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異世界復讐代行『その恨み、晴らして見せます』  作者: 馬汰風
第二部「代行屋、騎士団長殺しを探る」
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第五話「3人目の住民、ディムロスの意見」

 でぃーちゃん、いけ好かない男、3人目の住人、ディムロス、ディム──圭が貴族側からの情報を得るためにコンタクトを取った男の呼び名だ。その呼び名の通り、彼と出会った圭の周りの人は大抵彼を嫌っているか苦手意識を持っている。圭に雇われているマラリーナの旅司祭のアリスは、誰にでも平等に接する傾向にあるため、親しげに話しているが、それ以外の人間は全滅と言ってよい。愛想の良いラーフィリスですら苦手に思っているのだから、その性格はろくでもないだろうと想像に難くない。

 圭が手紙を出して1時間後には、彼の使いの者が隠れ家で待っていると伝えに来た。自分でコンタクトを取っておきならが、圭はあまり気が進まなかった。彼自身もディムロスには苦手意識を持っていたからだ。


 治安の良い南地区にある、もう1つのアジト、というより図書館へと圭は向かった。完成当初はテンションが上がっていたため、アレキサンドリア図書館と大層な名前を付けてしまったが、ラーフィリスに白い目で見られて後悔していた。黒歴史というのはついて回るもので、その呼び名を気に入ったアリスに連呼されるたびに羞恥で顔が赤くなる。

 ディムロスはその図書館に住む3人の住民の1人という事になっている。しかし、彼は数多くの隠れ家を所有しており、実際のところは隠れ家の1つとして活用されているだけだ。そのため、しっかりとアポイントメントを取らないと彼とは会えない。


 図書館に足を踏み入れると、玄関では1人の男が壁に背を向け立っていた。その男を警戒するように、アリスの護衛兼暇つぶし相手に雇った獣人──《碧い牙》が反対側の壁の近くに立っていた。


「ケイ、カ」

「お邪魔しています」


 名前を呼んだだけの<碧き牙>に対して、男は頭を軽く下げて挨拶をした。対照的な対応を行った二人だが、壁は背にしているだけで背中をつけておらず、互いに得物である槍を手元に用意していた。

 共に玄関を警戒しているように見えるが、実質はお互いを警戒しており、必要なら一撃を加えることができるようにしていた。

 妙な緊迫感を出している玄関に呆れつつ、圭は奥に入って行った。なお、男はディムロスの護衛である。


 奥へと進むと、トレイを持ったアリスが図書館から出てきた。圭の存在に気づくと、両手を大きく上げて歓声を上げた。


「うぉう! けーちゃんだ! おっそよー↑」

「おう、アリス。おそよ、おそよ」


 久々に圭に会えてテンションが上がったアリスは、そのまま圭に抱き着いた。アリスを抱きしめると、歳に似合わない豊満な胸が、圭の胸にぶつかってでつぶれていくのを感じる。さすがに恥ずかしさを感じて、圭はすぐに抱きしめるのをやめた。


「むぅ……もっとけーちゃんは来ないとだめだよ↑」

「ああ、わるかったよ」


 独特のイントネーションでしゃべるアリスに、圭は苦笑しながら返事をした。ついでにブルーブラックの長い髪をなでると、アリスは嬉しそうに声をあげた。


「ところでアリス、ディムは来ているか?」

「うん! でぃーちゃんが珍しく来たからお茶を出したんだね↑」


 トレイをくるくる回して嬉しそうにアリスは話した。


「そっか。アリス、ちょっと悪いんだけど、ディムと内緒の話があるからしばらくは図書館に入らないでくれ。あとで、お茶を飲むから俺の分も食堂に用意してほしい」

「えぇー、そんなぁ………もう、わかったぁ↓」


 食堂に近づかないように言うと、アリスは不満そうな声をあげて頬を膨らませた。文句は言うが、聞き分けは良いため、素直に図書館から離れていった。圭はアリスが離れていくのを見送ってから、図書館の中に入った。


「おい、ディム。俺だ」

「わかってるよ、ケイちゃん。キミが入ってくるところは、ちゃんと入り口から見ていた」


 図書館に入ってディムロスを呼ぶと、彼は奥から現れた。右手には光り輝く鏡が浮いている。『光の回廊』と呼ばれるラーサス神の加護により生まれた魔法で、光を屈折させることで、遠くの景色を見ることができる効果を持つ。入り口から見ていたというのは嘘ではなく、この魔法を使ってディムロスは玄関の光景を見ていた。

 加齢による脱色ではない、綺麗な白色の髪。ラーサス神の加護を強く受けているその証は、ルーファスと違ってまっとうなラーサス信徒に見えた。首から下げている聖印は旅司祭であることを示している。


