闇の主 タカスギ・シンクウとの戦い
東行神社から転送ゲートにてワープした拙者とミツバは、ついにタカスギの私邸の庭に辿り着く。拙者達をワープさせた妖怪幼女のロコは言う。
「ここからは自分達の力で進んでロコ。もう、ここからの敵は自分の意思で戦いに来る妖怪ばかりでロコには止められない。あの館の奥に、タカスギ様はいるロコ。さらば!」
シュタタッ! とロコは走り去った……が、途中でコケた!
イチゴ柄のパンツが露になるが、拙者とミツバは視線を天に上げ、それを見ていない事にしたでござる。
このシュールな場面でコケるとはやってくれる。
半泣きのロコはどこかに消え、タカスギの私邸の周囲にいた妖怪達は拙者達に気付いた。
すると、これから始まる戦いに天が怯えたのか、雨が降り出して来た。
拙者は額の鉢金の紐をきつく結び直し、浅葱色のダンダラ羽織の襟を正し、清流刀を抜いて目釘をツバで湿らせた。
「さて、討ち入りでござる」
「オッケー! ザコ共を蹴散らして、一気にタカスギ倒しちゃお!」
「行くでござる!」
拙者とミツバは敵陣を駆ける!
前方に居る妖怪・ドスコイはその巨漢を揺らし叫ぶ。
「んだオメー等は! 死ねや!」
『邪魔!』
と、拙者とミツバの一撃で倒れる。
くしくも降り出した豪雨により視界が悪くなり、奇襲を受けた形になる妖怪達は陣形を乱される。
雨の視界不良と、周囲の音をかき消される状況。
そして、少数精鋭の強者による奇襲は大群が突如押し寄せて来たかのような錯覚もあり、全ての対応が後手後手に回る。そこに金ピカの成金妖怪・ゴールドマンが現れたでござる。
「この甲冑は市場で最高額の甲冑! そんなチンケな刀で斬れると思うのか?」
「金で高価な装備は買えても、いざという時の順応性は身につかないでござるよ」
「ぬぁ!? なんとーーー!?」
バババッ! と黄金甲冑のスキマを刀で突き刺した。
最高の武具ならば、この世界の覇王武具であろうに。
おそらく、覇王武具には選ばれない弱い妖怪なのだろう。
ミツバでも一撃で倒せる妖怪も多く、タカスギに金で雇われただけで本物の武人いないでござるな。
この烏合の衆ならば、一気に館に入れるでござるよ!
「ミツバ! マグマドラグーンで蹴散らすでござる!」
「あいよ! このミツバちゃんに任せときんしゃい! ……業火灰燼・マグマドラグーン!」
ズバァ! と炎の龍が出現し、タカスギの庭にいる妖怪達は蹴散らされた。
そしてミツバはその龍を、タカスギの館にも突っ込ませた。
ズゴンッ! と爆発し、その穴に駆け出す。
ほーほー……敵だけでなく侵入経路まで作ったか。
流石は拙者の相棒でござるミツバ。
「派手に行くでござる!」
「フォー!」
タカスギの館内部の妖怪達も蹴散らすでござる。
左右に迫る猫妖怪・すねこすりを倒し、猛毒の牙を持つ妖怪・犬娘の背後に一撃を叩き込む。
そして妖怪・糸小僧が拙者の左腕を糸で絡め取るが、それを無理矢理引っ張ってハンマーのように扱って周囲の妖怪を倒す。ミツバはネズミ妖怪・ネズーの尻尾を燃やし、戦意喪失させて退治していた。
そして拙者はバッサバッサ! と斬り倒し、一分にして三十以上の妖怪を倒したでござる。
築く屍に振り返り、拙者は呟く。
「安心しろ。峰打ちでござる」
『は、は~い……』
と、倒れた妖怪達は白旗を上げる。
そのまま拙者達は奥へ進み、一つの扉を発見した。
拙者はその扉の前で立ち止まる。
「居る……ここにタカスギが」
明らかにこの奥から異様な雰囲気をかもち出す殺気がある。
怜悧な殺気のようでいて、鼻歌を歌うような陽気ささえ感じる不可思議な感覚。
全てを煙に巻くような威風堂々の、まるで天に愛されたかのような男――。
かすかに漏れる煙を視認し拙者は息を整え、背後の相棒に言う。
「ミツバ、行くでござるよ」
「うん。ここからはよろしくね」
「血ート剣客の拙者アオイ・コウケンに任せるでござる!」
