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東京魔法戦線 〜人に魔法を撃てない魔術師の成長録〜  作者: いぬぬわん
第2章

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第48話 それぞれの戦い


灰音の視線は姫華の前に釘付けになった。

凛とした立ち姿、こちらをじっと見据える目、

そして握られた大きな刀。


圧倒的「強者」の気配。


勝てるわけない……とわかっていても、

心は引かない。


ここで怯んでいては、

自分が強くなるチャンスを逃してしまう。


「……強く……なるんだ……!」


灰音は、ぎゅっと拳を握り、構えを取る。


その瞬間、近衛の声が響いた。


「始め!!」


合図と共に、姫華が静かに手をかざす。

炎の文字が宙に浮かび上がり、ゆらりと光が走った。


「火焔・炎鳥──!」


灰音は思わず後ずさり、なんとか炎の鳥を躱す。

背後で小さな爆発音が響き、熱風が頬をかすめた。


……なるほど。

触れたらただじゃ済まないタイプの魔法か。


しかし回避に気を取られ、

灰音の視線が一瞬途切れる。


姫華はその隙を逃さず、一気に距離を詰めた。

炎を纏わせた刀が振り下ろされる。


「速っ……!」


何度か斬られるたび、灰音の魔力が確実に削られていく。


「まだ……いける?」


姫華が問いかけるように笑う。


「もち……ろん……!」


灰音は呼吸を整え、必死に応じた。


「ふふっ……その意気よ」


姫華の微笑みは、自分に対して折れずに

立ち向かってくれる灰音へ思わず出たものだった。


灰音は手に、紫がかった黒い光を纏わせる。


「破壊魔法──付与」


私は……まだこれしか使えない。


ただ破壊する魔力を手に付与するだけ。

才能がない。何度言われただろうか。


「へぇ、珍しい魔法ね」

姫華は軽く首を傾げる。


「それはどうも……!」


灰音はそのまま一撃を放つが、姫華は容易く躱す。


「その手の魔法は、当たらなければ怖くないわ」


姫華は即座に魔法を展開。


「火焔・炎槍エンソウ!」


頭上に六本の炎槍が浮かび、灰音を標的に定める。


「さっきより……ヤバい……!」


さらに姫華は追撃。


「火焔・炎鳥!」


二種類の魔法が同時に迫る。


難易度で言えば、両手で同時に文字を書く位の

ものだが、ただ書ければ言い訳じゃない。


相手へ当てるコントロール、

そして魔法の精密さ、これが必要になってくる。

正直、若手でこれをできるのは数名もいないだろう。



「全く……反則級ね」


灰音は呟きながら、右手に魔力を集中させる。


「手加減しないって言ったわ」


言葉と同時に、炎槍と炎鳥が灰音めがけて迫る。

槍は避けられても、爆風が視界を揺らす。


「……くっ……!!」


そこへ後から炎槍が飛んでくる。


「時間差も付けれるなんて……!」


残った一撃に対して、

灰音は破壊魔法をぶつけるしかなかった。


「はぁぁっ!」


ぶつかり合う破壊の魔力と炎の槍。


「こんにゃろぉぉぉ!!」


バリンッ──!