「それでどうしたのかい? 僕は意外と忙しいんだぜ」

「聞きたいことがあった」

「聞きたいことねえ……」


 ディムロスは魔法を出していないほうの手に持った本のページを、片手で器用に1枚めくった。圭はその本を奪い取ると、本棚へと閉まった。本の内容は『六神教の神々の加護と、魔力体系に関して』という本だった。六神教を神秘のヴェールで覆い、神秘主義によって民を支配する国々によっては禁書扱いになる本だ。


「ひどいなぁ……人が本を読んでいるところ邪魔するのは、犯罪的な行為だぜ?」

「本を読んでいいのは六つの曜日だけのはずだぞ?」


 この国において、1週間は6つの曜日に分類される。そのまま数字で一つ、二つと数えていく分類で、六つ目は基本的に安息日という扱いをされている。すなわち、地球で言う所の日曜日に当たる。かつて、圭がディムロスと交わした契約において、図書館の本を閲覧していいのは六つの曜日のみで、1冊だけ借りていいと定められていた。それを違反するような行動を圭は咎める。


「僕を呼び出した対価だよ。このくらいいいだろう、けち臭いな」

「お前、勝手にアリスを事件に巻き込んだだろ」

「<碧い牙>ちゃんが言ったのかい?

巻き込んだなんて人聞きが悪いなあ、僕はちょっとお願いをしただけだぜ。

そしたら、善意で手伝ってくれただけだよ。そう、あのコウナンの名探偵と呼ばれる彼女が!」

「その呼び方、なんかのパクリっぽくてやばいよな」

「名探偵コ──」

「やめろ」


 圭は後から聞いた話だが、ディムロスが勝手にアリスを殺人現場へ探偵として送り込んだと、<碧い牙>から報告があった。今回の呼び出しはその借りで返してもらおうと──ついでに抗議の意味もある──思っていたが、暖簾に腕押しといった様子だ。

 なお、コウナンの名探偵は地名からくるあだ名で、圭が考えたわけではない。圭の出身である日本には、近似した名前を持つ漫画とアニメが存在するが、それは人名から由来されるもののためこれはパクリなどではなく、偶然の一致にしか過ぎない。


「それともなんだい? キミはアリスちゃんに24時間この箱庭にいろっていうのかい?

そいつはとんでもない考えだぜ、圭ちゃん。少女監禁事件って言っても過言じゃないね。

アリスちゃんには自由が許されないと、傲慢だね」

「お前がどんな世迷言を並べ立てようと、アリスを巻き込んだのは変わりないぞ」

「アリスちゃんをここに縛り付けていることにも変わりないよね?」


 2人はしばらくにらみ合いを続けたが、埒が明かないと思ったのか圭が先に緊張を解いた。


「こんな言い争いをするためにお前を呼んだわけじゃない。

黒色槍騎兵団の騎士団長と副団長が死んだ話は知ってるか?」

「小耳には、はさんだね」

「なら話は早い、あれがもう1人の副団長の仕業だとして、追及することはできるか?」

「無理だね」


 にべも無く否定されて、圭は鼻白んだ。とはいっても否定されるのは予想通りでもあった。ここから突破口を探すのが圭の仕事だ。


「侯爵はヴァディム派なのか?」

「もう1人の副団長ってそんな名前だっけ?

まあ、そうだね。死んだ方は前当主派だった。生き残った方は現当主に近しかったはずだね」

「じゃあ、現当主の指示で2人は殺されたのか?」


 想定外の質問だったのか、ディムロスはきょとんとした後、圭を嘲笑った。態度一つ一つが癪に障る男だなと、圭は機嫌が悪くなる。


「いやぁ、ケイちゃんは想像力がたくましいよ。

当主までがグルならもっときれいにやるさ。それにそれは馬鹿がすることだ。

ケイちゃん、騎士団長、副団長っていう存在はそう簡単に変えられるものじゃないんだ。

人望、能力、人格、コネ、才能、どれをとっても一朝一夕で作り出せるようなものじゃない」


 出来の悪い生徒に教えるような口調でディムロスは説明していく。怪物だけでなく、ドラゴンといった幻想種もいるこの世界では、戦闘人員というのは簡単に得られるものではない。現代戦争で例えるなら、特に歩兵で空母や戦車、ヘリコプターといった過剰戦力と戦わなければいけない世界なのだ。そして、この世界の人間は時として、それを可能とするほどの力を一人の人間が持つこともできる。

 簡単に言ってしまえば、この世界の人間の能力は、振れ幅が大きいのだ。それ故に、騎士団長、英雄といった希少な存在は、当然誰にでもなれるわけではなく、生まれた時から成れるかが決まってしまう。


「侯爵だってきっと困ってるぜ?