そして、拙者達はタカスギ・シンクウの待つ扉の奥へと侵入した。
そこは、煙の立ち込める和室でござった。
※
タカスギの朱色の煙管から生まれる煙に支配される和室に、拙者達は足を踏み入れた。
奥の座布団の上に座り、旨そうに煙管を吹かす紫の髪の男は何故か笑っていたでござる。
両者は無言のまま見つめ合う。
団子を食うタカスギは、その木の棒を投げた。
すると、ミツバの隣に居る拙者の身体を突き抜けた。
そう、本当は入口にはミツバしかいない。
入口にいた拙者は魔法で作られたダミーでござる。
本物の拙者は、タカスギの頭上の天井に足をかけていた――。
「清流鬼神流・流星斬!」
タカスギの真上から奇襲をかけ、拙者は流星の一撃を叩き込む。
ズゴウンッ! という衝撃と共に、和室の煙は散った。
ミツバは奇襲に成功したと思い微笑む。
しかし、というかやはり、その男には無意味な一撃だったようでござる。
その甲高く冷たい声でミツバの顔は引きつり、拙者は口元を笑わせた。
「よお、大将」
相変わらず座布団の上に座るタカスギはそう言い、嗤った。
ケケケッ……とまるで動じない紫煙の悪魔は言う。
「せっかくの奇襲も失敗に終わった……が、あんま驚いてねぇのな」
「それはお互い様でござろう」
「クックックッ……」
「ほーほーほー……」
『ハーッハーッハッハッ!』
と笑い合う拙者達はどうにも敵とは思えない現状に困惑さえしている。
やれやれと息を吐くタカスギは言う。
「この煙幕は防御にも使えるんだ。まともにくらってたらもう死んでるぜ? お前さんはやはり俺を恨んでいるな?」
「タカスギ、挑発には乗らぬでござるよ。その言葉遊びにはもう飽きたでござる」
「ケケッ、そう怒るなよ。タイマン張らなきゃ気が済まない性格は俺と同じだからな」
「お主の腹心もそうでござろう。奴等も好戦的で自分に自身があり、タカスギを心の底で認めつつも恐れている」
「ケケッ、尊敬と畏怖が無い部下などはありえんのだ。故にアオイ、お前さんもそうあるべきだ。俺の部下になれよ?」
「本当に正気なのか酔っているのかわからんでござるな。お主は酒にも思想にも酔えない性質のようだが」
「ハハッ! 面白い指摘だ。さぁて、面白く愉快な時間にしてくれよ」
微笑むタカスギに、拙者は問う。
「本心を聞かせるでござる。お主は実際の所、何をしたいでござる?」
「夢の世界を、作りたい」
「夢の……世界?」
「そう、お前さんにとって夢の世界とは何だ?」
夢の世界……。
それは光溢れる世界でござろう。
拙者は幕府を守る新選組の一団として平和の為に、その夢の世界の為に人を殺めて来た。
でもそれは、実際には光の道など歩んではいなかったでござる。
この世界でも同じ事を言えるかはわからぬが、今のタカスギの行動では新たな人妖戦争を生み出すだけになる。だからこそ、今の拙者の答えを告げる。
「完璧過ぎる夢の世界とは、夢の無い世界でござるよ」
ケケッとタカスギは納得したような顔をし、立ち上がる。
拙者はこの男の望み通りに〈血ート剣客モード〉にならねばならない。
「ミツバ……血をもらうでござるよ」
「うん……」
ねっとりと舌を這わせ、ねちょねちょとミツバの首筋に吸い付く。
ペロペロペロ……と舐め、首の肌を刺激し、愛撫してからその唾液を吸う。
「あ……」
ミツバも相当感じている。
そして軽く甘噛みし、微かな血を吸う。
舌先を小刻みに動かし、血と唾液でミツバの全身を快楽へ誘う。
そう……もっと感じろ。
その悶えと興奮が拙者の血ート剣客モードを更に強くする。
腰をミツバの尻に押し付け、左手でヘソを刺激し、右手で頭を傾けて固定する。
「行くぞ……」
「はぁ……ああっ! ああああっ!」
絶頂を迎えたミツバの悦楽の声と共に拙者は噛み付き、血を吸った。
ミツバの全てを屠るように吸った。
そして、拙者の髪を縛る糸が弾け、青い髪が血の赤に染まる。
狂気の赤に……。
(……いい感じに拙者の……俺の力が目覚めて来たぜ!)
