焼け焦げた人の楔
2本目、前話をちょこっと修整したのは此処だけの秘密…。
3本目は…未定!
――ザァァァッ――
荒々しい強風が森を撫でる…その森を見張っていた村の警備隊達は、生暖かい風と薄暗く変わる空模様に言い知れぬ不安感を抱き…頻りに周囲に目を配る…。
――『ッ……ッ!……ッ!!!』――
「……ん?」
そんな、小さな恐怖心に心根を蝕まれた彼等だからこそ、逸早く〝ソレ〟に気が付くことが出来たのだろう…ある者が一人…森の奥地に動く〝影〟をその目に捉える。
「……何だ…アレ?」
「どうした?…何か見つけたのか?」
その影の正体を正しく捉えんと目を凝らし、櫓に手を掛けジッと強く見据える彼に、同僚の一人がそう言い彼の目線を追う。
――パカラッパカラッパカラッパカラッ――
「あ?……何だありゃぁ……〝馬〟?」
そんな彼もまた、徐々にシルエットが映る程の距離にまで迫ったソレを見つけ、同じ様に目を凝らす…。
「ッ――ヒッ!」
そして、凄まじい勢いで迫るソレの姿に…彼等は思わず恐怖の声を漏らす…ソレほどまでに、己等の目撃した〝ソレ〟は…悍ましい〝異形〟の姿をしていた。
――パカラッパカラッパカラッパカラッ――
快活に蹄で地面を蹴るソレには、凡そ獣を獣足らしめる皮膚が無く…その身体を肉々しい触手の様な器官で覆い尽くしながら、馬顔負けの速さで大地を駆け抜ける。
――ギョロッ――
その頭部には大きな1つ目が有り…ソレが〝己等〟を射抜くと同時に、その速度を更に速める。
「ッ――け、警鐘を鳴らせッ、来たぞ…〝化物〟が出た!」
恐怖に晒されていた彼等も、心根の全てまでは染まりきっては居なかったらしい…あわや、警備隊の役割を放棄するその一歩手前で立ち返った彼等はその瞬間、弾かれた弓の様にそう言いながら行動を開始する。
――カンカンカンカンッ!――
村全体を不快な程高い金属音が包む…すると、住民達の多くは自身の家の中に避難し…男共は持ち場に着く。
「〝門を閉めろ〟!」
誰かの怒号が響く中、門は大きな音を立ててゆっくりと持ち上がり――。
――ズゥゥンッ…!――
やがて外界村は、外界から完全に隔絶され…外からの襲撃者は村への侵入経路を失った…。
――パカラッパカラッパカラッパカラッ――
―――〝筈だった〟…。
○●○●○●
「門への突撃は…間に合わないか」
(まだ櫓には十分な兵が集まってない…だったら)
――グバァッ――
私は馬の形状を解きながらそう言い、新たな〝形状〟に形を変え…背に乗るレイナへ言う。
「レイナ、悪いけど揺れるわよ」
「へ?――キャアッ!?」
その瞬間、馬の身体は崩壊し、レイナがバランスを崩し地面に倒れようとする…その寸前、私はレイナを掴んで抱き脇に挟み、レイナへ更に指示を出す。
「〝手を組んで掴んで〟――〝振り落されない様に〟ね!」
その瞬間…崩壊した粘液が全て、私へと吸収され…私は成人男性より一回り程大きな体躯の〝人型〟に姿を変え…跳躍する。
――ドンッ!――
跳躍の瞬間、私はレイナから手を離し…レイナが私を掴んでいることを確認すると空いた両手で木の壁に爪を突き立てる。
――ガリガリガリッ!――
森眠熊から学習したその爪は、木の壁に深く食い込み…私は壁に張り付いたまま、ずり落ちることは無く…寧ろそのまま壁を這い上がってゆく。
――ガツガツガツガツッ――
凄まじい勢いで肉体を躍動させ、あっという間に数メートルの壁を踏破すると…私は木の塀を掴み、村の中へと飛び込む…。
「ッ……!」
「〝こんにちは兵士さん〟…そして――」
空に飛び上がった瞬間、私と櫓の彼等の目が合う…その顔には強い焦りと、深い恐怖の色が有った…けれど、彼等にソレはもう必要無い。
――スッ――
何故なら彼等にはもう、今日を認識する術が無くなるのだから。
「〝さようなら〟――〝魔弾〟」
挨拶と同時に、片手で彼等を指し示し…魔弾を飛ばす…放たれた魔弾は私の込めた魔力に比例して大きく威力を増し…瞬く間もなく二人の兵士の頭を破裂させる。
――ドシンッ!――
そんな彼等の末路を見る間もなく、私は村の中に侵入し…背後にざわめく兵士達に〝触手の斬撃〟を振るう。
