進化の分岐
本日の投稿をば。
――フフフッ…アハハハッ♪――
童女の様な、楽しげな笑い声が辺りに響く。
《〈触手〉のレベルが上がりました、〈戦闘:打撃〉を獲得しました!》
《新たな【能力】を獲得、〈突進〉を獲得しました!》
その声の主は、楽しげに自らの身体を跳ね…ぶつけ、触手を締め上げる。
――アハハハハッ♪――
その笑い声はどこまでも澄み渡り…聞こえてさえいれば多くの人がその声に魅入られていたであろう…その声の主が――。
――ドサッ――
凄惨な血の海の上に立ってさえ居なければ…周囲は獣の血で染め上げられ、その声の主の足元にはグッタリと動かなくなった瀕死の狼が転がっており…その身体は幾度の殴打に打たれたのかボロボロに砕け…打ち所が悪かったのだろう、その身体には太く鋭い木の枝が突き刺さり獣の腹を傷付けていた。
「フフッ、ウフフッ…もう、おしまい?」
声の主はそう言い…既に虚ろになっていた獣の顔を覗き込む…その問いに獣が答えるはずもなく…遂に、その獣の身体に結びついていた命の熱は解けて消える。
《灰色狼を討伐、経験値を獲得しました!》
《レベルが上がりました!》
《レベルが上がりました!》
「あら、2つもレベルが上がったわね♪―でも、まだ足りないわ」
その命の残り火を、その〝獣〟は啜りながら…朱色に染まった己の肉体を揺らして、更に触手を生成する…。
「――だから、貴方達も私の糧になってちょうだいね?」
そして、声の主はそう言うと…茂みの中から己の姿を見つめていた〝獲物〟に視線を送り…殺意と共に、茂みから現れた獣達に触手を振り抜き、牙を剥いた…。
○●○●○●
辺りから続々と〝獣の姿〟が現れる…涎を垂らした狼、死に場所を探す野猪、息の荒い牡鹿…彼等は皆、この場所の匂いに惹かれ、この場所の気配に惹かれて集う。
「ひーふーみー…フフフッ、パーティーの参加者がいっぱいね♪」
見慣れぬ新顔を迎え入れながら、私はその言葉と共に、飛び掛かると同時に、今し方手に入れた触手の戦技を駆使する。
――ビュンッ――
その一撃は、以前のまだ未熟だった頃に放ったソレとは明らかに一線を画し…確かな重さと鋭さを込めて、目の前に迫る獣達を打つ。
――バシンッ!――
「ブゴォッ!?」
その悲鳴が血濡れた戦場に響き渡る…すると、香しい血の匂いに魅入られど、明らかに異様なこの惨劇に勇み足を踏んでいた獣達の理性に火を付ける。
――グルアァァァァァッ!!!――
「アハッ♪――そうそうッ、敵意を焚べて殺意を研いでッ命を賭して命を喰らおうじゃないッ――この地獄でッ、生き残りを掛けた闘争劇で勝ち残った者が〝正義〟よ♪」
そこかしこで獣達が吼え、喰らい合い、命を淘汰し合う…その場所は正しく……〝地獄絵図〟だった。
○●○●○●
「おや、おや、おや、おや…ハッハッハッ、昨日の今日で随分派手に動くねあの子は♪」
そんな、森の中で起きた地獄を…遥か彼方から見ている男が居た…その男は、その戦場を駆け回る〝最弱の獣〟を眺めながらケラケラと笑うと、渦中の演者と…己と同じく、この地獄を見ていた〝ソレ〟の様子に困った様な、楽しむ様な声で呟く。
「おっと…〝彼〟の注意を引いちゃったか…フフフッ…さて、〝彼〟はどう動くかな…この地獄を平定するのか…それとも傍観するのか?…平定するなら、ちょっと困るなぁ…既に彼等には大分と〝枷〟が付いているんだし…少しの無茶は大目に見ないと舞台が停まる…最悪、流儀に反するけど〝干渉〟して――」
そうこう言いながら男は別の画面に映る光景に意識を向ける…其処に映っていた〝ソレ〟が首を擡げ…それから暫くの熟考の後、眠る様に目を閉じ…それからは、沈黙を貫く…その姿に彼は珍しい物を見たような顔で、ボソリと呟く。
「へぇ…〝アレ〟が傍観を選ぶなんて珍しい…あの〝四種〟の中じゃ人一倍争いが嫌いなタイプだと思ってたけど…どう言う意図なのかな?」
不思議がりながらその光景を見ていた男は…それから暫く考えるも遂にその思考を諦め、その視線を〝地獄〟に向ける。
「まぁ、コレが続くなら何でも良いや…さぁて、コレが今後、彼方の獣達にどんな影響を与えるか…そして、彼女は何を得るのか…見物だね」
その機械仕掛けの男はそう笑うと…その奥に秘めたる狂気の一欠片を覗かせながら…静観を選択する…そして――。
●○●○●○
――ブンッ――
《灰色狼を討伐、経験値を獲得しました!》
《灰色狼を討伐、経験値を獲得しました!》
《風切り鳥を討伐、経験値を獲得しました!》
《レベルが上がりました》
《〈生存強化〉のレベルが上がりました、〈戦技:疾駆け〉を獲得しました!》
――――――
【疾駆け】 ★★★★☆
能力系統:任意型
魔力消費:20
魔力を消費し速力を強化する能力。
効果1:速力を3分間強化。
――――――
赤色の大地を跳ぶ、争いに敗れた獣達の屍を足場に跳躍し、空で油断する獣達を叩き落とし、手負いの獣達を狩ってゆく。
「〝疾駆け〟…!」
手に入れた能力で、機動力を底上げし…受けたダメージを再生しながら、迫る敵意を順に手折っていく。
死と隣り合わせであり、称号により多くの魔物達の敵意を一身に受けながらの闘争は…そのリスクに見合うだけの〝リターン〟を私に還元し――。
《最大レベルに到達しました!》
《【進化】が可能に成りました、【進化】しますか?》
遂に…私は目的を達し…私は、システムの問い掛けに当然の言葉を送る。
「当然〝YES〟よ…!」
その瞬間、私の身体が光に包まれ――。
《【進化】が実行されました、【進化先】の一覧を表示します、【進化先】を決定して下さい》
私は…白い光と幾多の螺旋が渦巻く空間に意識を飛ばされた。
――ブンッ――
周囲を見渡すのも束の間に、私の目の前に進化先のリストが現れる…其処には。
――――――
【進化先一覧】
〈昇華〉
・【ビッグスライム】
〈再誕〉
・【グリーンスライム】
・【角兎】
・【灰色狼】
・【突進猪】
・【風切り鳥】
・【森生鹿】
――――――
と見慣れない名前の種族と、見慣れた魔物の種族が其処に記されていた。