そして血を吸われ睡魔が襲い掛かるミツバは言う。
「んじゃ寝るから後、よろしく」
「任せておけ。このアオイ・コウケンにな」
「うん……」
頬にキスをし、懐から取り出した洗濯バサミを鼻にかけてミツバの大災害クラスのイビキを止め、俺は清流刀を抜く。
このミツバは口呼吸でも悪いウイルスを受け付けない……というか、ウイルスが効かない元気体質らしいから問題無いぜ。異世界の女子は面白いもんだ。そして、俺は自分の洗濯バサミで髪をポニーテールに纏めた。
「待たせたな。これが最強無敵・血ート剣客だ!」
ズブオオオッ! と赤いオーラが和室に響き、タカスギの身体に鳥肌が立つ。
そのタカスギは突如、煙管で俺を攻撃して来た。
焦ってんのかタカスギ?
『――!』
スッ……と互いは交差し、タカスギの肩から血が吹き出る。
それに茫然とするタカスギは、
「おいおい……危うく一撃で死んでる所だぜ。覇王武具の盆暗煙管が無かったらマジで死んでたし、小便ちびったぜ」
覇王武具・盆暗煙管。
煙幕を攻防で使う事が出来、目くらましなどにも使え多種多様な戦術がとれる覇王武具だった。
高ランクの覇王武具らしく、俺のチートパワーに近い力を得られるらしい。
小便を漏らしたらしいタカスギは紫の褌を捨てる。
そして、この血ート剣客の変化に狂喜するタカスギは言う。
「狂気そのものの野獣。それがお前さんの本質だよ……アオイ」
「そうかもな!」
『うおおおおっ!』
俺達は筋肉質な上半身を躍動させた。
そして清流刀と盆暗煙管が激突する。
足元を蹴り、体勢を崩そうとするがタカスギは口から吐く煙で足をガードしていた。
チッ! と舌打ちし、連続突きをかます。
「つえああああああっ!」
キンキンキンッ! とタカスギは防ぐが、俺の常人離れした突きには煙を使う余裕も無く対処出来ない。
それもそうだ。
俺は新選組時代、一番隊組長・沖田総司殿の一突きで三回突くほどの電光石火である三段突きを道場で幾度も無く浴びている。だからこそ、ここぞという時の突きは強い!
「うらぁ!」
「ぐはっ!」
その強烈な突きが炸裂し、タカスギは出血の酷い腹部を抑える。
すぐさま煙幕で全身を覆うタカスギは、本気の力で俺を仕留めに来るようだ。
俺は赤い髪の毛先を後ろにやり、清流刀を突き出し言う。
「タカスギ。お前の本気を叩き潰す」
「ケケッ。愉快、愉快、不愉快!」
激烈な戦いが、始まった――。