炎槍は割れ、灰音の破壊魔法が勝った瞬間だった。


だが──


「これでお終いね」


背後から刀が首元に当てられ、

灰音は為す術もなく息を止めた。


「……参りました」


その声と同時に、アリーナ内には自然と拍手が湧く。

姫華の技量と冷静さを称える、純粋な賞賛だった



────────


────始め!の合図と共に千景は駆け出した。


「生成・鉄刃」


ナイフを生成して桜庭に投げつける。


「うわっ」


巨大な斧で受け止められ、ナイフは跳ね返る。

あの斧でパワープレイされると面倒だ。


千景は距離を取る戦法に切り替え、

冷静に間合いを調整する。


「近づけさせない……!」


棘やナイフを駆使し、桜庭との間合いを

確保しながら、少しずつ削っていく。


「えぇん、ひどいよぉ」


防戦一方でも、桜庭は意外と冷静に

攻撃を防いでいる。大きなダメージはまだない。


「貴方、魔法使わないの?」


防戦に回る桜庭に、思わず問いかける。


「えぇ?もう使ってるよぉ?ほらこれ」


斧を軽く見せる。


「私、重量魔法なんだけど、下手くそでさぁ……」


手を離すと斧はズドン!と地面にめり込む。


「………!!」


ただ手を離しただけで地面が沈む。

近づけば一撃で危険だ。十分すぎる脅威。

今までの戦法で削るしかない。


「生成・鉄柱テッチュウ


地面から鉄の柱を放ち、桜庭を牽制する。


「えいっ」


斧で合わせ、鉄柱は真っ二つに裂ける。


「真っ二つって……」


ナイフを投げつけ、間合いを乱す。


「うーん、どうしようかなぁ……あっ」


ニヤリと笑う桜庭。


「なっ……!」


桜庭はナイフや棘をくらいながら、

無視して突っ込んでくる。


マジックルームの特性、肉体にダメージが

入らないことを利用して突進してきた。


「やっぱり脳筋ね……!!」

冷静さを失いかける千景。

桜庭はもう目前まで迫っている。


ハンマーを生成し、全力で迎え撃つ。


「はぁぁぁ!!」


「えいっ!」


バリン!!


圧倒的な威力の斧に千景のハンマーは

粉々に砕ける。


「なっ……!?」


「へへ、終わりだよ~」


斧の振り下ろしが迫る。

だが────


ピピー!!

