閃光玉になりたい
俺は一人、芝生に座って、緑のパイプにフーと息を通した。
パイプの先端からシャボン玉が膨らんで、程よい大きさになり、空へ飛んで行く。
「のどかだ」
校庭の方から笛の音が聞こえてきて、その音と同時に、豆粒のように小さな生徒達が、ゾロゾロと揃って列をなして行く。
そういえば、この時間は確か、俺のクラスが体育の授業を行っているのだったな。
「うん。のどかだ」
豆粒のように小さい生徒達は誰もふざける様子は無く、綺麗に揃って、集団行動をこなして行く。
「のどかで、そして退屈だ」
あの豆粒のような人間たち全員の名前も性格も分かるのに、動きを見てもどれが誰なのか全く分からない。
端的に言うと、豆粒たちの動きには個性が無いのだ。
生まれてきてからそう教育されたから、豆粒たちには個性が無いのだ。
――――俺達は、超能力者。世間一般では超人と呼ばれている存在。
超人は生まれた瞬間から、国連軍への入隊を強制される。
ここはその教育施設。あえて名前を付けるなら、超人軍高校とでも言ったところ。
超人が所属する国連軍は地球の平和維持が目的の組織であり、テロリストの撲滅や地球に襲来する隕石の排除などが主な役割。
言うならば、超人は世界の平和を守る兵士――――いや兵器な訳だ。
生まれつき超常の力を持つ超人は皆、幼少の頃から人格矯正を課され、その結果があの豆粒たちの動き。
無個性で無気力。右を向けと言われれば右を向き、左を向けと言われれば左を向く奴らの集まり。それが国連軍の超人というもの。
とはいえ、当然超人達だって人間だし、一応それぞれ性格や特徴はある。
ただ、任務中や授業中など、個性を殺せと言われれば簡単に殺せて、一つの駒になれてしまえる。いじめも恋愛も仲の良いグループもあるが、教師にダメだと言われれば一瞬で止めてしまう。俺達は、そんなつまらない人間なのだ。
俺はもう一度パイプに息を通す。
無数のシャボン玉が宙を舞った。
そして一つずつ、シャボン玉は割れて行く。
個性も無く色も無く、輝きもしないシャボン玉は、何だか俺のようだと何気なく思う。
――――残り少ない俺の人生も、このシャボン玉みたいにどこまでいっても地味で、割れた事を誰にも気付かれずに、ひっそりと終わってしまうのだろうか…………。
俺は空に浮かぶシャボン玉を見て、ふとそんなことを思う。
そして、青空に浮かぶ地球を見て、それに向かって手を伸ばした。
「俺も、地球に行ってみたかったな……」
超人基地はこの世に二つしかなく、いずれも安全上の問題から人里離れた場所に位置している。
一つは南極に、そしてもう一つはここ、月にあるのだ。
南極にある基地の超人が地球の任務を担当し、月面基地の人間は宇宙関連の任務を担当することが多い。
だから俺は、まだ地球に行ったことが一度も無い。
別に、地球がまるで天国だとか極楽浄土だとかのような、言い表せない程の素晴らしい場所なのだろうとは思っていない。
紛争だとか略奪だとか、ここよりも数倍重苦しい事が地球で起こっているのも知っている。
でも、例えそこが素晴らしい場所では無いと知っていても、俺はそこに行きたいと感じてしまう。
――――誰の記憶にも残らずに、死んでいきたくはない。
「何もかもが終わる前に、せめて一度だけでも―――」
そうぼやいた時だった。瞬きした途端、空に浮かぶ地球の横に一つの黒い点が見えた。
その点は次第に大きくなっていき、色づき始めた。
それは明らかに、こちらに向かってきている、何か――だった。
「アレは……人っ――――?」
そう気が付いた時には、物凄い風圧と轟音が、俺を襲っていた。
その衝撃によって、シャボン玉たちは一つ残らず破裂してしまう。
「やあ、初めまして」
それは、女の子だった。
金色の長髪に、アメジストのような紫と、翡翠のような緑が混ざった、不思議な色の瞳を持つ、どこか人間らしくない神秘的な美少女だった――――。
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