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東京魔法戦線 〜人に魔法を撃てない魔術師の成長録〜  作者: いぬぬわん
第2章

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第49話 枷

近衛の指示の声だけが耳に届く。


「よし、次は戦って見えた相手の長所と短所を教えあえ」


声だけ残して、近衛たちは一歩引き、皆それぞれ話始める。


「長所と短所……」


息がまだ荒い。

さっきの戦いの感触が腕の中に残っている。


「あ、じゃあその前に私の魔法の種明かししちゃおうかな」


影野は軽く手を挙げて、俺の前に立ち直った。

戦っていた時より柔らかい表情。


「私の魔法は〝影魔法〟って言って、

自分の影を経由して魔法を出したりするの」


「影魔法……」


「でね、影魔法って実は〝生身には効かない〟の」


「……え?」


思わず短く声が漏れた。

避けたはずの攻撃がどうして当たったのか、

まるで噛み合わなかった部分がそこに引っかかった。


「でも……それだとさっきのは……」


影野は俺の疑問を拾って、少しだけ指先で床を指し示した。


「〝生身〟には効かないだけで、相手の〝影〟は別だよ」


そして俺の影を見て、笑って付け足す。


「私の攻撃は全部、そっちに当ててるの。

それがそのまま体に返ってきてるだけ」


やっと理解が追いついて喉が鳴った。


「でも最後の奴は……?絶対に斬ったはずなんですけど」


オレは思わず口に出してしまった。

あれは本当に当たった手応えがあった。

影野に向けて踏み込み、腕の角度も間合いも完璧だった。

避けられる距離じゃなかった。


影野は「んー」と一拍置いてから指先をくいっと動かした


「あー、アレはシンプルに属性付与だよ。

全身に属性付与して攻撃を避けたの」


影野はそう言って自分の腕を軽く示す。


「全身……に?」


言葉の意味は分かるのに、イメージが全然追いつかない。


俺は足にずっと付与していて、姫華も刀に。

部分的に属性付与するのが〝当たり前〟になっていて

全身なんて発想すらなかった。


影野は肩をすくめて続ける


「そ、全身。ただ消費魔力すごいから、〝ここぞ!〟って時しか使えないけど」


影野は手のひらをパチンと鳴らした。


「あの時はあんな強力な技あるって思わなかったからさ……

〝あ、これは負ける〟って思ったから使ったんだよ」


確かに、あれを正面から耐えられるとは思えない。


「使える限りは最強の緊急回避って事ですね」


「そゆこと!」


影野はそのまま自分の影に指を滑らせた。

影がほんの一瞬だけ波打ったように見える。


「説明はこれくらいにして、と。まずは陽翔くんの長所から!」



一つ咳払いして、影野は指を俺の方へ向ける。


「陽翔くんの一番の強みは、

〝属性付与した時のスピード〟だね」


影野は実際に戦った時の動きを思い出すみたいに手で軌跡を切った。


「さっきのもそうだけど、瞬間的に距離詰められると普通に反応できない。で、そこに殴りが乗ってくる」


「単純だけど、あの〝速さ+打撃〟って組み合わせは近距離だと相当な武器だと思う」


「それに最後の居合……あれは強力な一撃だったね!」


そこまで言われて、正直少しだけ胸が熱くなった。

戦闘で褒められるのは嬉しい。


「ありがとう……ございます!」


「ただ、短所もはっきりしてる」


影野の指が俺から少し離れた空間を指す。


「〝牽制できる魔法が無い〟」


