プロローグ
具合の悪そうな美人を見かけたら、声をかける。騎士見習いとして当然のことだ。
……ただし、その美人は男だったんだけど……。
うららかな昼下がり、俺はいつものように巡回をしていた。
広い公園。噴水が光を弾いてきらめき、少しまぶしい……。
ふと、その後ろの木の陰に、誰かがぐったりと座り込んでいるのが見えた。顔色が悪く、長い黒髪が顔にかかっていて、どうにも具合が悪そうだ。
「どうなさいましたか?お嬢さん。」
「お嬢さん……?」
相手がノロノロと顔を上げる。
瞬きをした、長い睫毛に囲まれた瞳は神秘的な紫。
(綺麗だな……)
最初に思ったのは、それだった。
それが、俺とあいつの、初めての出会いだった。
「誰がお嬢さんだ……?」
あれ?最初の違和感はそこだった。声が、意外と低い?
スッと目の前の人物が立ち上がる……
ヤバい。デカい。
「誰がお嬢さんだ!ふざけるな!」
キレられた。
「どうして俺ばかり…!何もかも上手くいかない!!!」
そこまで言うと、目の前の美人は限界だったのか、ふらふらして……急に倒れた。
「うわーっ!?大丈夫か!?しっかりしろ!」
倒れた"美人"に肩を貸したまま、宿まで運び、ドアを乱暴に叩く。
開く間もなく、押し開けた。
「主人は居るか?病人だ!場所を借りたい!」
慌てて出てきた主人は目を白黒させながらも、空いている部屋に案内してくれた。
「お医者様を呼びましょうか?」
「ああ、頼む。」
急いで、軽く外傷や傷なんかのチェックをする。……今のところは、大丈夫そうだ。だが、"美人"は、苦しげに目を覚まさない。
とりあえず宿の主人に、1〜2日分の宿泊料を渡し、駆け込んで来た医者に患者を任せて……
ふと、視線が窓の外へ向く。空の色が、変わりかけていた。
「あっ…、もう門限近い!?」
俺は慌てて騎士団寮へ向かって駆け出した。
――この出会いが、後の全てを変えることになるなんて、この時の俺はまだ知らなかった。




