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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「天才というのは、いつだって孤独でいたがる」
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第28話「虚心坦懐」

「よくあることだったみたい。会社の後輩を招いたり、奥さんの知り合いを招いたり、騒がしいことが好きだったんだって」


「それは裏が取れてるわ。近所の人も、そう言ってたし、中には招かれたことがあるって言ってた人達もいたから」


「都のマラソン大会に家族で出るって練習がてらランニングしてた時に偶然会って、昭雄さんの知り合いから、工藤一家との知り合いに変わったみたい。走り方に詳しい人だったから、もっと話をしたい、なんてことになって家に招いたんだって。

 殺害される前の日は大いに盛り上がったみたい。いい人にしか思えなかったって言ってる。それで翌日の朝は早朝から一緒に走ることになってて……」


「それが、あの時間に家族皆で朝食を囲んでた理由?」


 狼谷君の言葉を遮るように問い掛ける。静かに首肯した彼は更に続けた。


「朝食を摂り終わった後、徐に台所に足を運んだ犯人は包丁を手にする。昭雄さんを手に掛け、次に奥さん、霊体になった状態で子供達が惨殺される様を眺め続けていたみたい」


「……無念、だったでしょうね」


「大切な家族を目の前で殺される恐怖は、自分が殺されるよりも怖いものなんだって」


「絶対捕まえる」


「当たり前でしょ。アンタは刑事なんだから、そうしてもらわないと困る。わざわざ、こんなところまで来たんだし」


「で、どうするの?」


「どうするも何も動機が分からないからには、現行犯で捕まえて貰うしかない。つまり自供させるしかないんだよ」


 自供、それはとても難しいように思う。凶器を突き付け、トリックを突き付け、それでどうする。動機なるものを突き付けても、自供を引き出すのは非常に困難なのだ。ましてや任意でも引っ張れないとなると至難の業である。道端で訊ねて簡単に答えてくれるのなら、こんなに苦労しない。


「早朝の犯行はゴミ捨て場に凶器を捨てる為。犯行時に着ていたウィンドブレーカーの血をシャワーで流して、雨の中を走っていれば濡れたウィンドブレーカーを着ていても不審には思われない。早朝の降水確率は八〇%、いつも走ってる人間がコースを変えたところで誰も気にしない。でも問題が発生した」


「問題?」


「犯人も結構馬鹿でさ、替えのウィンドブレーカーを持っていかなかったわけ。つまり凶器は捨てられても、ウィンドブレーカーは捨てられない。だから後日、違うゴミ捨て場に行って捨てたんだ。それで回収してきたのがアレ」


 玄関に置き去りにした狼谷君からのプレゼントを彼が親指で指す。背にある紙袋を横目で確認しながら、私は再び彼へ視線を戻した。


「じゃあアレを調べてDNAが一致すれば……!」


「だから、どうやって犯人を引っ張るの? 元が取れなきゃ一致のさせようもないでしょ」


「そうだった……」


 肩を落として脱力したようにテーブルに突っ伏す。思った以上に強く打ち付けた額が、厳つい効果音を告げていた。


「でも、やってみる?」


「なにを?」


「俺に任せてくれるなら自供させてあげる」


「……それは嘘?」


「俺は霊に関することで嘘は吐かない」


 ニコリとも笑わない彼が平坦な声音で紡ぐ。信じていいのだろうか。彼の言葉は八割から九割が嘘である。けれども、そんな彼にも信念はある筈だ。


 何色にも染まらない漆黒の瞳が映し出すのは、一寸先も見えない闇なのだろうか。それとも、その先に一筋の光があるからこそ、犯人確保に協力してくれるのだろうか。


「なら信じる。だから協力して」


「高くつくよ」


「か、覚悟しておきます」


 馬鹿正直と散々言われた。彼には幾度も馬鹿にされた。ならば今更間違えたところで大したことではないのだろう。彼が人を欺くと言うのなら、私は人を信じよう。勿論、嘘吐きな彼のことも。

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