「……」


「だから相手に近づかなきゃ何もできない。

距離取られると詰むタイプ。

今回は私が近距離戦タイプだったから、良かったけど、仮に遠距離魔法使いだったら地獄だと思うよ?」


それは自分でも痛いほど分かってた。

実際近寄るまでにどうしても時間がいる。


「……ですね」


影野は今度は自分の胸を指で軽く叩いた。


「じゃあ次は私ね」


陽翔は息を整え、頭の中で戦っていた時の影野の動きをもう一度なぞる。


「長所は……まず〝影魔法がシンプルに厄介〟でした」


「影を経由して攻撃されると避けた意味がなくなるし、理屈がわかるまでは対処できない。

攻撃ルートが感覚に一致しないのが、強かったです」


影野は嬉しそうに頷く。


「それに体術が普通に強い。

身体強化もLv2で、影で牽制しながら詰められると対応が難しかったです」


「うんうん、それは狙ってる」


「逆に短所は……決定打に欠ける……ですか?」


影野の笑みが少しだけ苦笑に変わった。


「今は体術でカバーしてる感じだけど、

体術で負けた瞬間に後が無くなる。

そうなると勝てる可能性が一気に低くなる」


「……見る目あるねぇ」


影野は肩をすくめた。


「私の今の魔法だと牽制は出来るけど

〝倒し切る〟って場面ではどうしてもパワー不足」


「僕も似たような感じなんで……わかります」


「そだね。お互い長所と短所がハッキリしすぎてる。

でも、あの居合は強力な一撃だと思うよ」


戦いの後にこうして客観的な意見を聞くと、

さっきまでの戦いが少しだけ頭の中で整理された。


影野とのやり取りが一段落したところで、

奥に控えていた近衛が手を叩いた。


「よし、それくらいでいい」


声は張っているのに、不思議と耳に馴染む。

場にいた全員がそちらへ意識を引かれた。


近衛はゆっくりと歩きながら二人の間に立つ。

目が細められていて、何かを品定めするみたいに俺達を見た。


「これは俺の持論だが……」


一拍置いて、低い声が響く。


「戦いは、自分の長所の押し付け合いだ」


その言い方には妙な説得力があった。


戦っていた時の感覚と照らし合わせると、

確かにそうだった。


近衛は指を一本立てて続ける。


「長所の部分で負けた瞬間に、勝ち目は一気に低くなる」


影野が、影で動きを止め、一方的に攻撃した時。

俺が一瞬の加速で踏み込んだ時。

そのどちらも、相手にとって対応が遅れた瞬間が勝機だった。


近衛はもう一本指を立てる。


「この訓練で長所を伸ばせ。時間は限られている。

苦手な事を平均値に上げるくらいなら、得意な事で突き抜けろ」


言葉が胸に重く落ちてくる。


得意な事で……突き抜ける。


苦手を埋めるより、得意を伸ばす。

言われてみれば当たり前なんだけど、

ずっと逆のことを考えていた気がする。


「得意な事で……突き抜ける」


俺が思わず口に出した瞬間、横から影野が口笛を鳴らした。


「おっ、あの人いい事言うね!」


影野は軽く親指を立てて見せる。


近衛は特に反応せず、当たり前のように次の段取りへ進める顔をしていた。



近衛が一歩進み、腰の袋からいくつか指輪を取り出した。

光沢のない黒い金属で、細いのに妙に重そうだった。


「次は魔力の精度を鍛える」


そう言うと近衛は指輪を一つひとつ投げて全員に配る。

手に乗せた瞬間、指に吸い付くような冷たさが走った。


「これは《魔力抑制リング》と言って、装着者の魔力を三分の一に抑える効果がある」


その一言で場の空気がざわついた。


(三分の一……?)

(それでどう戦うんだ)