騎士団長、副騎士団長を失った時点で黒色槍騎兵団は一気に戦力ダウンだ。

この噂が広まったら、侯爵の領地に大量の野盗が発生するだろうね」

「それ故に、ヴァディムが怪しくとも罷免できないか……」

「そうだね。そして、そいつの凶行だとしたら、うまくいけば弱みを握ることができる。

そうなってしまえば、コントロールが利く人間が騎士団長になるわけだから、侯爵にとってもメリットがあるわけだ」


 騎士の主従関係は、必ずしも主人が実権を握っているというわけではない。時にして従者の方が強い時もある。例えば、ある国の王は美しい宮廷道化師をかわいがっており、その道化師のいう事を何でも聞いてしまうと蔑まれている。だが、実際にはその宮廷道化師は闇ギルドの支配者であり、暴力と裏社会の力を使って意のままに王をコントロールしている。

 そんな例えを出すまでもなく、スプリングス騎士団長と、侯爵の関係もいびつな主従関係を示していた。前当主からのお目付け役を任命されているため、侯爵家のお抱え騎士団であるにもかかわらず、政策に口を出すことも可能だった。


「じゃあ、ヴァディムを失脚させてザックの復権は無理か……」

「まあ、国民の多くがその疑念を抱くようなったら話は変わるだろうね」

「そんなことできるのか?」

「できるかどうかはこれから考えるよ。

だからキミが知っている事を教えてくれよ」


 国民の多くがヴァディムを怪しく思う、そんなことが可能とは思えなかったが、妙に自信がありそうなディムロスを信じて、圭はこれまで調べたことを説明した。ディムロスは話を聞くたびに余計なことを言うが、一通り話を聞くと、満足したように頷いた。


「じゃあ簡単だ、ヴァディム……だっけか? そいつが横領をしていた。これを明らかにすればいい」

「それはそうだろうが、証拠が残っているとは思えないぞ」

「馬鹿だなあ、なんでヴァディムが今もザックの娘を追わせているんだと思うんだよ。

騎士が特別任務を与えられた時、資金調達をするのに騎士団長の許可をいちいち申請したら面倒だろ? 大抵は騎士団の名前で令状を発行するんだ」

「令状……?」

「そこに、『ソロヴァ銀貨〇〇までの使用を許可する。ヴァディムが横領しているか操作せよ』って書いてあったら面白くないかい?

養女1人、放っておいてもいいけど、万が一危険な切り札を持っていたらまずい……ってところじゃないか?」


 そんな都合が良い物があるかわからないが、もし存在すれば石を投じることが可能になる。予想以上の成果が上がって、圭はディムロスを呼んだ意味はあったと思った。


「なるほど、わかった参考にする。

助かったディム、今日は好きに本を読んでいいぞ」

「おい、待てよ。ケイちゃん」


 用件が済み、(きびす)返して図書館を後にしようとする圭を、ディムロスが鋭い声で引き留めた。振り替えてディムロスを見ると、からかうような笑みが顔に張り付いているディムロスがいた。


「ケイちゃん。僕の話は終わってないぞ。

アリスちゃんをここに縛り付けている事、これに対する返事をくれよ」

「縛り付けているわけじゃないが、アリスはまだ子供だ。誰かが守ってやらないといけない」

「甘ったれんな」


 ディムロスの顔に浮かぶ笑みは、嘲笑と言った様子だ。圭を侮辱するように、軽蔑するように、嫌らしい笑みを浮かべている。


「この鳥かごにキミはアリスちゃんを監禁しているだけさ。

そして、ケイちゃん。それはキミ自身もそうだ。

人望、能力、人格、コネ、才能、才能、才能、才能!

才能だけは一朝一夕どころか、幾月を重ねても取り戻せない。

エルドラード神と、マラリーナ神の強い加護を持つ、コウナンの名探偵、コウナンの怪物、アリス=ヴァレンシュタイン。

無限大の魔力を持つ、この王国だって火の海に溶かすことができる怪物、ケイ=フジムラ。

キミたちはこんなところでおままごとをやっていて許される存在じゃないんだぜ?」

「俺の生き方は俺が決めるし、アリスだってそうだ。

言いたいことはそれだけか?」


 圭は取り合わずに、図書館から足早に去った。


「宿命からは逃げられないぞ、ケイちゃん」


 再びディムロスから声をかけられるが、今度は振り向かずに圭は図書館を後にした。


17/5/29 誤字修正

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