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東京魔法戦線 〜人に魔法を撃てない魔術師の成長録〜  作者: いぬぬわん
第2章

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第47話 強化訓練


合宿参加を決めてから数日後。

俺達《暴黒の獅子》は、

都心から一時間半ほど離れた山にある

東京魔法大学跡地に到着していた。


かつては日本最大の教育機関だったが、

数年前に閉校となり、現在は改修されて

訓練施設として使われているらしい。


正門や校舎は新しく作り替えられているが、

奥には蔦の絡まった旧棟がそのまま残っており、

跡地という言葉がよく似合っていた。


広大なグラウンドには若い世代が集まっていた。

ざっと見ただけでも三十人ほど。

俺達のようなクラン所属もいれば、あれは……

個人で活動している人だろうか。

数名、隊服を着てない人がいる。


陽翔が周囲を見回し、口を開く。


「思ったより多いですね……」


烈が腕を組みながら鼻を鳴らした。


「まぁそのぶん、殴り甲斐もあるってこった」


千景は周りをキョロキョロ見渡す。


「これだけ多いと、知り合いとかいそうね……」


俺は他の参加者の顔を見ながら、小さく息を吸った。


全員が若い。

二十代前半が大半で、1番若いのが俺の世代だろう。

だが雰囲気は軽くない。全員が真剣な顔をしている。


理由は簡単だ。

ここに来たのはただ強くなりたいから。


団長曰く、参加の条件として

〝強くなりたい意思〟があれば参加可能らしい。



黒い太陽の刻印を持つ連中との戦闘が表沙汰になっていないとはいえ、

東京のクランでは魔人活動の活性化で話はもちきりだった。


若手同士で噂話が飛び交っていた。


「最近、魔人がよく暴れてるよな……」


「あぁ、その中でもフードの奴はヤバいらしいぜ」


そういった空気が、余計にこの合宿の意味を濃くしていた。


やがて、グラウンドの小さな台に

銀髪の男が姿を現す。


白銀の翼・団長、白銀 正刻。

俺達を救ってくれた人だ。


参加者達のざわめきが一瞬で静まる。


白銀は視線を全員に通し、短く告げた。


「初めまして、白銀の翼、団長、白銀正刻だ。

今回の強化合宿は一ヶ月間行う。

内容は実践形式が中心となる。

怪我のリスクは排除されているから安心して取り組んでほしい」


白銀は続けた。


「この場には俺達だけではなく、

複数のクラン団長や指導者が参加している。

指導方針は各自に任せている。

各員は盗めるものを盗み、学べるものを学べ。以上だ」


それだけ言うと白銀は踵を返し、校舎の奥へと消えていった。


入れ替わるように、近衛、副団長、澪、

そして数名の他のクランの団長が前に出る。


近衛が前に立ち、手元の資料を軽く確認してから口を開いた。


「俺は近衛一真。

この1ヶ月間、ここで訓練を担当する。

基本的に戦闘訓練はこのグラウンドで行う」


説明は淡々としている。


「寝泊まりに関しては男子棟と女子棟に分かれてる。

消灯は二十二時まで。

朝は六時に起床、点呼後に食堂。

それ以外の細かい規則は掲示板を見ろ。」


それ以上説明する気はないらしく、

資料を閉じるとすぐに

テーブルの上の白い箱に手を置いた。


「……で、さっそく本題だ。

これから1ヶ月間は二人一組で動いてもらう」


箱の蓋には丸い穴がひとつだけ開いている。


「中のクジを引け。同じ数字同士でペアだ。

前から順に……そこのお前」


一番前の男が緊張した顔で前に出てクジを引く。

次々と番号が引かれていき、


番号抽選が進み、それぞれ番号を手に散っていく。


「あ、姫華だ」


「あいつ、どこにいたんだよ、水くせえな」


烈とそんなやり取りをしている間に、

姫華は無言で前に進む。


箱に手を入れ、

ひとつの札を指先でつまんで引き抜く。


番号を開くと同時に、

周囲の空気が一気にざわついた。


誰かが小声で確かめるように言う。


「あれって……白銀の翼の姫華だろ……!?」


その瞬間、他の数名も反応した。


「てか若手合宿来る必要あるのかよ……」


「ペアになりたいような……なりたくないような……」


ざわつきは一部の期待と、一部の萎縮と、

一部の嫉妬が混ざった複雑な空気を生む。


「やっぱ有名人だな……」


姫華本人は表情ひとつ変えずに札を持ったまま、

軽く視線だけ横に流す。


人前に出ることには慣れている。

むしろ特に興味がない、といった静かな態度。


