使い魔と契約者
――ピクッ!――
「あ、起きましたか?」
「ン…タダイマ、レイナ」
スライムさんが寝てから、ほんの数分して…スライムさんの身体がピクリと動き、その感触に私はスライムさんの目覚めを理解する。
「――早速ダケド、レイナ…レイナニ、頑張ッタ御褒美ヲアゲル」
起き抜けに早々、スライムさんはそう言うと私の反応を待たずして、私の目の前に〝衣服〟と〝杖〟と〝書物〟をドサドサと落として行く。
「わ、わッ!?――どうしたんですかコレ!?」
「……買ッタ」
「へ?…買ったって…誰からですか?」
「ソレモ踏マエテ、レイナニハ説明シナイトイケナイ…〝ワタシ〟ガ、何者ナノカ…タダ、先ズハコレヲ使ッテ…〝魔術師〟ノ装備ト触媒…本ハ魔術書…色ンナ属性ノモノヲ買ッタ…好キニ使ッテ」
スライムさんはそう言うと、私に服と杖と書物を受け渡し、寝床に移る…兎も角、コレに着替えれば良いらしい。
「その、有り難う御座います…スライムさん!」
「ン…ドウイタシマシテ…」
私はスライムさんに一言、そうお礼を言うと…スライムさんから貰った服を抱え…その服に腕を通して言った…。
●○●○●○
――パタパタパタッ――
衣服を取り替えるレイナの姿を見る。
やや大柄な紺色のローブを纏い、捻じれた先端を持つ如何にも古そうな杖を突き…艶のある星の夜空の様な黒髪は松明の明かりに照らされ一層輝く…それだけでも襤褸切れの少女姿に比べて何倍もマシな身嗜みに変わったレイナは、私の視線に恥ずかしそうに顔を赤らめ、とんがり帽子を目深に被る…その姿もまた愛らしい。
「フッフフフ…どうやら、私の見立ては間違ってなかったわねトレーダー…やはりとんがり帽子は必要だったわね!」
私は、とんがり帽子では無く眼鏡を押していたトレーダーの、悔しげな顔と声を幻視しながらそう高笑い、レイナの姿をマジマジと見詰める。
《新たな【称号】を獲得、〈金欠〉を獲得しました!》
うるさぁいッ!…先行投資ッ、コレは先行投資である、レイナが将来有望な魔術師になると見込んでの投資だッ、金欠だなんて不名誉な!…。
私は自分に着いた忌々しくも反論し難い【称号】に苦々しく言葉を吐き捨てながら、暇を潰していると…遂に着替えを終えたレイナが私の元にやってくる。
「その…スライムさん…似合ってますか?」
「――勿論、似合ってるわよレイナ」
近付いてきたレイナが私に問うと、その問いに私は即答で返し…レイナの頭を撫でる…本当に、その姿は年頃の少女の様に愛らしい…コホンッ、ソレは一度さて置くとして…。
「――それじゃあ、レイナ…座りなさい」
「はいッ」
私は、彼女を寝床に座らせ…対面しながら、遂にレイナに告げる。
「――さっきも言ったけど、今後の予定も踏まえて、私はレイナに教えよと思う…〝私の正体〟について」
「……はい」
私の語り口に、レイナの身体から緊張のオーラが発せられる…確かに重苦しくは言ったけれど、別に其処まで固くなるような話じゃない…といっても、そう簡単にレイナも肩の力は抜けないだろう。
「――薄々勘付いてはいたと思うけれど…私は〝普通の魔物〟じゃない」
「…はい」
「そして…貴方にとっては理解し難いかも知れないけれど…私は…〝この世界〟の存在じゃない…この世界の人達からは〝彼方の獣〟と呼ばれる存在…〝違う世界の住人〟なの」
「……」
私が己の素性を明かすと、彼女は目を閉じ…その事実をじっくり、ゆっくりと溶かしてゆく…予想外の冷静さに、逆に私が少し驚く…しかし、ソレをグッと抑え、レイナに言う。
「――とは言っても、ただ生きる場所が違って、普通の魔物とは違う機能が有るってだけでそれ以外はこのせかいの魔物達と変わらない…だからレイナは普段通り…に過ごすと良い」
私がそう言うと、レイナはふぅ…と肩の力を抜いて私を見て問う。
「……分かりました、スライムさ…そう言えば、スライムさん…此処とは違う世界では、何と呼ばれていたんですか?」
「そう言えば、まだ名乗ってなかったかしら?…なら、教えてあげるわ」
その問いに、私はそう言いながらレイナに握手代わりに手を伸ばし、自らの名前を告げる。
「私は〝マオ〟…〝マオ・ディザイア〟…〝マオ〟って呼ぶと良いわ、レイナ」
「は、はい…有り難う御座います、スライム――ま、〝マオ〟さん」
その言葉に、レイナは私の触手を握ると緊張から舌を絡めてそう言い…顔を赤くさせる。
「アハハッ…うん、改めて宜しく……さて、それじゃあココからが〝本題〟…〝今後の私達の方針〟と〝目的〟について…レイナに伝えておこうかと思って」
そんなレイナに私はそう和ませるように言葉を紡ぐと…それから、緩みすぎた空気を絞め、レイナに改めて言葉を伝える。
「私の正体を明かしたのは〝コレの為〟でもある…レイナ…唐突だけれども――」
私と〝契約〟しない?…その言葉は静かな空間に響き渡り、私はその沈黙の中…深く息を吸い考え込むレイナの返答を待つ。
「〝契約〟……ですか?」
私の唐突な提案に、レイナは首を傾げながら私に問う様に言う…まぁ、唐突な提案なのでさもありなんと言った所だけど。
「そう〝契約〟…簡単に言うなら〝魔物使い〟や〝召喚士〟…魔術師の〝使い魔〟の様な〝契約〟…ソレを私と結ばない?」
「それは、別に構いませんけど…そうすると何か有るんですか?」
軽く説明する私にレイナは理解を示しながらも気になった点を質問する…その問いに、私は昨日の〝E&M〟公式ホームページにて発表された〝契約システム〟の説明文を思い出しながら、レイナに伝える。
「〝使い魔契約〟のメリットは色々有るわね…先ず、双方の取得経験値を共有出来る…単純な取得経験値が2倍になる認識で構わないわ、他には互いに〝能力〟を貸与する事が出来たりもする…デメリットは…〝使い魔契約〟で契約出来る使い魔は基本的に〝一匹〟までって事くらい?」
「成る程…」
「互いにメリットは大きいし、出来れば契約したいけれど…どうかしら?」
説明を終えて、私が再度問うと…レイナは私の問いに頷き、笑みを浮かべて〝承諾〟する。
「はい、喜んで!…断る理由が無いですし…マオさんと仲良くなれるなら言う事無しですね!」
「…そう、それは有り難いわね」
私はそう言うと、レイナに魔力を注いで…レイナの魔力と私の魔力を繋ぎ合わせる…。
――カチンッ♪――
《個体名:レイナと〝契約〟を締結しました!――〝契約内容〟を設定して下さい!》
「ッ…頭の中から声がしますね?」
「――コレで契約は完了、それじゃあ〝契約の内容〟を決めていきましょうか」
そうして、私とレイナは何の問題も無く…ごく普通に〝使い魔契約〟を結ぶ事が出来たのだった…。




