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東京魔法戦線 〜人に魔法を撃てない魔術師の成長録〜  作者: いぬぬわん
第1章

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第19話 背中

暴黒の獅子・本部ビル。


朝のフロアは、いつもより少し静かだった。

端末の起動音や書類を捲る音だけが、

規則正しく響いている。


陽翔は壁際に用意された、

自分の席に腰を下ろし、何気なく室内を見渡した。


すぐに、違和感に気づく。


いつもなら、もう席についているはずの

二人の姿がない。


胸の奥が、わずかにざわついた。


「……烈さん」


思わず零れた声に、

隣で椅子に寄りかかっていた烈が顔を向ける。


「ん?」


「雨夜さんと、澪さん……まだ来てないんですか?」


烈は一瞬だけ天井を見るように黙り込み、

すぐに肩をすくめた。


「そういや、まだ来てねぇな」


そのやり取りに、周囲の視線が

わずかに集まりかける。


その空気を断ち切るように。


「ちょっといいか」


低く通る声が、室内に響いた。


団長だった。


烈、陽翔、月島に視線を向け、

ゆっくりと言葉を選ぶ。


「昨夜、無差別斬殺事件の犯人は確保された」


その一言で、執務フロアの空気が、

目に見えないほど張り詰める。


「対応したのは、雨夜と澪だ」


陽翔は、無意識に背筋を伸ばしていた。


「消耗が大きく、二人には念のため

休養を取ってもらっている」


その瞬間、陽翔の手に力が入る。


「……二人共、大丈夫なんですか!?」


思わず声が強くなった。


団長は陽翔を見て、短く、

しかし確かな調子で頷く。


「命に別状はない。無事だ」


その言葉に、陽翔は胸の奥に溜まっていた息を、

静かに吐き出した。


(よかった……)


だが、安堵は長く続かない。


「なお、確保した犯人、狂歌についてだが」


団長の声音が、わずかに低くなる。


「例の男と同じフードを被っていたという

報告を受けた……偶然とは考えにくい」


陽翔の脳裏に、あの“フードの男”の姿がよぎる。


あの男と……繋がっているかもしれない。


「なら、とっととソイツに吐かせねぇとな!」


烈が、拳を軽く握りながら吐き捨てる。


団長はそれを制するように、静かに首を振った。


「焦るな」


そして、断言する。


「明日、俺が直接面談し……」


「情報が取れ次第、共有する」


その言葉で、この場の話は終わった。


だが陽翔の胸には、別の感情が残り続けていた。


(雨夜さん……澪さん……)


二人の背中を、昨日は見ていない。

それでも、その“消耗”がどれほどのものだったか。

いつも雨夜に軽くあしらわれているのに、

その雨夜が休養するほど消耗している。



陽翔は、静かに拳を握りしめた。


(……早く追いつかないと)