近衛はざわつきを一瞥し、短く言った。


「静かに」


それだけで一旦空気が収まる。


姫華が04番の札を掲げたあと、近衛が声を張る。


「同じ番号の者はいるか?」


列の後方から、ひとり歩き出す影。


黒寄りの灰色の髪色をしたボブ。

細身で背は高め。

無表情に近いが、どこか不安が滲む歩き方。


ざわ……と周囲が反応する。


「……誰だあれ?」


「所属クランのマークもない。個人か?」


「てか、よりによって姫華とペアって……」


露骨な声が刺さるが、本人は下を向かない。

ただ静かに姫華の前に立つ。


近衛が淡々と告げる。


「ペアが決まったやつは横に逸れろ」


灰色の瞳が姫華を見る。

ほんの一瞬だけ、胸の奥の熱が滲む。


姫華は変わらず冷静に頷く。


「……不知火姫華よ、よろしく」


少女は短く返す。


「……霧崎キリサキ灰音ハイネ……です

よろしくお願いします……。」


あの子、大丈夫だろうか。

姫華について行けるといいけど……。


「次、前へ」


「やっと俺の番か」


烈が首を鳴らして歩き出す。


白い箱に手を突っ込み、紙を一枚引いた。


『15』


掲げた瞬間、後方から一声。


「……俺か」


ざわめきが走る。


呼ばれたのは、鋭い目つきで長身、

金髪のセンターパートで茶色いスーツの男。

歩き方に隙がなく、無駄がない。


周囲の若手たちが声を潜める。


「綾瀬まで来てんのかよ……」


「確か……財閥の息子だっけか……?」


烈と綾瀬が向かい合う。


綾瀬は顎を少し引き、抑揚少なく告げる。


綾瀬アヤセカサネだ。

俺の邪魔だけはしないでくれよ」


いきなり先制パンチに烈が即座に反応する。


「上等だ、まずてめえからぶっ飛ばす」


重は薄く目を細め、さらに挑発する。


「はっ、君が俺をぶっ飛ばす?寝言は寝て言えよ」


「死んでも文句言うなよ」


今にも喧嘩が始まる空気を近衛が静止する。


「おい、落ち着け。やるなら後でやれ」


2人は渋々下がり、後で本当に喧嘩になりそうだ。

それくらい険悪な空気が流れている。


だが近衛は気にせず、次を呼ぶ。


「次、前へ」


千景が無言で前に出る。

箱から一枚引き、数字を見る。


『02』


「あっ、私だー」


視線の先からふわりと歩いてくる少女。


桃色の髪、長い睫毛、柔らかい雰囲気。

そして圧倒的な……スタイル。


肩出しのピンク色のニットに黒のミニスカートに黒タイツ。

胸元のニットがはち切れんばかりに伸びている。


男たちが目を丸くした。


「なんだよあのボディ……」


「重力に負けてねぇ……」


「いや勝ってる……あれは勝ってる……!」


「対比が……すごいな」


その一言に千景のこめかみがピクリと動いた。


(……殺す)


目だけで三人くらい刺せるレベルの睨み。


みるくがふわっと笑って頭を下げる。


桜庭サクラバみるくです。

よろしくお願いしますっ」


千景は睨んでいた男たちから

テキトーに顔をそらして淡々と名乗る。


「鋼崎 千景。……よろしく。」


周囲がヒソヒソ。


「鋼崎ってあの……?」


「確か、不良ボコりまくって

鉄の鬼姫って呼ばれてたよな……?」


(決めた、絶対殺す)


千景は密かに覚悟を決めているみたいだが、

みるくは何も気づかず笑っている。


空気は悪くないが、温度差がえぐい。


「次、前へ」


烈、千景に続き、俺は一歩前に出た。


ざわめきはない。

ただ普通に見られてるだけだ。


箱の中に手を入れ、木札を一枚掴む。


引き当てた番号を近衛に渡すと、近衛が読み上げる。


「……7番」


「──はいっ!」


軽い声が響いた。


手を挙げて駆け寄ってきたのは、

露出多めの黒い服を着た女性だった。


黒髪のボブに青い瞳。

へそ出しの黒インナーに黒いフードジャケット、

黒短パンに網タイツ。

細い腰にホルスターとクナイ。


笑っていて明るい。

この場の空気とは少し違う色。


彼女は俺の前で止まり、ニッと笑う。


「私は影野カゲノリン!よろしくね!」


距離が近い。

というか普通に近い。


「赤月 陽翔です、よろしく……お願いします」


若干たじろぐ。

向こうはその反応すら面白がってるようだった。


影野は俺を値踏みするように見て、


「へぇ……君、暴黒の獅子なんだね……!

ま、お互いがんばろ!」


と軽く言った。


周囲が一斉にざわつく。


「なんだよあいつ…羨ましいぞ…!」

「後であいつ潰そうぜ」


そんな声が響くなか、烈が遠くから叫んだ。


「おい陽翔テメェ!!ふざけんな!!