皆がそんな顔をしている中、近衛は淡々と続ける。


「まずは装着しろ」


全員が指輪をはめ、少し驚いたような苦しそうな表情を浮かべる。


が、俺は何も……感じない。


「いいか。今のお前らは魔力コントロールの精度が稚拙だ」


近衛は指を一本立てる。


「必要以上の魔力を使って魔法を放ったり、圧縮が足りずに威力が出なかったり」


影野が横目でこちらを見ながら小声で呟く。


「耳が痛いね……」


近衛は聞こえているのか聞こえていないのか表情を変えない。


「そのリングをつけた状態で今より強くなれ」


そして決めに入る。


「そうすれば魔力を無駄にせずに戦える。

結果、今より長く戦い、より強くなる」


近衛は一拍置いて短くまとめる。


「魔力の総量なんて、短期間訓練した所でほとんど増えねぇ。だから今回は“消費量”を削る」


影野が「おお……」と小さく感嘆し、

陽翔は拳を握った。


「そうだな……姫華、烈、前へ」


姫華と烈は呼ばれて前に出される。


「姫華、刀に炎を付与してみろ」


近衛の指示に従い、姫華は刀を構えた。

息を整え、空気を吸い込む。


刀身に炎が走り──

しかし、そこにあるのはいつもの燃え盛る刃ではない。


炎は一回りも二回りも小さく、弱々しく揺らめく。


「ハァ……ハァ……っ」


強度が落ちた炎とは裏腹に、姫華の呼吸は荒い。

付与そのものに負荷がかかっている。


「烈。お前も魔法使ってみろ」


「ハッ、情けねぇな姫華!見てろよ!」


烈は勢いよくハンマーを持ち上げ、地面へ叩きつける。


ポスッ。


聞こえたのは普段の爆音と衝撃ではなく、

拍子抜けするほど軽い音だけだった。


烈は目を丸くする。


「……は?なんだよこれ」


近衛が手を打って場を止めた。


「見たか。これが今のお前らの現状だ」


その言葉は怒鳴り声ではないのに、空気を一瞬で締めた。


姫華は肩で息をしていて、烈は悔しそうに唇を噛んでいる。


周りの数名も魔力の通り道が細くなった身体に違和感を抱えている様子だった。


「魔力を抑えただけで、攻撃が細くなり、速度が落ち、呼吸すら荒くなる」


近衛は無慈悲なほど淡々としていた。


「つまりお前達の強さは“魔力の量”に依存しすぎてるってこった」


言われてみれば本当にそうだった。


こちらは戦うとき、魔力を込める事を最初から当然として考えていた。

力を盛れば盛るほど強くなる、そう思っていた。


近衛は続ける。


「魔力を大量に使って強くなった気でいる奴は多い。だがな、それは強さじゃなく“燃費の悪い瞬間火力”だ」


烈がうつむきながら拳を握る。

姫華は小さく呟くように呼吸を吐く。


近衛は二人を見るでもなく、ただ事実だけを並べた。


あの居合も魔力を大量に使って放った。

加速も殴りも全部魔力で押した瞬間火力。

だからこそ体力よりも先に魔力が尽きる。


近衛はまとめる。


「この状態で元のように戦えるようになれば、お前達は確実に強くなる」

そう言い切ったあと、近衛は短く締めた。


「今日からの訓練は……“燃費殺し”だ」


その言葉に、全員の背筋がわずかに伸びた。



「各々、試してみるといい。現状確認だ」



途端にざわめきが起こる。誰もが指輪へ視線を落とし、どこから手を付けるべきか迷う。


最初に動いたのは影野だった。


「よっしゃ、物は試しってことで……!」


軽口を叩きながら指を弾く。

影野の足元から黒い影が立ち込め、小さな影手裏剣がパラパラと形を成した。


だが数が少ない。


普段なら十数枚、もしくは二十枚近く同時に出せるはずが、今回はせいぜい六枚ほど。


「え、少な!」


しかも投射が不安定だった。

影野が指を払うも、従来の鋭い軌道には程遠い。


 トン……トス……カン……


 手裏剣は地面に情けなく転がり、近くの壁にも刺さらずに落ちた。


「うわ、キッツ!本数もスピードも落ちてるじゃん!」


影野は眉をしかめ、とっさに両手を開閉させる。


「……あー、これ想像以上にヤバいわ」


陽翔はそれを見て思わず声を漏らした。


「そんな変わるんですね……」


同じ指輪をしているはずなのに、なぜか実感が薄かった。


「陽翔もやってみなよ」


「えっ、あ、はい」


 陽翔は小さく息を吐き、雷の付与を足へ流した。


────バチッ。


青白い火花が拳を包む。濃度も速度も普段とほぼ変わらない。


影野がぽかんと口を開けた。


「……いや、普通に出来てない?」


「ですよ……ね?」


その様子を見て、近衛が目を細める。

姫華や烈とは明らかに反応が違った。


「陽翔、制限されてる感覚はあるか?」


「……いや、そんなに。壊れてるんですかねコレ」


「ちょっと見せてみろ」


 近衛は陽翔の手を取り、リングを確認した。

 触診しながら魔力の流れを読む。


「いや壊れてねぇな……」


そう呟くと、薬指に装着したリングへ魔力を通し調節を開始する。


「少し出力を上げてみるぞ」


陽翔のリングが一段階だけ黒く沈む。


魔力抑制・五分の一。


「……どうだ?」


「んー……ちょっと苦しいような……?」


「……ほう」


近衛の口調がわずかに楽しげになる。


さらに指を払って増幅。


 ────魔力抑制・十分の一。


「どうだ?」


「これ……!かなりキツイんですけど……!」


額に汗が滲み、拳を握るたび心臓が重くなる。

魔力が思うように流れない感覚。

初めての“枷”だ。


「これでようやく皆の三分の一と同程度ってとこだな」


近衛は腕を組み、訓練生たちへ視線を向ける。


「では、このまま次の訓練に移る。雨夜、澪、頼む」


呼ばれた二人が一歩前へ出る。


「はい、皆さん初めまして。雨夜アマヤカオルです」


その隣に立つ守谷も柔らかく微笑む。


守谷モリヤミオです。よろしくね」


雨夜が視線を巡らせながら続ける。


「この後は、基礎戦闘訓練に入ります」


武器を扱う者も、殴り合う者も、距離を取る者も、

戦いの“骨組み”は同じだと雨夜は言った。


「魔法はあくまで加算だと思っています。

土台が弱ければ強くなれない」


澪が軽く頷いた。


「だからこそ、基礎は大事。

身体の使い方、足捌き、守り方、間合い……

小さい差が命取りになる世界だからね」


強い人ほど言葉が静かだ。

圧で押さないのに、説得力だけが刺さってくる。


周囲も誰一人騒がず、自然と空気が締まった。



「では、1〜7番の組は私のほうに

他の番号は澪の方に移動してください」


それぞれが動き出す。


「よし、別れましたね。では説明しますね」


視界が少し揺れる。

さっきの影野との戦闘の疲労がまだ残っている。


だが、訓練は止まらない。


基礎戦闘訓練開始。





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