――ザザザザザンッ!――
その斬撃は…兵士達に抵抗を許す訳もなく…その命を容易く奪い去ると…一瞬にして人の身体を分断する。
《レベルが上がりました!》
「――まだまだ…〝獲物〟は沢山居るわね♪」
そんな彼等に意識を払う猶予も無く…私達に無数の視線と、矢が降り注ぐ。
「――ックフ♪」
そして、ソレがこの〝襲撃〟の音頭となるのだった。
●○●○●○
――カンカンカンカンッ!――
「ッ……遂に来た…」
警鐘の鳴り響く音を聞きながら…村長はそう言い…祈りを神の像に捧げる。
「我等を護りし秩序の神々よ…我等が村を護り給え…穢れた魔女を滅ぼし給え…!」
その祈りはブツブツと、静かな家の中を駆け回り…村長はただ祈りの言葉だけを紡ぎながら…外に鳴り響く闘争の終着を待つ。
響き渡るのは人の怒号と悲鳴…矢の音が、斬撃の音が、駆け回る足音が響き続ける…。
そんな中でも、神への祝詞が止む事は無く…村長は祈りに手を組み、神へ捧げる祈りを紡ぎ続ける。
延々…永遠と…何度目かの祈りが紡ぎ終わったその時…。
――……――
遂に、外で鳴り響いていた〝闘争の音〟はパタリと止む…ソレに気が付いた村長は静かに口を閉ざし…そして、周囲に気配の無い事を確認すると立ち上がる。
――カッ…カッ…カッ…――
そして、村長が閉じ切られた扉に手を翳し…押し開くと…扉から陽光が漏れ出し…その眩さに村長の目が閉じられる。
「ッ…魔女は――」
そして、光に慣れたその目が…外に広がる光景を目に映した…その時。
――グチャッ――
其処には…〝地獄の光景〟が…拡がっていた。
「――ッな…!」
その光景に、村長は目を見開き…後退る…だが。
――ガシッ――
「〝あら、あら、あら〟…もう出てきちゃうなんて、余っ程せっかちさんなのかしら?」
そんな声と共に、村長の目の前に現れた〝化物〟が…村長の首を掴み上げた。
○●○●○●
雑兵を殲滅し、逃げる兵士達を背中から斬り殺していた最中…私は目に付いた、この村の人間の中でも、特に〝派手〟な服飾をした老人を掴み上げる。
「グッ…ギッ…貴様…はァ…!?」
老人は、締め上げられた首を開こうと抵抗しながら、絞り出すような声で私に問いを投げる。
「はぁい、始めまして…自己紹介は必要?――だったら化物とだけ覚えると良いわ…どうせアナタも殺しちゃうし♪」
その問いに私は答えながら、地べたを這い…逃げようとする〝死にかけの人〟の頭蓋を踏み潰す。
「ッむ、村の…兵士達は…!?」
「〝大体殺しちゃった〟わよ?…後は残る兵士と、村の女子供、貴方も勿論殺して、皆私の〝糧〟にするけど…その前に、貴方…村長よね?」
ソレを見て尚、そんな疑問を投げかける老人の問いに答えながら…私は移動しつつ、その老人に言葉を投げ掛ける。
「――だったら聞きたい事が有るんだけど…〝レイナ〟って、知ってるわよね?」
「ッ……〝魔女〟…!」
「アハハッ、そうそう…貴方達にとって〝魔女だった女の子〟…やっぱり此処の出身だったのねぇ…地図とあの娘を拾った場所の位置から考えて、此処だと思ってたんだけど…だったら、そう…〝納得〟が行ったわ」
私は、村長の言葉にそう言いながら、宙吊りのままの村長を持って歩き…村長を見て言う。
「――貴方達〝レイナの家〟を焼いたわね?…あの子の〝大事な家〟を…あの子の〝家族の思い出〟を焼き捨てたのね?」
「グァッ…な、何が――」
〝言いたい〟…そんな村長の言葉を遮る様に…私は彼にも見える様に…目の前の〝ソレ〟を見せる…其処には。
「ッ―――!?」
焼け焦げ、炭に成り果てた〝家の残骸〟と…その前で佇む…黒髪の少女の姿が其処に有った。
「――ま…じょ…」
「ノー、NO NO NO…あの子は魔女じゃない…ただ、普通の〝人間〟よ…ほんのちょっぴり魔術の才に秀でていただけの〝人間〟…だったけれど…フフフッ♪」
その姿に村長は面白いほど顔を蒼くし…彼女の〝忌み名〟を語る、ソレは不当に着けられた彼女の〝呪い〟であったけれど…。
「――たった今、〝貴方達〟が望む通りの〝存在〟に成ったわね♪」
その〝呪い〟は、巡り巡って…〝真実〟へと昇華される…人間の…悍ましい〝悪意〟によって。




