逃走者と追跡者
――バサッ…バサッ…!――
「予定通り、〝其の辺の雑魚〟は四方八方に散ってるわね…後もう少しで折り返しよ」
背に載せたレイナへそう伝え…大地の遥か上空から、地平線に視える〝山岳〟へと向かう。
此処を越えれば、目的は達成…賞金稼ぎの大半が追跡を止めざるを得ないだろう。
「このまま何事も無く、至極平和に事が運ぶと楽なんだけど……」
口頭ではそんな風に言っては居るものの…私は心の底では、物事がそう上手く行かない事を理解する…そして、その理解を現実の物とする〝連中〟は――。
――ゾワッ!――
「ッ――やっぱり、そう上手く行かないわよねぇ…♪――レイナ、手を離しちゃ駄目よ?」
「――え?」
空から、大地から…濃密な敵意と、迸る瘴気の放出と共に現れた。
――ゴボォッ!――
●○●○●○
「――よーしよーし、そのまま飽和攻撃宜しゅう、〝猟犬〟諸君♪…魔力タンクはお任せよ♪」
二足歩行の猟犬達へ、空の獲物を撃ち落とすように指示を出すのは…一人の男…しかし、その男は人の姿をしているが…その実態はまるで異なり…その下半身を樹木に変化させ、その根でコボルト達に絡み付き、魔力を送り届けながら…楽しげに空を見やる。
「四方八方に敵を散らしたのは流石だが、良くよ〜く駒の位置を探ってみりゃ、〝此処〟だけ穴が有るのが分かる…♪」
男はそう口を割いて笑い…爆炎に包まれた〝空〟を見据える。
「――そう簡単に逃さねぇぜ、〝マオ・ディザイア〟…♪」
〜〜〜〜〜〜
――ヒュンッ――
「見付けた、マオ・ディザイア…!」
大地から放たれた魔力の放射が、爆炎で空を覆い隠す少し前…彼等〝大地からの追跡者〟より先に、独りの〝追跡者〟が獲物へ手を掛ける。
――ズドッ!――
その娘は、鳥の脚と、鳥の翼を持ち……身体の一部を鳥の羽毛で覆った〝半人半鳥〟…伝承にある〝ハーピィ〟の様な姿をし…その鳥の脚を使い、〝赤黒い粘液〟の膜に蹴りを放つ。
――ドボォッ!――
その一撃は、確かに直撃した…その肉塊の幾ばくかの体組織を破裂させる…しかし、その中心部にまで届く事は無く…肉塊から生える無数の触手が彼女へ迫る…だが。
――ブワッ!――
触手が彼女に触れようとした瞬間減り込んだ〝脚〟に、彼女はその魔力を流し込み…そして、そのまま脚に力を込め…その力の名と共に蹴り飛ばす。
「〝破脚激!〟」
その瞬間、彼女の魔力が…肉塊に伝播し…その中に伝播した彼女の魔力は、まるで内側から喰い破るよう暴れ狂い、その肉塊を破裂させる。
「良しッ、コレで――」
その一撃が確かな感触と共に〝直撃〟したと…空の彼女はそう確信し肉塊を見下ろす…。
〜〜〜〜〜〜〜
――ズオォッ!――
地上から空を穿つ〝魔力の弾幕〟に対して…不意に、空の爆炎を掻き分けて〝赤黒い肉塊〟が大地へ落下する…。
「んぉ?……どんな能力だ、アレ――」
その異物に、大地の男が見上げ…目を凝らしたそ刹那――。
――『ジィィィッ』――
空の彼女を、大地の彼を落下しながら見詰める…〝無数の眼〟と、眼が合った。
――ゴポッ、ゴボボボッ!――
泡立ち、捻れ、歪み、膨れ…伸縮と脈動を繰り返す〝肉塊〟がその姿を無数の生物に変化させながら、大地に落ちる…そして、その外層が〝地面〟に触れた…その瞬間。
――ゴボォッ――
『〝不完全変形〟――〝肉腫の獣達〟』
その肉塊は破裂と共に、無数の肉々しい獣達を四方八方に撒き散らした。
「「「「「※※※※※※!!!」」」」」
其れ等は不完全な形状の為か、言語機能に欠陥がある為か…声にも鳴らない不気味な叫び声を上げ、その剥き出しの肉の身体を躍動させ…目に着く〝敵〟へ牙を向く…。
その〝悍ましい肉の行軍〟に目を奪われたその刹那…。
――ズルゥッ!――
肉塊達の中から、〝黒髪の少女〟を抱えて…〝人型のソレ〟は凄まじい速度で山岳の先へと駆け抜けた。
「ッ――しまった!」
「――ニヒッ♪」
人型の〝肉塊〟は去り行く間際、男へ嘲笑とも称賛とも似た笑みを返し…そのまま駆け抜ける…その数歩後を、〝樹木の男〟が追いかけ始めるのだった。
○●○●○●
――タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ――
「――ちゃんと私の言いつけを守れて偉いわねレイナ♪」
「ッ…あ、ありがとう、御座います…!?」
地面を駆け抜け、木々を避けながら…私は内側だけでなく、〝外側〟の皮膚を取り繕う。
――ズズズズズズスッ――
見る間に人の姿になった私は、しかしそんな人の姿には似合わない〝異形の脚〟を駆使して荒れて起伏の激しい山道を踏破してゆく…。
「空が駄目なら陸でってね♪――奇襲されちゃ防戦一方でも――」
そのまま周囲の包囲を突破して、私達は〝第三エリア〟への侵入を目指す…しかし当然、1度喰らいついた獲物を彼等が早々手放す筈もなく――。
――バサッ!――
空から、私達の行く手を阻むように…大きな砂埃が立ち込める…その煙に脚を止めた私がそう言葉を呟き…一歩前へ進んだ時…不意に土煙が振り払われ…其処には一匹……ついさっき私を眼下へ蹴り落とした〝鳥人間の少女〟が立ちはだかった。
「――サシでやったら、レイナを守りながらでも負けはしないわよ♪」
「ッ、流石…〝ニュートの悪魔〟…一筋縄では行かないな!」
彼女の横蹴りを掴んで防ぐ…しかし、その瞬間彼女の脚部に込められた魔力が私の腕に移りそうになると、その脚を振り払い…背後に飛び退く。
「――取り敢えず、名前は聞いておこうかしら…綺麗な羽根の貴女?」
「私は、〝ヨミノ〟…一介の賞金稼ぎだ!」