終了の合図が鳴った。


ピタっと止まる斧。

斧に斬られなかったことに

ホッとしながら千景は言う。


「……あんた滅茶苦茶ね」


「えぇそうかなぁ?でも千景ちゃん強いねぇ」


「あなたも大概よ、この脳筋」


「えーん、脳筋って言わないでぇ」


そんな桜庭をあしらいながら、

千景は深く息をつき、肩の力を抜く。


1ヶ月間桜庭とペア。

自分にない、〝一撃〟を持っている。


これを上手く自分の中に落とし込めれば……。


「強く……なれる」


そんな思いを抱え、

次に始まる陽翔の戦いを見るために

千景はマジックルームを離れた。



────────────


「では次、06〜10番まで」

近衛の指示に従い、陽翔と影野は

マジックルームへ向かう。


「よーし、張り切っちゃうぞ!」


「よろしくお願いします……!」


二人はマジックルーム内に入り、互いに距離をとる。

影野の笑顔は少し挑発的で、

だが瞳の奥には戦闘への鋭い意志が光る。


「本気で来てくれていいからねー」


「もちろん、手は抜きませんよ!」


「開始!」



合図と共に、陽翔は瞬時に駆け出した。

筋肉が弾む感覚、魔力の熱、

体中の神経が研ぎ澄まされる。


間合いを詰め、陽翔は肉弾戦に持ち込む。

拳を構え、一撃一撃を全力で叩き込む。


「おっ、積極的ぃー!」


「ちょっ、茶化さないでください……よ!」


影野は素早く体を捌き、陽翔の攻撃を捌く。

その動きは柔軟でありながら鋭く、無駄がない。


「へぇ、部分強化できるんだ……やるねっ」


「でも凛さんは全体強化してません……?」


「ありゃ、バレちった?」


テヘッと笑い、すぐに表情を戦闘者に戻す。


「じゃあ、そろそろ魔法使わせてもらうよ」


影野は黒く影のような魔力を全身から解放した。

暗黒の光が床に落ち、空気が重く震える。


「影魔法──影手裏剣カゲシュリケン


影野の影から無数の手裏剣が飛び出す。

鋭い金属音が虚空を切り裂くように響き、

陽翔は反射的に身をかわす。


「えっ!」


避けたはずなのに、

胸の奥に鈍い魔力の衝撃が走った。


体が微かに重く、

魔力が確実に削られていくのが分かる。


「避けたはずなのに……」


「さぁ?何ででしょうね」


原理はわからない。だが考える暇はない。

陽翔は意識を戦いに集中させ、前へ踏み出す。


「なら俺も攻めますよ……!」


瞬雷を纏い、影野との間合いを一気に詰める。


「はぁぁぁっ!!」


速度の乗った拳を全力で叩き込む。


「がっ……!!」


予想外の速度に、影野は防御が間に合わず、

一撃をもらい、吹き飛ぶ。


「……よし……!」


だが即座に立ち上がる影野。


「レディを殴るなんて……やるね」


「マジックルームなんで勘弁してください」


「そりゃそうだ」


再び影野が影手裏剣を展開する。

陽翔は避けるが、魔力は確実に減っていく。


攻撃を躱すだけでは、

戦いに勝てないことを肌で感じる。


「なんで……だ?」


「影魔法──影留カゲドメ


影属性を付与したクナイを投げる。


「当たりませんよ!」


「それはどうかな?」


確実に避けた……なのに。

体を動かそうとしてもビクともしない。

止められた感覚。


「体が……動かない!」


「さっきの仕返しだよ、受け取って」


全力で走り込み、影野の拳が陽翔の顔面を直撃。

体はマジックルームの端まで吹き飛ぶ。


「がはっ……!!」


息を整えつつ、頭の中で反省よりも分析が働く。

原理は分からなくても、

攻めの手を緩める余裕はない。


「後で教えてあげるよ」


「それはどうも!」


陽翔は鞘に手をかける。

これまで人に向けたことはない。


だが今、覚悟はある。

守る覚悟、強くなる覚悟。



「へぇ、刀使うんだ」


「初めてですよ、人に向けるの」


「ふーん、その付け焼き刃で……

なんとかなるのかなっ!!」


影野は影手裏剣を再び展開し、突撃してくる。

だが陽翔は敢えて避けず、鞘に魔力を集中させる。

ダメージよりも一撃必殺のカウンターを優先する。


「あれ、避けないんだ、なら……!」


影野はスピードを上げ、拳に全力を乗せる。


「赤月流・居合──」


「はぁぁ!!」


陽翔の鞘が一閃、唯一父に教わった技が放たれる。


「────千切!!」


刀が影野に届いた──はずだった。

だが斬った瞬間、影野が揺れ、気配が消える。


「な……!?」


「ふぅ、危なかったぁ」


少し焦ったように笑う影野。


「まさか、〝影纏カゲマトイ

まで使わされるとは……やるね!」


影野は再び走り出そうとする。

だが────


ピピー!!


終了の合図が鳴り、全ての動きが止まる。


「ちぇー、もう終わりか」


「ありがとうございました、強かったです……!」


「陽翔も強かったよ!

後で私の魔法、教えてあげるね」


「お願いします!

正直、勝てる未来見えませんでした……」


「なはは、そうだろう、そうだろう」


影野はご機嫌そうに笑い、陽翔も深く息をついた。


「じゃ出よっか」


影野のその一言ともに2人はマジックルームから出る。


「では残りの組、入れ」


いよいよ、最後の組。


「……あ、烈さん!」


「お、陽翔!お前やるじゃん!

