~ん、納得いかねぇ~~」
唸り声を上げながら頭を抱えるセツラをよそに、レッドワーフは「あ!」と声を上げる。
声の向いた先にあるのは”グループ・ホテル”と銘打たれた街角に建っている建物だ。
白の外壁に赤と黄色の看板。そして入り口と出口からアバターが入っては消えていくと、足通りの無くならない建物で、
「さぁって、着きましたよぉ!グループを設立、参入、解散の全てが出来る建物、”グループ・ホテル”に!!」
「わぁ~~!」
「でっか・・・・」
遠くから見ても分かりやすく、近場から見れば圧倒的な存在感が漂う建物”グループ・ホテル”。
ガラス戸を押しのけて、その建物の中に三人が足を踏み入れる。
その中はまさに――――、
「おいおいおい!そこの粋な少年!ウチのグループ”ちくわ大明神”に入らないかい?」
「そこの純粋な蕾たちよ。僕の率いる”黄金の騎士団”に入って僕の横顔を近くで見ないかい?」
「男おおおおおおおおおおおお!!!男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男!!」
「何か一つのデッキに特化したいなら僕らのグループ”ありのままの自分”がおススメですよ」
「古い環境より新しい風!相手の妨害なんて陰キャなやり方を撲滅する。時代は特殊勝利!俺らの”EX主人公”に入らねぇか!!」
「我々はエトワール様の意志を継ぐ”妨害”デッキの守護者の大型グループ、”妨害皇の意志の後継”だ。妨害なくとも相手デッキを妨害する。そんなやり方を一緒に研究しないかい?」
まるで酒場だった。
甲子園のグラウンドくらい広いロビーで、沢山のグループが自身の名を轟かすために募集運動をしている。
それに集まり、募集運動と言うか演説をしているグループを中心に観衆が集まっているほどだった。
見たところ派閥が存在しているのか、エトワール賛同派とエトワール否定派が居るらしい。
先頭に立って大声を張り上げているのは”正義・努力・勝利・陰キャ〇ね!”みたいな脳内スリザリンみたいな熱血男。赤い逆立った髪にやけにキレのある格好いい目つきだ。
それに対して両隣に中々格好いい黒装束を配置している男は白い髪を揺らしながら、その優しい青を携えた瞳を持ち、怒れる否定派の声を真っ向から否定していた。
「分かるか!?こんなイケメンだがやってることは相手の展開の妨害だ!妨害なんて相手のUWのやる気を失わせてるだけだ。本当の陽キャならこんな妨害なんて陰キャ戦法は取ってねぇ!エトワールとかいうクソも同じ陰キャだ。性質が悪い。あんなのを量産だなんて俺たちが許さねぇ!」
「相手のLPを先に0に削った方が勝ち。そのUWに置いて、相手の努力の全てを無駄にする特殊勝利こそ害悪だ。カードゲームの心理戦は素晴らしい。だが、それはお互いが相手のLPを削ることを目的とした場合だ。特殊勝利ではそんな心理戦が無駄となる。UWの素晴らしさを潰しているのはどっちだ?」
「長文並べねぇと自分の意見もいえねぇのか!?毎日毎日「エトワール様」「エトワール様」と世迷言のように呟きやがって。変な新興宗教をVRで流行らせるんじゃねぇ!」
「それこそ勘違いだよ。別に新興宗教じゃない。宗教法人だっていないし。・・・それに敬意を払う人相手に対して「様」呼びはおかしなことじゃないだろう?」
「あんだとぉ――――ッッ!!!!??」
どうやら否定派。煽れることはできるが煽られることに慣れていなかったようで、その顔がどんどん赤黒く染まっていく。
一触即発ともいえるそんな空気の中、重苦しい空気を一人の少年がぶっ壊してきた。
