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取り調べの相手は先ほどのマッチョな男――名前をログさんという――であり、特に嘘を付く必要性もないため素直に取り調べを受けた。ただ、上空から落下してぺちゃんこになってしまったスペースエルフのマリクに対して、無傷でピンピンしているカトレアに当然ながら疑問を覚えたようで、どうやって無事に着地したのかという質問には回答に窮した。。
「カトレアが落下した地点にはクレーターが出来ていた。いくら身体強化が得意で水魔法による減速を掛けたとは言えども、あの衝撃で怪我無しというのは考えられない」
「私、体だけは丈夫でして怪我をしたことが無いんです。多分剣で切られても大丈夫です」
「そんなバカな……。ちょっと触っても良いか? セクハラじゃないぞ?」
「どうぞ」
カトレアが腕を差し出し、ログが手を握ったり腕を握ったりする。
「普通の柔らかさだな」
「ログさん。その持っているペンで私の腕を刺してみてください」
ログは恐る恐ると言った様子で、何度もカトレアに確認を取りながらペンの先を腕に押し込む。だが、柔らかい肌にペン先は一向に刺さらない。ログがカトレアの腕を持つ力が強まり、ペンもぐりぐりと抑え込まれるが、先にペン先がへし折れた。
「本当だな。触った感じは普通の肌なのに。不思議だ」
「こういう特殊体質でして。多分そのまま空から落ちてきても傷一つ付きません」
自信をもって答えるカトレアにログは苦笑いだった。
「わかった。この件に関してはカトレアの特殊な能力、体質ということでとりあえずは理解しよう。では次だ。あのスペースエルフ。マリクと言ったか。アイツは何か他に話していなかったか?」
「派閥がどうとか言ってました。私の事を強硬派の手先だと勘違いしていました」
「マリクがどういう派閥に所属していたかは聞いたか?」
「いえ。そこまでは。ただ先ほど話したように、マリクを助けに来た者達とは別の者達から転移弾という物を打ち込まれたので、強硬派というのはマリクさんと敵対している派閥なのかなっと思います」
「なるほどな。カトレアの仲間というのはどういう奴らだ?」
「フタバとユウキという男女です。金一等級探索者です」
「……ちょっと待て。金一等級ってことは召喚者か?」
正確にはフタバとユウキは転生者らしいのだが、カトレアはログの言葉に頷いた。あまり仲間の詳細をペラペラしゃべるのは良くないかな、と思ったからだ。
「ですね。王宮で生活していた様子もありましたし、領主に命令する権利を与えられている、的なことをちらっと言っていました。多分国のそれなりに偉い人から依頼をされて国内を動いていたんだと思います。私はお風呂要員としてパーティーメンバーに加わらせていただきました」
「……色々聞きたいことが増えてしまったが、お風呂要員とは?」
「水魔法で水の温度も変えられるんです。お湯沸かしする必要もなく即座に良い湯加減のお湯が用意できます」
「そいつは……旅するにはカトレアは絶対に確保しておきたい仲間だな」
ログが本当に羨ましい、といった表情で大きく頷いた。
一通りログからの質問攻めにあい、途中で昼飯を取調室で食べ、さらに質問を受け、鉄格子の窓から空の夕焼けが見え始めた頃、漸く取り調べが終わった。
重要参考人としてしばらくは警察署内で過ごすことになったが、比較的自由に動き回れるようで、ログに警察署内を案内してもらいながら、食堂で夕飯を奢ってもらった。そしてご飯を食べながら、今度はカトレアがログに質問をしていく。
まずは現在地。カトレアが元居たマギの木があるあの森まで、もし徒歩で移動しようと思えば数カ月は必要だと言われた。とんでもない距離を転移で飛ばされてしまったようだった。
「はぁー。そんなに飛ばされてたのか。それだけ距離が離れていると、話す言葉も違ってるかと思ったけど、ちゃんと通じてよかった。ボディーランゲージで会話するのは大変だから」
「俺たちとしてもカトレアがちゃんとマホー帝国語を話せて助かってるよ。通訳越しの取り調べってのは疲れるからな」
「マホー帝国語……あー。そうですねー」
カトレアは普通に言葉が通じていると思っていたのだが、これは自動翻訳的な事がされていると察した。スペースエルフとも会話出来ていたことを鑑みると、何かしらのスキル、もしくは憑依した神様の力が働いているような気がする。
「なんとか二週間以内に戻れる方法って思いつきませんか?」
「それはいくらなんでも無理だろう。それこそ空でも飛ばない限りな」
「あの魔法の箒は手に入りませんか?」
カトレアは空を飛んでいたログ達を思い出し、箒でぶっ飛ばしていけば帰れるのではないかと考えた。だがログは難しそうな顔をする。
「民生用もあるが、物凄く高いぞ。正直、一文無しのカトレアは店にすら入れてもらえない。それにあれは幼少の時から魔力を増幅する訓練を受けた俺たちみたいな奴ですら、30分飛べれば上出来だと言われる程魔力を使う。ちょっと魔法が得意程度の魔法使いでは、5分飛べれば良い方だ」
それを聞いて、カトレアは「いけるな」と呟く。魔力に関しては今のところどれだけ魔法を使っても枯渇したことがない。つまり、あとは金を稼げば手に入るということだ。
幸い、身体強化魔法というか、この体の丈夫さと怪力さは常軌を逸してる。であるから、どこか魔物かダンジョンで深層アタックでもすれば、すぐに金は稼げると考えた。
「近場にダンジョンはありますか? 私は魔力には自信があるので、お金さえ用意できれば何とかなりそうです」
「いやいや。本当に、そんなレベルの魔力消費じゃないから。今までそう言った他国の魔法使いが泣いて諦めるレベルだから」
「大丈夫ですって。私、魔法を使っていて魔力枯渇を経験したことがありませんから」
どやっ、と自信満々に胸を張るカトレアをみて、ログは苦笑いを浮かべる。それから、ぽん、と手を打った。
「そんなに自信があるなら、ちょっと面白いところに連れていってやるよ。警察署の裏から繋がってる場所に魔ホウキの研究所がある。教授達が俺たちを実験台に色々やってるんだが、魔力があって頑丈なカトレアなら役に立つかもしれん」
それからログは声を潜める。
「あまり大っぴらには言えんが、あそこには魔ホウキのプロトタイプが沢山ある。まぁ大半は俺でも動かせないような欠陥品だったりするが、もしカトレアが本当に魔力に自信があり、教授に気に入られるようなことがあれば……」
「やりまぁぁす!」
カトレアはログの話に飛びついた。どうせ警察署から暫くは出られないならば、ダンジョンアタック作戦はプランBとして、プランAは教授に気に入ってもらい、魔ホウキを貰う作戦でいこう。
ログはニコニコ顔で浮かれるカトレアをみて、動かせなくてショックを浮けて悲しんだあとのフォローをどうしようかなどと考えながら、研究室棟へカトレアを案内するのだった。