あの居合、クソ良かったぞ!」


ニカッと笑い、陽翔の成長を喜ぶ烈。


「ありがとうございます!烈さんも頑張ってくださいね!」


「おうよ、アイツには負けたくねぇ」


烈は拳を合わせ、気合いをいれる。


「じゃ、行ってくるわ」


そういってマジックルームへ入る烈を見送り、

少し離れ烈の戦いを見守る。


────────

烈と綾瀬は正面で向き合う。

空気が張りつめ、足元の砂がわずかに揺れる。


「覚悟はいいか?」


烈の声には緊張よりも、

戦うことへの高揚が混じっていた。


「君こそ、逃げなくていいのかい?」


綾瀬の視線は鋭く、

挑戦的でありながらも冷静さを失っていない。


「ハッ、すぐにその口聞けなくしてやるよ」


「かかってこいよ、低脳が」


烈の魔力がほとばしり、周囲の空気を揺らす。

肌に感じる熱と振動に、心臓が早鐘を打った。


「殺す」


烈はハンマーを取り出し、

全身の魔力を拳に込めて走り出す。


その瞬間、床が振動し、砂埃が舞う。

開始の合図の前に、

二人の戦いはすでに始まっていた。


「ったく……アイツは何やってんだ」


近衛は深いため息をつくと、

即座に「開始!」と声を上げる。


他の組も一斉に動き出し、

マジックルーム内に戦闘の気配が充満した。


「オラ、オラ、オラァ!!」


烈はハンマーを叩きつけ、爆破を生み出す。

衝撃波が床に伝わり、砂や小石が舞い上がる。


しかし、綾瀬は素早く体を翻し、

爆発の衝撃を避ける。


動きは華麗で無駄がなく、まるで舞うようだ。


「ふん、そんな大振りが当たるとでも?」


「戦いはもっとスマートにするものさ」


綾瀬は片手銃を取り出す。

魔力が弾丸に宿り、

銃口から青い光の粒子が放たれる。


烈はハンマーで防ぐ────が。


「なんだ……この銃。やけに威力が強え」


通常の銃であれば、弾に魔力を纏わせても

あまり効果がないとされている。


剣や拳と違い、銃は手から離れ

弾が回転しながら移動するため、

魔力が霧散しやすい為だ。


だから身体強化を覚えていれば銃は

そこまでの脅威はない……はずだった。


「知らないのかい?

これは弾は使わず、魔力で打ち出すんだ」


「だから威力は使い手に次第…ちょっと高いけどね」


「……なるほど。ボンボン育ちって訳な。

益々気が合わねぇぜ!」


近づこうとするが銃撃の嵐に、

中々近寄れずイライラする烈。


「近づくのビビってるだけじゃねえか」


「ふん、そう言ってられるのも今のうちさ」


烈は眉をひそめ、ハンマーに魔力を集中。

一気に地面を叩き、連鎖爆破を発生させる。


爆連破バクレンパ!」


爆風が広がり、砂煙と衝撃波で視界が奪われる。


「ケホッ、ケホッ…姑息な…!」


煙の中、烈は隙をついて接近し、

ハンマーを振り下ろす。


「おらよっと!!」


「がはっ!!」

クリーンヒット。

綾瀬は吹き飛び、地面に叩きつけられる。


しかしその表情は悔しさと興奮が混じっていた。


「本当にムカつく奴だな……お前は」


腰にかけた細身の剣を抜き、間合いを詰める。


「穴だらけにしてやるよ」


銃を撃ちながら距離を詰める綾瀬。

魔力が宿った弾丸は予想以上の威力で、

ハンマーで防ぐだけでも体に衝撃が伝わる。


「死ね」


肩を貫く鋭い突き。

痛みが脳を刺すが、烈は振り払うように踏ん張り、

拳に爆破魔力を集める。


「…なら!」


拳を握り潰すように爆破。

衝撃波が周囲の砂を吹き飛ばし、

衝撃で二人の間合いが一瞬開く。


「なっ…!馬鹿なのか…!?

自分諸共爆破するなんて…!」


「いちいち、驚いてんじゃねぇよ」


ハンマーを捨て、拳に魔力を宿す烈。

連撃で相手の速度を封じ、攻撃のリズムを乱す。


「ふん…なら俺も魔法を使ってやるよ」


「こいや…!」


ピピー!!

終了の合図が鳴るが、二人は完全に無視し、

攻撃を続ける。


「オラァ!」


幻躯ファントム分割ディヴィジョン


殴りかかる烈に、綾瀬は魔法で分身する。

体が二つに分かれ、二人の綾瀬が烈に迫る。


烈の目が一瞬見開かれるが、

すぐに冷静さを取り戻す。


拳と爆破魔力で連撃を繰り出そうとするが────。



「────止まれ」


近衛が魔力を解放して割って入る。

圧倒的な気配に、二人はようやく動きを止めた。

息が荒く、胸の奥でまだ戦いへの高揚が残る。



「お前ら、これ以上やるんだったらペナルティだ」


淡々と近衛は告げる。

2人は熱が冷めたらしく、別々に出ていく。


そしてようやく全員の呼吸が整い、

砂煙がようやく静まる。

それぞれの胸には、まだ熱い戦いの記憶と、

新たな決意が残っていた。





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