「五月蠅ェ、どけよ。ここで軍隊引き連れて演説とか迷惑極まりねェンだ。―――喚きてェンなら他でやれ」
業ッと、赤らしき赫いオーラを放つ人物。―――セツラ、カグヤ、レッドワーフの三人の前に居る男がそう腹からの声を響かせる。
破れた黒いフードに黒装束。先端の髪色だけが違う包帯男子だ。
その視覚の暴力のような見た目に、その少年を中心に他アバターが引き、文字通りオーラでも放ったかのように円が出来ていた。
そんな少年につかつかと大股で近寄る熱血男子。
暴力行為がNGなのは分かっているようで、その鋭さを増した眼光をその少年に叩きつける。
「あぁ!?今なんて言ったんだオイ。俺が邪魔だって?五月蠅いだって?こっちは大事な話をしてたんだ!耳ふさがってんのかオイ!?」
「御大層な理由がありゃァ、一般人を巻き込んでも良ィだなンて、この世の中心にでもなったつもりか?ふざけろ三下。エトワールも確かに陰キャだったが、こんな風に迷惑はかけたりしねェ奴だったぞ」
「―――――ぐ!」
ギリッと奥歯を噛んでその少年から距離をと取る。エトワールと比べられるのが気に障ったのだろうか、連れのアバターに「行くぞ!」と声を掛けて足早に去って行った。
そして、残りの賛同派はと言うと。
「正確には注意を受けたのは僕も含めてだと思うよ、否定派。ここは彼の言う通りだ。すこし熱くなりすぎたようだ。アバターの皆さん、ご迷惑をおかけしました」
既に去ってしまった否定派を思いつつも、その場で丁寧な謝辞を述べる青年に他の観衆アバターが手を叩く。
先にクソを見てしまうと、何故かそれよりもマシな奴が大分マシに見えるという奴だ。
「次から気を付けろよ。・・・・あの否定派、一回〆とくか・・・」
ボソッと呟き、足早に否定派の後を追う少年を尻目に、賛同派がその謝辞からさらに言葉を繋げて自身のグループの募集運動を再開する。
そんな一部始終を見終わり、セツラによって自由行動を封じられたカグヤが呟く。
「割と変わった人が居るんだね・・・・」
「信者に様子見、ガチアンチとは・・・、エトワールも大変だな。このこと知ってんのかな?」
レッドワーフが呆れ声を出しながら、ここにはいないエトワールを思う。
割と人気者も大変だという事だ。・・・王位保持者級の人なんて特に。
カグヤとレッドワーフが物珍しそうに賛同派の演説を聞いていると、ふと両方の肩に手が置かれた。
振り向くと、頬を膨らませた可愛らしい怒り顔の金髪押しのセツラが居て――、
「私のグループに入るんでしょうが!」
「「あ!」」
ふたりして現実に戻された。
「私のグループは、・・・・これだね!」
セツラの指し示した画面。受付の”グループ参入申し込み”の画面の一つ。――”遊戯部”である。
「あぁこれ・・・・」
「これに参入って、どうすればいいの?」
「参入ボタンタップして、で、分類は『道場破り』、『入隊』、『招待』のどれかがあるけど。――『招待』をタップして、パスワードに私の名前をカタカナとひらがなで一回ずつ書いて。そしたら参入できるから」
「めんどくせぇ!」
うだうだと文句を垂れながらも『招待』をタップし、パスワードにセツラのの本名をカタカナとひらがなで一回ずつ書いていくカグヤとレッドワーフ。
そうして無事に参入が完了した二人に機械音声が画面から流れた。
『アバター名”カグヤ”、”レッドワーフ”が『遊戯部』に招待されました。おめでとうございます』
「わぁ!これで沢山経験を積んで、先輩をぶっ飛ばせb・・・リーダーの座から引きずりおろせばいいんだね!!?」
「何その話、私聞いてないんだけどッ!!??」
グッと拳を握るカグヤに、今度は涙目のセツラが縋り付いてきた。




