表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
15/34

予定日数日前

         ☆


「ばっちこーい!」


「お願いします!」


 入学から早くも一ヶ月と少し。そろそろ一年生が部活動に慣れ始める頃で校庭からは運動部の様々な声が──



「くらえ!俺の編み出した新技『アルティメットダークネスシュート』!」



 ──聞こえる。


 だがいつの間にか、ただのサッカーから超次元サッカーになったというのは知らなかった。


 試合での能力の使用は禁止されていないのだろうか? それはそれで面白いと思う。が、偶像先輩や荒井先輩がプレイしているところを想像すると独り舞台となる光景しか見えないのでやっぱり却下。


 サッカー部から目を離すとすぐ隣のグラウンドが目に入る。こっちでは野球部が練習をしているようだ。


「俺の『曲がる魔球』受けてみろ!」


「来い!」


 ……スライダー。あれって魔球、なのか?


「おっといけない」


 さっさと寮へ帰らないと姫野に何を言われるかわかったもんじゃない。


 俺はグラウンドから目を離し、小走りで寮へと向かった。



「帰ったぞー」


「お帰りなさいませ、ご主人様」


『おかえり!』


 普通ならメイド・執事喫茶でしか言われないであろう言葉と可愛い丸文字で出迎えてくれたのは早乙女とクリス先輩だ。


 俺はいつものように二人だけと(、、、、、)挨拶を交わすと早乙女に鞄を手渡し、リビングへ向かった。──この縄張り(部屋)を仕切るお姫様の元へ。


「………………」


 俺の視線の先には、横になって煎餅を咥えながらテレビを見る少女の姿。


 言っておくがここは俺の部屋だ。なんてこいつに言っても伝わるわけがないのでいつも通りに話しかける。


「ただいま、姫野」


「………………」


 俺の声に反応してこちらを向くがそれもつかの間、無言でテレビへと視線を戻す。


 ……少しだけ涙が出そうになった。


 何⁉︎ これは俺が悪いのか⁉︎


 後ろで様子を見ていた二人も流石にこれには同情したのか、早乙女は戸棚からいつもより高級感の溢れたお菓子を取り出し、持ってきた。


 クリス先輩も俺を慰めようと頭に手を伸ばすが届かないようで、『これじゃあ先輩としての威厳が……』なんて書いていた。まあ、その後座って撫でさせてあげたら笑顔で喜んでいたが、あれじゃあやはり先輩というよりは年の離れた従兄妹だ。


 そんなクリス先輩は少しの間俺を撫でた後、何かを思いついたようで真っ白なホワイトボードに文字を書き始めた。


『ワタシ知ってるよ。舞姫と秀勝の関係ってケンタイキって言うんだよね?』


「ぶふっ⁉︎」


『だいじょうぶ⁉︎』


 クリス先輩の唐突な不意打ちに耐えられず、思わず吹き出してしまう。


 馬鹿野郎。俺と姫野が倦怠期っていうとなんか恋人みたいじゃないか。

 俺も願い下げだし、何より姫野が知ったら殺されるだろう。俺が。


「使い方間違ってますし、それ姫野の前で絶対に言わないで下さいよ」


『……? わかった』


 小声でクリス先輩と話しながら姫野の方を見るが今やってるテレビに釘付けのようで、こちらには気にも止めていない。


『ねえねえ、ケンタイキってどういう意味なの?』


「先輩は知らなくてもいいことですよ」


 そう言って微笑む。目の前にいる天使にそんなドロドロとした話はまだ早い。


『えー教えてよー』


「何を教えて欲しいの?」


「それは……ってうおっ⁉︎」


 突然かけられた声に振り向くと、そこに立っていたのはつい先程までテレビに釘付けだったはずの姫野だった。


 不味い……。このまま話せばほぼ確実に俺が殺られる。

 こんなことで、なんて思うかもしれないが、こいつにはそんな理不尽がまかり通るんだよ。


「何よ、幽霊を見たようなリアクションして。一体何の話してたのよ」


『舞姫と秀勝がケン──』


「足が滑ったああぁぁ!」


「きゃっ!」


 さりげなくコケる振りをしながらボードを強奪し、瞬時に文字を消した後、前へ倒れこむ。ここまでのタイム、僅か三秒。


「☆◉◯▷!」


 クリス先輩が何か言ってるが気にしない。言葉っていうのは伝わらなければ意味ないんだぜ?


「さっきから何なのよ、騒がしくして」


 俺の突然の奇行に若干姫野が引いているが何とか誤魔化せた。


「まあ、いいわ。そんなことより、あれを見なさい!」


 姫野の指した先に三人の視線が集まる。そこは姫野がさっきまで寝ていた場所──正確にはその先の画面に、特集と題された映像が映し出されていた。


『──見てください、この豊富なスイーツの種類! 例えばこのモンブラン、上に乗せられた栗が宝石のように輝いていますよ!』


「……うん。で、これがどうしたんだ?」


 確かに色とりどりのスイーツが所狭しと並べられていてとても美味しそうだが、そんなことでこのお姫様が騒ぐはずがない。


 ……今すぐ買って来いとか?


「これだけじゃないわ! 他にもたくさん面白そうな場所が紹介されていたのよ!」


「……なるほど。それで?」


 やはり俺をパシらせる気か。両手で収まる量で済めばいいのだが。


「馬鹿ね、よく画面を見なさい」


「痛い痛い! 蹴られてたら見れません! ってここ、すぐ近くじゃないか」


 大型ショッピングモールか。場所的にここからなら徒歩数分ってところだ。


「ついこの前オープンしたらしいの!」


 良かった。これならすぐにでも買ってこれる。頼まれたら俺はいつでも行けるぜ。


「だから、次の日曜日……私と行かない?」


「任せとけ! じゃあ行って……って、え?」


「ほら……一人じゃあんな場所行きづらいでしょ? スイーツバイキングなら奢られてあげるから、ね?」


 奢られるやつの態度とは思えないが、まあいいだろう。俺も興味あるし。

 スイーツバイキングか。甘い物が特段好きなわけでもないが、それでもスイーツバイキングという言葉の響きには何かクルものがある。何を食べようかなあ。


「わかった。じゃあ次の日曜日な」


「ええ。あ、でも午前中は予定があるから午後からにしましょう。まあ詳しくはメールするわ」


「じゃあ先に行って適当に回ってるよ」


 久しぶりに充実した休日を過ごせそうだ。ってあれ? クリス先輩と早乙女がいない。二人してどこ行ったんだ?



「お二人方は午後から行動を共にされるようです」


『なら午前中だね。どっちが先にする?』


「開店が九時だそうですが、私はどちらでも構いません。クリスティーネ様の意のままに」


『じゃあワタシがお先に』


「かしこまりました」


『でも午後までの時間は仲良く半分こだからね!』


「ありがとうございます」


『じゃあ……』



「『次は日曜日に』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