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人に向けて魔法が撃てない俺はニートになろうとしたら底辺クランに入団させられました  作者: いぬぬわん


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第20話 完全復活ととっておき

朝の街は、いつもと変わらない。


人の流れ、車の音、ビルの隙間を抜ける風。

陽翔は、その中を歩きながら、

昨日の出来事を思い返していた。


────


「黒い……太陽の刻印?」


訓練後、簡単な報告の場で、団長はそう切り出した。


「狂歌の身体と、死亡したもう一人に確認された」


「傷じゃない。魔術的な刻印だ」


陽翔は息を呑み、烈は腕を組む。


「例のフードの男と、関係あるんすか?」


「断定はできない」


団長は静かに首を振った。


「だが、双子は同じフードを被っていた。

同一組織、もしくは何かしらの

関係はあると考えている」


烈が口を開く。


「つまりよ」


「あのフード被ってる奴らは

仲間の可能性が高ぇってことっすか?」


団長は少しだけ考え、答えた。


「……そうだな。

まだ可能性の域をでないが……」


視線を上げる。


「“フードと刻印”」


「これは、大きな目印になる」


その言葉に、場の空気が引き締まった。


────


「刻印……か」


陽翔は小さく呟く。


あの男。

フードを被り、こちらを嘲るように戦った魔人。

あいつの身体にも、あれは刻まれているのだろうか。


考えながら歩いているうちに、

暴黒の獅子の本部ビルが見えてきた。


自動ドアが開き、ロビーに足を踏み入れる。


「……おはよ」


不意に、聞き慣れた声。


陽翔は目を見開き、声の方を見る。


「千景さん……!?」


そこに立っていたのは、鋼崎千景だった。


いつもの灰色のショートヘア。

少しツンとした表情。

だが、顔色は良く、立ち姿もしっかりしている。


「もう、完全に治ったんですか!?」


思わず声が大きくなる。


千景は少しだけ胸を張り、口元を緩めた。


「えぇ、完全復活よ」


その一言に、胸の奥が一気に軽くなる。


「よ、よかった……。

まだ時間かかるかと思ってて……」


「大げさ、心配しすぎだから」


千景は少しだけからかうように言う。


「当たり前じゃないですか!」


即答すると、千景は小さく笑った。


「他の皆にも言われたわ。

『無茶しすぎ』って」


「……それは、まあ」


陽翔は苦笑する。


「でも」


千景は拳を軽く握りしめた。


「もう大丈夫」


「次は、倒れる前に倒すから」


その言葉は、強がりでも虚勢でもなかった。


確かに、戻ってきた。

鋼崎千景は、前線に立つ仲間として。


「……はい」


陽翔は、はっきりと頷いた。


不穏な影は、まだ消えていない。

黒い太陽の刻印。

フードの男。


だが、それでも。


千景が戻ってきた。

その事実が、何より心強かった。


千景は歩きながら、

ふと思い出したように振り返る。


「そういえば……

修行は順調?」


陽翔は一瞬きょとんとし、すぐに表情を明るくした。


「もちろんです!

