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人に向けて魔法が撃てない俺はニートになろうとしたら底辺クランに入団させられました  作者: いぬぬわん


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16話 決着

狂歌の叫びが、夜の路地に叩きつけられる。


「あたしの弟を返せよ!!!!」


感情を叩き割るような声。


その余韻がまだ空気に残っている、その瞬間だった。


「……やめなさい」


低く、しかしはっきりとした声が割り込む。


雨夜と狂歌、二人の視線が同時にそちらへ向く。


路地の入口に立っていたのは、澪だった。


肩で息をし、服には戦った痕が残っている。

乱れた髪と、わずかに歪んだ表情が、ここまで全力で追ってきたことを物語っていた。


「……澪」


澪は状況を一目で理解する。

地に伏す狂牙。

その傍らで、感情を爆発させる狂歌。


「……やっぱり2人……居たのね」


小さく、悔しさを滲ませた声。

その言葉を聞いた瞬間、狂歌の表情が崩れた。


怒りが、恐怖に変わる。

憎悪が、縋りに変わる。


狂歌はふらつきながら澪の方へ向かい、縋るように手を伸ばした。


「ねぇ……お姉さん……!」


声が震えている。


「なおしてよ……」

「狂牙を……なおしてよ……!」


必死に、必死に。


「血もある……魔力も……」

「ねぇ……お願い……」

狂歌は、まるで子どものように、

理由もわからず助けを求める手つきで。


澪は一歩近づき、狂歌の前に立つ。

逃げない。目を逸らさない。


そして、静かに告げた。


「……ごめんなさい」


短く、はっきりと。

澪は、視線を逸らさなかった。


「私の活性は、生きている身体を治す力」

「命が途切れたら……どうにもならない」


狂歌の瞳が、大きく見開かれる。


「……うそ……」


掠れた声。


「……じゃあ……狂牙は……?」


澪は、首を横に振った。


それだけで、十分だった。


狂歌の足から力が抜け、膝が崩れる。


「……返してよ……」


泣き声にもならない声。


「返してよ……

あたしの……狂牙を……」


澪は、唇を噛みしめる。

雨夜が一歩前に出る。


「……ごめんね」


次の瞬間、狂歌の身体が力を失い、その場に崩れ落ちた。


夜が、静まり返る。

澪は、倒れた狂歌から視線を外し、

ほんの一瞬だけ、目を伏せた。



────────────



雨夜は、倒れ伏す狂歌から視線を外し、静かに端末を取り出した。


画面に表示された名前を見て、短く息を吐く。


「……団長」


通信が繋がる。


『どうした、雨夜』


雨夜は簡潔に、しかし一つも誤魔化さずに報告した。


「無差別斬殺事件の犯人、確保しました」

「双子の片割れです。もう一人は……俺が討ちました」


一拍。


通信の向こうで、団長が状況を飲み込む沈黙。


『……2人とも怪我はないか?』


「はい、雨夜、澪共に無事です」


『……わかった』


団長の声は、低く、重い。


『魔人収容所へ回す手配をする』


「了解です」


通信は、それだけで終わった。


────────


澪は、倒れた狂歌を見下ろしたまま

しばらく動かなかった。


(……これぐらいしか出来ないけど)


膝をつき、そっと触れる。

活性が淡く灯る。


出血を抑える。

臓器を繋ぎ止める。

痛みも、悲しみも、消えないけれど。


「……生きて、罪を償いなさい」

「例え、どんなに辛くてもね……」


その時だった。


――ウゥゥゥゥゥ……。


夜の空気を切り裂くように、遠くから低いサイレンの音が響く。


次第に近づいてくる。


「来たわね」


澪が呟く。


路地の入口に、複数の足音。

黒を基調とした装備の一団が現れる。


胸元には、魔人収容所の紋章。


「対象、確認」


淡々とした声。


職員の一人が狂歌の状態を確認し、短く告げる。


「意識喪失、命に別状はなし」


別の職員が、専用の拘束具を取り出す。


まず、手首。


魔力を完全に遮断する魔封じの錠が、狂歌の両手に嵌められる。


カチリ、と乾いた音。


続いて、両足。


身体強化を封じる足枷が取り付けられ、

重い金属音が、路地に落ちた。


「拘束完了」


雨夜は、その様子を黙って見ていた。


「……収容先は?」


「第三区画、魔人収容所」

「戦闘能力、危険度を確認した後、クラス分けさせられるが……Aクラスは固いだろうな」


一目で凄まじい戦闘があったと分かる路地を見ながら職員は言う。


澪は、その言葉にほんの一瞬だけ目を伏せる。


「……よろしくお願いします」

その声はいつもより少しだけ低かった。


職員は短く頷く。


狂歌は、何も知らないまま運ばれていく。


目を覚ました時、

もう────弟はいない。


サイレンの音が、再び遠ざかっていった。


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