第24話「虚勢を張る」
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凶器は包丁。現場には一般的な型が一本無い為、犯人が持って逃走したものと思われる。また被害者らは息絶えた後も執拗に刺されている為、怨恨——
「なんか納得いかないのよね」
「何が?」
一課のデスクで資料片手に項垂れる。空調の利いた室内は過ごしやすく、微かな珈琲の薫りが漂っている。普段は鼻に突く加齢臭もないし、煙草の匂いもない透徹は、息苦しさなど感じなかった。
捜査は二人一組が鉄則だ。それは勿論、留守番組にも適応される。私を庇ったことで普段は先輩刑事と共に捜査に参加している蟹江君も雑務を押し付けられていた。
「なんかゴメンね。私のせいで……」
「ん? ああ、そんなことはいいんだよ。それより何が納得いかないんだ」
気にするな、とでも言いたげに彼は資料に目を落とす。先を急かされている気がした私は、そのまま続けた。
「動機は怨恨ってことになってるじゃない? でも、それって本当なのかな」
「こんだけ滅多刺しなら間違いないと思うけど」
「そうじゃないの。私が言いたいのは……」
「これは随分と凄惨だな」
清澄な声音に肩が撥ね上がる。慌てて首を回すと、そこには犬養さんがいた。相変わらず豊満な肢体がスーツから見え隠れしている。私と蟹江君は慌てて立ち上がり敬礼した。
「「お、お疲れ様です!」」
「いい、いい。そんなに固くなるな。今日は、あの猿はいないな。じゃあ特別に協力してやろう。未来のエリート様に貸しを作っておくのも悪くない」
「え?」
まず座れ、とでも言いたげな嫋やかな指先が椅子を指差す。指示に従い腰を下ろすと、彼女はデスクに腰を預け蠱惑的な曲線で形作られている足を組んだ。ストッキング越しでも分かる白皙が憎らしい。
「言ってみろ、その違和感とやらを」
「は、はい。えっと、おかしいなと思ったんです。この殺され方なら怨恨でしょう。ですが、子供までこんなに滅多刺しにするものでしょうか? 遺体は検死の結果、順番に刺殺されたことが分かっています。父、母、娘、息子。この順番から察するに、恨まれていたのは父となります。ですが、現場の状況から一人ずつ殺されたのが分かるにも関わらず、最後に殺された息子まで、こんなに刺す必要はあるでしょうか?」
「何回ずつ刺されてたの?」
「父が二十三回、母が十八回、娘が二十回。息子が十五回です」
「二十回腕を上げて下ろすだけでも結構な運動量だ。普通は、こんなに刺さないよな」
「そうなの。仮に恨まれていたのが父だったとしても、その子供にまでこんなにするものかな」
「でも、こうとも考えられないか? それほど被害者の昭雄さんを恨んでいたから、その憎悪を妻や子供にも向けた」
「蟹江君、今回は陽正の言うことに一理あるな」
妖艶な笑みが降り注いでくる。私達は、それに生唾を呑み込むと続きを待った。