俺のペアと変わってくれ!!」


俺は聞こえないフリをした。

影野は肩をすくめて笑う。


「うわ……陽翔くんモテるじゃん」


「いや、どっちかと言うとこれは

影野さん人気じゃないですか……?」


「細かい事は気にしない!

あと、凛って気軽に呼んでいいよ?

私も陽翔って呼ぶからさっ」


影野は指でピースを作りながら笑った。


「ね、こういうのって最初のうちに

距離詰めたほうが連携もしやすいからさ!」


「……そういうものなんですか?」


「そういうものなんです!」


勢いと明るさで押し切られる。

少なくとも人見知りではないだろう。



そんなやり取りをしている間に、

どうやらペア決めは全部終わったらしい。


近衛が片手を上げて全員を見渡す。


「全組決まったな。番号順に二列に並べ」


ざっと移動が始まり、十五組が綺麗に整列する。


誰も喋らないわけじゃないが、

空気は明らかにさっきとは違う。


決まった、もう後には引けない、そんな温度。


指導陣が機器を運び込み、

グラウンドの地面に魔法陣を展開していく。


青い光が区画ごとに壁を作り、

簡易マジックルームがいくつも並んだ。


近衛がタブレットを閉じ、短く告げる。


「まずは各ペアごとに軽く手合わせをしろ」


その言葉だけで周囲の表情が一段引き締まる。


近衛は続けた。


「そこで能力の傾向、相性、性質、

それとどれくらい戦えるのか……。

最低限互いに把握しろ、合宿は実戦形式が中心だ。

知らないままペア組んでも役に立たん」


凛がすぐ俺の方を向く。


「ま、挨拶代わりって感じだよね、

手加減しないぞー」


「俺も、負けるつもりはないですよ」


「いいね、いいね。

嫌いじゃないよそーゆータイプ!」



近衛はさらに指示を足した。


「攻撃制限は特にない。

区画内はマジックルームになってるから安心しろ」


烈が舌打ちをしながら綾瀬を挑発する。


「チッ、まぁよかったな。

お前の顔面が潰れなそうで」


「君こそ、穴だらけにならずに済んでよかったね」


「てんめぇ……!!」


2人は睨み合う。


そんな2人を見て千景は深く息を吐いた。


「……この合宿、大丈夫かしら」


桜庭は相変わらずふんわりしている。


「千景ちゃん、がんばろ〜ねぇ」


「頑張るのは良いけど、手加減するつもりないわよ」


「えぇ〜痛いのやだなぁ」


温度差だけはやっぱりバグってる。


近衛は数字を確認しながら声を張る。


「一組5分。番号順に5組ずつ行く、準備しろ」


01〜05までのペアがそれぞれの区画へ移動した。


その中には02番、千景、みるくペア。

04番、姫華と灰音のペアも含まれている。


姫華は淡々とマジックルームの中に入り、

灰音は一拍遅れて足を踏み入れる。


灰音は周囲を見渡して小さく息を飲む。


「こんな人前でやるのは、初めて……」


姫華はその言葉に振り返らず、ただ短く言う。


「……そう。でも手加減はしないわ」


「……うん、その方がありがたいです」


灰音は目を瞬かせて、ゆっくり頷いた。



一方、千景&みるくペアもマジックルームに入る。


桜庭はいつも通りの笑みで、

胸元から〝小さい箱〟を取り出す。


「……何をしてるの」


千景が警戒を強めた瞬間、桜庭は軽い口調で言う。


「武器だよ〜普段は魔法箱マジックボックスに入れてるんだぁ」



魔法箱とは、武器を収納できる小さい箱。

魔力を通せば中から武器が取り出せる。

主に、大きい武器や投擲用の武器なんかを

収納するのに用いられる。


その“ふわっ”とした声のまま、

箱の中から、

桜庭が引っ張り出したのは───黒い斧。


サイズは大きく所々、金色の装飾がされている。

刃は厚く、見るからに重そうだ。

“叩き斬る”ことに適した形をしている。


桜庭はそれを片手で軽く回し、肩にポスッと乗せた。


「ん〜……やっぱこれなんだよねぇ」


千景の目がわずかに細くなる。


「……あなた、意外な武器使うわね……」


「使えちゃうだけ〜」


“ふわふわ”とした声音は変わらないのに、

斧の重心は殺意そのものだった。


千景は息を一つ吐き、姿勢を下げる。


「もしかして脳筋系……?」


「ん〜どうだろ〜?」


桜庭は斧を構えたまま、かすかに重心を前に落とす。


その瞬間だけ、空気が変わる。


ゆるいのに“圧がある”


千景は低く呟いた。


「……本気でいくわ」


桜庭は目を細めて微笑む。


「よろしくねぇ〜」


そして合図が落ちる。


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