エピローグ
この話もようやくエンディングです。途中でぶち切れているようでも、これで終わりです。
「帰るよ、未来」
月灯が言った。
「帰る? どこへ」
あたしは振り返らずに訊き返した。
「地下都市よ」
当たり前のように月灯が答えた。
「なぜ? 地下に帰って何になるの? 皆は地下に帰ればいい、あたしは地上に残る」
あたしは俯いて嗚咽を殺しながら言った。地下に〝獏〟はいない。〝獏〟がいるのは地上だ。あたしは地上で〝獏〟と一緒にいるんだ!
小さなため息が聞こえた。
「……未来、あんたの名前の意味は何?」
「え?」
顔を上げて月灯りを見た。怒ったような顔で月灯があたしを見ていた。
「あんたの名前は過去でも現在でもないでしょ。『未来』でしょ! 〝獏〟があんたに『未来』ってつけたのは、なぜ? 前を向いて進むように、前を向いて進めるように、ってことでしょう?」
「……」
「なのにそのあんたが、現在で足踏みしててどうするの? 〝獏〟は何て言ってた? 『全ての生き物で地上をまた賑やかにしてくれ』って、そう言ったでしょ? 誰がそれをするの? あんたを含めた、あたし達がいなきゃ、地上の本当の姿を知ってるあたし達がしなきゃ、誰が出来るの?」
腰に手を当てて仁王立ちしている月灯の肩越しに、微かに星が光った。それを見た途端、以前〝獏〟に教えてもらった事を思い出した。あれは地上に出るようになってすぐの事だ。
あの時、満天の星を見上げながら〝獏〟は言った。
「本来、星は煌めいたりしません。星は――恒星は自ら光を出しますが、瞬いたりしないんです。瞬いているように見えるのは、地球の大気の揺らめきと光の屈折のせいです。大気はいつも動いているんです。地球の自転や空気の温度差によって風が起こるでしょう? 風は大気の動きそのものです。だから星の瞬きは、地球の瞬きでもあるんです」
地球の瞬き――。
地球が、〝獏〟が、あたしを見ている。見て笑っている。――ふと、そう思った。
――しっかりしてくださいよ。
そんな声まで聞こえてきた。
――私はずっと側にいますよ。
……そうだった。〝獏〟はいつでもあたしの側にいるんだった。あたしが地球を離れない限り、地下にいようと、地上にいようと、〝獏〟は一緒にいるんだった。
あたしは月灯を見上げた。それから地下への入り口に固まっている中間達――夢、大地、生命、炎、香、光、緑、愛――を見た。あたしを信じて、ここまで一緒に来てくれた仲間達。
そうだ、あたしはもう独りじゃない。独りぼっちの心を抱えて『箱』の隅にいなくてもいいんだ。たくさんの仲間と、開かれた空がある。行きたい時にどこへでも行けるんだ。
「……そうだね、あたし達がしなきゃ……。うん、〝獏〟に頼まれたんだものね」
「そうよ。〝獏〟はもういなくならないよ。ここへ来れば必ず会えるんだしね」
月灯が微笑みながら頷いてくれた。
「地下へ戻ろう。そして沢山のの仲間を連れて、またここへ戻ってこよう!」
あたしが立ち上がると、皆がほっとしたように笑った。
あたしは最後に、今は〝獏〟と同じ色になった空をもう一度だけ振り返った。
長い話は向いてないと、自覚を新たにしました。途中で何度もだれてしまいました。こんな話を最後まで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。どれだけ感謝しても足りません。