守られる側でいる時間は、もう終わらせたい。


────────


団長がフロアを後にすると、

張りつめていた空気が少しだけ緩んだ。


烈は大きく伸びをし、椅子にもたれかかる。


「しかしまぁ……

雨夜と澪が居ないって変な感じだよな」


陽翔は曖昧に笑う。


「ですね……」


少し間が空く。


陽翔は机の上に視線を落としたまま、

ぽつりと呟いた。


「……やっぱり、すごいですよね」


「雨夜さんも、澪さんも」


烈は、その言葉を聞いて一瞬だけ動きを止めた。


「ん?」


「俺、皆に追いつけんのかなって………」


自分でも驚くほど、声が小さかった。


烈は椅子から立ち上がり、

数歩歩いて陽翔の前に来る。


そして、わざと軽い調子で言った。


「まっ、1番弱いのは確かだな!」


陽翔は、否定できずに黙る。

その様子を見て、烈の表情が変わった。


笑いが消え、真っ直ぐな目になる。


「なぁ、陽翔」


低い声。


「お前さ、あの戦いの後から

‘’強さ‘’を求めてるよな」


陽翔が顔を上げる。


「お前が思う強さってなんだ?」


「1人で魔人を倒せるようになる事か?」


「仲間を守れるだけの力があればいいってか?」


烈は自分の拳を見つめ、視線を戻す。


「俺が思う強いってのはな」


「仲間と一緒に立ち続ける事だ」


一歩、近づく。


「仲間が倒れた時に支え続ける事だ」


さらにもう1歩。


「仲間を信頼し頼ることができる事だ」


陽翔をまっすぐに見据える。

今まで見たことのないくらい真剣な顔で、

烈の目には揺るがぬ信念が宿っていた。


「仲間を頼れ信じろ」

「仲間が助けてって来たら、全力で守れ」


この言葉に陽翔の胸が熱くなる。


「追いつく、追いつかないじゃない

みんなで一緒に支え合っていくんだ」


「それが‘’暴黒うちの獅子‘’の強さだ!」


「それに、ここのやつはな」


「お前が守ろうとしても

大人しく守らせちゃくれねぇよ」


「むしろ、お前を守ろうとするぜ?」


烈は歯を見せ、笑った。


「立つ時は一緒だ。置いてかねぇし……

勝手に追い越すなよ?」


陽翔は思わず息を吐く。


「……はい」


心が軽くなった気がした。


烈は満足そうに頷く。


「よし」

「じゃあ今日も訓練だな」


陽翔は苦笑しながら立ち上がる。


「え、烈さんと……?」


ちょっと嫌そうな顔をする陽翔。


「甘えんな」

「強くなりてぇんだろ?いくぞ」


その背中を見つめる。

背中は、まだ遠い。

まだまだ皆に追いつくことは出来てない。

だが確かに前にある。確かに支えてくれる。



────────


翌日……


魔人収容所の廊下は、昼でも薄暗い。

無機質な灯りが、白い壁と鉄格子を鈍く照らしていた。


「……聞いたか?」


小声が、通路の端で交わされる。


「例のAクラス魔人、

あの暴黒の獅子が確保したらしいぞ」


「は? あそこ、弱いクランじゃなかったか?」


「俺もそう聞いてたが……」



ひそひそとした声は、すぐに途切れた。

足音が近づき、職員たちは

何事もなかったかのように散っていく。


────


面談室は、簡素だった。

机と椅子が向かい合い、壁には拘束用の魔法陣。


椅子に座る狂歌は、微動だにしない。

視線は落ち、呼吸だけがかろうじて生を示している。


団長は、真正面に腰を下ろした。


「……」


狂歌はこちらを見る素振りもなく

ただ俯いている。


「フードを被った追尾魔法を使う男に

心当たりはないか?」


「…………」


反応なし。



「アイツと仲間か?他に仲間は?」



「…………」



これも反応なし。



「何故、この街で殺人を?」



「…………」


狂歌は、何も話さなかった。

怒りも、憎しみも、涙もない。

空っぽのようだった。


数分が過ぎ、団長は小さく息を吐く。


「……これ以上は無駄か」


それだけ言って、立ち上がる。

狂歌は一度も顔を上げなかった。


────


「近衛さん、こちらを」


廊下で呼び止められる。

声をかけてきたのは、女性職員だった。


「囚人服に着替えさせる際に、確認しました」


差し出された端末の画面。

そこには、狂歌の身体に刻まれた紋様が映っていた。


黒く、歪んだ太陽のような刻印。


近衛の視線が、わずかに鋭くなる。


「……これは?」


「傷ではありません。魔術的な刻印です」


「死亡したもう1人からも同じ刻印が

確認できています」


団長は、画面を見つめたまま言った。


「……刻印……」


(双子は同じ刻印。

 そして、例の男と同じフード……)


(なら、例の男の身体にも

 この刻印がある可能性があるが……)


「まだ何とも言えんが…………」


端末を返し、踵を返す。


「情報提供、感謝する」


────


暴黒の獅子・本部ビル。


訓練場に、鈍い音が響いていた。


「ほら、止まるな!」

「はいっ……!」


陽翔は息を切らしながら、動き続ける。

烈はすぐ隣で、当然のように同じメニューをこなしていた。


烈は横目で陽翔の動きを一瞬だけ確認する。


「……お」


小さく、短い声。


「部分強化、前より安定してきたな」

「魔力のブレがほとんどねぇ」


陽翔は驚いたように目を瞬かせる。


「ほ、ほんとですか……?」


「嘘ついてどうすんだよ」

「最初の頃は、力入れすぎてブレッブレだったろ」


烈は軽く鼻を鳴らす。


「今はちゃんと“動きながら”使えてる」

「これなら戦闘でも問題無いと思うぜ」


「よっしゃあああああ!!」


陽翔は思わず高く拳を突き上げ、

抑えきれない喜びに身体を震わせた。



そこへ、足音。


「……団長?」


振り向いた二人に、団長は短く告げた。


「僅かだが、手がかりを入手した────。」


その一言で、空気が変わる。


陽翔の胸が、ドクン、と跳ねた。


何かが動き出す。

そんな予感だけが、はっきりと残った。





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