部分強化も、ちゃんと使えるように

なったんですから!」


少し胸を張り、どこか誇らしげに言う。

自分でも分かるほど、声が弾んでいた。


千景は足を止め、陽翔を上から下まで眺める。


「へぇ……」


短い一言。

だが、目は鋭く、観察するような光を帯びている。


「それに────」


陽翔は少し声を落とし、身を乗り出した。


「千景さんだけに言いますけど……」


「“とっておき”も、使えるようになったんで」


一瞬の沈黙。


千景は小さく目を細め、口角を上げた。


「……“とっておき”ねぇ」


くるりと背を向ける。


「いいわ、着いてきなさい」


「え、ちょ、千景さん?」


何の説明もなく、歩き出す千景。


「ま、待ってくださいよ!」


「ちょ、千景さーん!」


スタスタと進む背中を、陽翔は慌てて追いかけた。


────


向かった先は、訓練場だった。


まだ朝早い時間帯。

普段なら烈が居るが今日は居ないみたいだ。


千景は中央で立ち止まり、振り返る。


「さて」


軽く首を回し、肩をほぐす。


「完全復活の初仕事……」


「後輩の成長確認ってところかしら」


「え……確認って……」


陽翔が言い終わる前に、千景は一歩踏み込んだ。


「安心しなさい、ちょっとだけ優しくしてあげる」


にやり、と笑う。


「でも……その‘’とっておき‘’────」


構えを取る。


「見せてもらわないとね」


その空気に、陽翔も自然と背筋が伸びた。


「……はい」


拳を握り、足を踏み出す。


完全復活した鋼崎千景。

そして、少しずつ前に進み始めた自分。


その距離を測るように、

二人は、向かい合った。




訓練場の中央。


千景は端末を操作し、低く告げた。


「マジックルーム、起動」


淡い光が床を走り、結界が展開される。

肉体に負うダメージの代わりに

魔力を消費させる訓練用空間。


千景は陽翔に向き直り、指を鳴らした。


「さ、来なさい」


「お願いします!」


陽翔は一歩踏み出す。


────


最初は、体術。


拳と拳、脚と脚がぶつかり合う。

陽翔は部分強化を使い、

踏み込みと打撃に魔力を乗せる。


無駄な力みはない。

動きながら、自然に。


数合打ち合ったところで、千景が一歩引いた。


「……中々、様になってるじゃない」


「っ……!」


思わず、陽翔の顔が明るくなる。


「ちゃんと部分強化できてるわ」


「それじゃ次のステップよ……生成」


次の瞬間。


千景の掌に、鉄が集まった。


魔力で編まれ、瞬時に形を成す。


鉄の剣。


「これはどうかしら?」


千景が構えるのと同時に、

陽翔も迷いなく腰の刀を抜いた。


「へぇ……」


千景が、少しだけ目を見開く。


「刀、使えるんだ」


「はい!」


刃と刃がぶつかる。

弾き、流し、受け止める。


千景は剣を消し、次々と生成する。


ナイフ。

短剣。

再び、剣。


角度も間合いも変えながら、容赦なく攻める。


「ほら、もっと必死になりなさい」


「っ……!」


多彩な武器を使った連撃。

頭がパンクしそうになるが陽翔は必死に対応する。


次に現れたのは、斧。


重い一撃が、地面を叩く。


「うわっ……!」


「重さも武器よ」


続けて、ハンマー。

一撃一撃が、身体に響く。


そして盾が陽翔の視界を塞ぐように現れる。

斧、ハンマー、盾。

次々と形を変える鉄に、陽翔は息を呑む。


(まずい視界を……!)


距離を取った瞬間


「……えっ?」


千景の掌に、再び鉄が集まる。

今度は、銃。


乾いた音が響き、陽翔は慌てて跳び退いた。


「そんなのも、ありなんですか!?」


思わず叫ぶ、


「当然でしょ?

私の魔法は“鉄”の物ならなんでも作れるわ」


「もしかして無限に出せたりしませんよね……?」


千景は銃を構えたまま、ちらりとこちらを見る。


「そんなまさか」


次の瞬間、銃は消え、鉄が霧のようにほどけた。


「制限は、ちゃんとあるわ」


歩きながら、淡々と説明する。


「私が一度に生成・維持できる鉄の総量は……

大体、大型車一台分くらい」


「え……それでも多くないですか!?」


「意外と少ないわよ?

だからこそ、無駄遣いはしない」


斧が消え、盾が現れる。

盾が消え、短剣が生まれる。


「形を変える分には、量は変わらない……。

「でも、大きくすればするほど、

維持も消耗も増える」


陽翔は、息を整えながら理解する。


(だから必要な瞬間に、必要な形だけ……)


「万能に見える能力ほど

使い方を間違えたら、すぐ詰むのよ」


そう言って、千景は小さく笑った。


「だから……頭も使いなさい、新人」


距離、重さ、速度。

全てが変わる。


陽翔は、追い詰められていく。


息が荒くなる。


(このままじゃ……)


その時。


「……使いなさい」


千景の声。


「“とっておき”」


陽翔は、歯を食いしばる。


「行きますよ!────瞬雷シュンライ!」


足元に、雷が走った。


脚に雷属性を付与し、瞬間的に速度を引き上げる。

まだ完璧に制御できていないため一直線。


だが、圧倒的に速い。


銃弾を避け、

斧の間合いを抜け、

一気に距離を詰める。


スピードを乗せ部分強化した腕を振り抜く。


ドンッ!!

衝撃が空気を震わせた。


千景は即座に盾を生成し、

ギリギリ防ぐ事に成功する。


もし盾が一瞬遅れていたら……

千景自身も、その結果を想像していた。


「……やるじゃない」


盾越しに、千景が笑う。


「全く……とんでもないスピードね……

冷や汗かいたわ」


雷が消え、陽翔はその場に膝をついた。


「はぁ……はぁ……」


千景は武器を全て消し、歩み寄る。


「完全復活の初日としては、上出来ね」


そう言って、手を差し出した。


「続きは、また今度ね‘’陽翔‘’」


少しだけ、耳が赤い千景の手を掴み、立ち上がる。


「っ……はい!」


声が、少しだけ裏返った。


胸の奥が、じんわりと熱い。

さっきまでの痛みや疲労よりも、

その一言の方が、ずっと強く残っている。


新人。

そう呼ばれていたはずの自分は

もうそこにはいない。


まだ足りない。

まだ未熟だ。


それでも。


鋼崎千景に、

“次”を見てもらえる場所に立てた。


「千景さん、もう一回お願いします」


「……は?」


「なにを?」


一瞬の沈黙。


「……さっきみたいに」

「名前で呼んでくれればいいんですけど……」


千景はぴたりと動きを止める。


「……あんたね」


顔を背けて、


「ほんと調子乗るの早いわね、ぶっ飛ばすわよ」


でも、ほんの少し間を置いて。


「‘’陽翔‘’」


微笑みながら温かい目で名前を呼ぶ千景。







「────スクワット1000回。先輩命令」



「えぇぇぇぇっ!!」


思わず叫んだ陽翔に、千景は肩をすくめる。


「冗談よ、半分はね」


「半分!?」


「その反応が面白いから、半分」


そう言って、くるりと背を向ける。


「……えぇ、まじかよ……」


歩き出しかけて、少しだけ振り返る。


「さっきのは、本気で良かった……。

あれだけ動ければ、安心して頼れるわ」


その言葉に、陽翔の胸がじんわりと熱くなる。


「……ありがとうございます!」


千景は一瞬だけ目を細めて、いつもの調子に戻った。


「はいはい」

「感動してる暇があったら、スクワット」


「やっぱりやるんですか!?」


「……今、名前で呼ばれた分の

ご褒美だと思いなさい」


「代償重すぎません!?」


笑い混じりの声が、訓練場に響く。


完全復活した鋼崎千景。

そして、一歩ずつ前に進み始めた赤月陽翔。


その距離は、まだある。


けれど確かに、縮まっていた。






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