曇天の廃墟街
本日の投稿。
――ゴリッ!――
「――本当に良いんですか?…あの魔物を殺さなくて」
肉腫の馬に走行を任せながら、物見遊山に耽りつつ…乾いたブロック状の携帯食糧を放り込み飢えを満たす…決して至高の食事、旨味の有る物とは言えないまでも、確かに腹は膨れるし、オヤツにするには程よい味わいだ…そんな事を考えていると、ふとレイナがそう言葉を切り出した。
「ん…」
私は…あの電気羊を殺さなかった、恐らくはそんな私の行動が、彼女の想定する私の行動と乖離を起こしていたのだろう…だからこその問いと、私は数拍の内に理解する。
「――〝殺したかった?〟」
「ッ!――い、いえ…!」
戯れに沸いた嗜虐心を微かに込めながら、彼女へそう問い掛ける…すると彼女は目に見えて動揺し、何とか弁明しようと言葉を口内に巡らせる…流石に少し大人気なかったかな。
「アハハッ、ごめんねレイナ…流石にソレは大人気ないわね……うん、あの子を殺さなかった理由…ね」
確かに、今まで私は…敵という敵に容赦した事が無かったし…特に、綺麗な心をした…〝無垢な少女〟にとっては、そんな殺戮狂いの怪物が何故生命を見逃したのか、気になるのは当然だ…とは言え、そうまで複雑怪奇な思慮をしている訳では無い。
「そうねぇ……言うなれば〝そんな気分だった〟…それだけで片付く疑問よ」
「〝そんな気分〟…ですか?」
私が言うと、彼女はまた恐る恐ると問い返す…疑問を追及するその性質は…記憶喪失以前のレイナとまるで変わらない様ね。
「そう〝気分〟…ただ心地良い散歩の間際、枯れ行く野花に水をやる様に、ただ何時も見掛ける野良猫に、戯れに餌をくれてやる様な…そんな、〝満ち足りた状態〟で、十分な幸福を割いて他者に分け与える様な…そう言う〝気分〟と、何ら変わらない」
そう言いながら、私はあの子の傷口を埋めた感覚に視線を落とし…言葉を続ける。
「私が彼との戦闘が満足行く物だと思い、その器に並々注がれた満足感を、奮闘した彼へ注いでやった……ただ、そんな気分屋で単純明快な理由で、私は彼を生かしただけ…特にそれ以外の意図は無いわ」
「…そうですか」
レイナの疑問にそう答えると、彼女は暫しの沈黙の後、納得に黙り込む…手持ち無沙汰な私は、その問答のあと周囲を見渡し…このエリアの特徴を見て無聊の慰みに勤しむ。
とはいえ目に映るのは、中心部に行けば行くほど黒さを増す雷雲と…痩せこけた狼の群れとソレを追い立てる電気羊達…。
「ク、クーン!」
狼の群れは此方に気が付くと、そんな弱々しい声を上げながら此方へ擦り寄り、助けを求める様な声を上げる…。
――――――
【無し】
【狡群狼】LV21/40
HP:6100/6100
MP:7100/7100
満腹:20%
筋力:E+
速力:D+
物耐:E+
魔耐:E
知力:C−
器用:C−
信仰:F
幸運:F+
――――――
「…」
「――別に助けても良いけど、碌な事にならないわよ?」
「ッ…でも、見捨てられないです…!」
「ふぅん…まぁ、コレも経験かしらね」
肉腫の馬を止め、レイナが降りる…その様子に狼達は希望を見い出して、此方へ向かって来る…。
「――〝水槍〟」
――ヒュドッ!――
そんな彼等を前に、レイナは魔術で空中に水の槍を作り出し…狙いを定める…。
「――〝貫け〟!」
そして、その言葉と共に魔力を推進力に突き進む槍…その槍に狼達は左右へ散り散りに分かれ…自ら道を開くと…その瞬間、背後に迫っていた電毛の魔羊へ、その槍は直撃する。
――バチバチバチバチバチッ!――
その槍が触れた…それと同時に水の中に電気は流れ出し、羊の身体は水蒸気と放電の音で近寄り難い音を響かせる…。
「メェッ…!」
自らの雷毛から急速に散り行く電撃の力に、雷毛の魔羊は、忌々しげに私達…レイナを睨み、立ち止まる…。
「良しッコレで――」
「――グルァッ!」
そんな魔羊に、レイナがそう言葉を紡いだ瞬間…左右に散っていた狼達の中から、一匹のリーダーがそう吠えて、レイナに飛び掛かる。
「――へ?」
「あ〜あ、やっぱりこうなるか」
――バチュッ!――
牙を向いて飛び掛かる狼…その頭を掌底突きで吹き飛ばし…此方に迫る配下の狼達も、隔てる事無く斬り刻む…残されたのは、私と電気羊だけ…。
「「……」」
理解の追いつかないレイナを抱き寄せ、電気羊と睨み合うこと少し…その間の黙考の末私達は、互いに引き下がる事を選び…私達は延長戦を回避する。
「――分かったでしょう……何でもかんでも信じるのは〝盲信〟…曇った目では何も測れないでしょう…特に、この世界では〝疑う〟事を覚えないと生きていけないわよ…レイナ」
「……」
その言葉に、レイナは答えない…ただ静かに、私と…私が殺した狼を見据え…思考の海に沈んでいく…。
そんな彼女を乗せて、私達は高原の中心を目指していく…そうして進む事暫く…変わらない景色を眺めていた時。
――パカラッパカラッパカラッパカラッ――
「ん――〝街〟…?」
不意に…地平線の先に、何か〝建物〟の様な物体を捉え…そっちに進路を変える…。
その方角へ進むほど、その存在の影は大きくなり…曖昧で不確定だったソレが徐々に全貌を明かしていく…ソレは、確かに〝街〟で有った…。
――ドドドドドドドドッ――
そう、〝街であった物〟…だった。
「〝此処から先〟は明らかに〝深層〟ね」
黒雲が、宛ら〝常夜〟の如く街を覆い尽くし…土砂降りの如く重い雨が振り続けるフィールド…その外縁に有る〝かつての人が居ただろう廃墟街〟は…錆びて風化したのか、或いは打ち砕かれてしまったのか、役目を果たせなくなった門から、物悲しい雰囲気を放っていた。
「――早速、入ってみましょうか」
高原に見えた、新たな〝エリア〟に、私達は躊躇うことなく足を進める…果たして、この街には何があり、何故に捨てられてしまったのか…そんな疑問と未知に、胸を踊らせながら…。




