第3話 入団式 ③
「……っと! なんか重くなってきたな!」
烈がぱんっと手を叩き、明るい声を上げた。
「まあ要するにだ! 昔はいろいろあったけど、
今はちゃんと前向いてやってます、って話だろ?」
場の空気が、ふっと緩む。
澪が苦笑しながら烈を見る。
「もう……でも、間違ってはいないわね」
「だろ? 暗い顔してても何も変わらねえ」
烈は笑いながら肩をすくめた。
千景が小さくため息をつく。
「……あんた、雰囲気ぶち壊す天才ね」
「壊すのは得意だぜ!」
そんなやり取りに、自然と空気が和らいでいく。
薫は書類をまとめ終え、静かに口を開いた。
「陽翔くん。今の話、急に重かったと思うけど……
無理に全部理解しなくていいからね」
陽翔は少しだけ戸惑いながらも、頷いた。
「はい……ありがとうございます」
近衛は腕を組んだまま、一同を見渡す。
「よし、顔合わせは済んだ。あとは、これからだ」
団員たちがそれぞれ動き出す。
大広間は少しずつ、賑やかさを取り戻していった。
陽翔は、その様子を少し離れた場所から見ていた。
騒がしくて、落ち着かなくて、
それでも——妙に安心する空気。
胸元の獅子の紋章に、そっと視線を落とす。
「……よし」
小さく息を吐き、陽翔は一歩踏み出した。
ここから始まる、このクランでの日常へ。
「……陽翔くん」
静かな声がした。
振り向くと、薫が少しだけ柔らかい表情で立っていた。
紺色の髪を整え、丸縁の眼鏡越しに、穏やかな視線を向けている。
「ちょっと、いいかな?」
「は、はい」
陽翔が頷くと、薫は広間の端、窓際の落ち着いた場所へと歩き出した。
朝の光が差し込み、床に淡く影を落としている。
「さっきの話……急に重たいことを聞かせてしまって、ごめんね」
薫はそう言って、軽く苦笑した。
「いえ、大丈夫です」
「そう? ならよかった」
少し間を置いて、薫は続ける。
「君がここに来る前の暴黒の獅子は、
正直言って……あまり誇れる状態じゃなかった」
その言葉には、否定も飾りもなかった。
薫は少しだけ言葉を選ぶように、視線を落とした。
「……さっきの話、ひとつだけ付け加えるなら」
陽翔は黙って耳を傾ける。
「僕はね、近衛さんに救われて、ここにいる」
淡々とした口調だったが、その言葉には揺るぎがなかった。
「昔、判断を誤って……自分ひとりじゃ、どうにもならない状況に陥ったことがある。
そのとき、手を差し伸べてくれたのが近衛さんだった」
薫は静かに息を吐く。
「強いだけじゃない。
〝守る〟ということを、迷わず選べる人だ」
そして、眼鏡越しに陽翔を見る。
「だから僕は、あの人の背中を信じている。
副団長をやってるのも、その延長だよ」
少し照れたように、薫は笑った。
「……尊敬してるんだ。心からね」
陽翔は、その言葉を噛みしめるように頷いた。
「だからね。君が『人に魔法が撃てない』って言ったとき、
それを理由に拒む人はいなかった」
陽翔は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「君の実力とか魔法が撃てないとか関係ない。
人を無条件で助けれる君を、僕達は信じる」
薫は優しく微笑む。
「無理をしなくていい。
困ったら、僕に言って。副団長としてじゃなくてもいいから」
その言葉は、静かで、押しつけがましくなかった。
「……ありがとうございます」
陽翔は、素直にそう答えた。
「うん。じゃあ――」
薫は少しだけ表情を崩し、肩の力を抜く。
「今日は顔合わせだけだし、
このあと烈くんに捕まる前に、逃げておいた方がいいかもね」
「え?」
「十中八九、無駄に絡まれるから」
その一言に、陽翔は思わず笑ってしまった。
遠くの方で、烈が誰かに大声で話しかけているのが聞こえる。
「……本当ですね」
二人は小さく笑い合い、
拠点の朝は、ゆっくりと本当の日常へと溶け込んでいった。
副団長
26歳
雨夜 薫 あまやかおる
176cm
65kg
細マッチョ。
紺色の髪を頬までの長さで七さんで分けている。
丸渕の透明なメガネ。
優しそうな顔をしている。
基本的に性格は穏やかで優しく
暴黒の獅子の良心
口下手な団長に変わって言葉でフォローする。
団長に救われ団長を尊敬し一生ついていくと
決めている。




