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カトレアと教授たちとの出会いは、まさに運命であった。
磁石のS極とN極が引き合うように、男女が結合するように、凹凸がぴったり合致するかのように、素晴らしい出会いであった。
「君のような存在を待っていた!!」
「君は我々の救世主だ! メシアだ!」
「神よ! まだ神は我々を見捨てていなかった!」
十人程度の白衣を纏う若者から初老までの老若男女にカトレアは取り囲まれた。その様子をログが唖然とした表情で見つめる。
「マジかよ。俺たちが5人集まってようやく起動できた魔ホウキを一人で起動させた? おまけに全力運転? え? カトレアは人間?」
「失礼な。ちゃんと人間ですよ」
ちょっと神様に憑かれているけれど、とは言わないでおこう。
教授たちからすれば、しばらく自由に使ってもよい絶対に壊れない特大魔力タンク(カトレア)が手に入った訳だ。自由に使えないログのような警察官を実験に付き合わせなくて済むために、上役から文句を言われることも無いし、怪我をさせる恐れも無い。
教授たちからすれば、怪我をさせないための安全装置など、邪魔でしかないのだ。限界まで魔力炉に魔力を送り込み、爆発寸前まで動作させたその詳細なデータを取得したいのに、安全装置の取り付けを義務付けられ、そういったデータは机上でしか算出出来ていなかった。実際の人間が乗り込み、画一的な魔力の供給ではなく、人間からの出力によって限界を迎えるデータこそが、教授たちの求めるものである。それを叶えるための人体実験は絶対に許可されないため、カトレアの存在というのは教授たちからすると垂涎モノだ。
「ログ! でかした! お前には今度最高の何かを用意してやろう」
「一晩一緒に寝てあげても良いわよ!」
「今度メシ奢ってやるよ!」
口々にログへ礼を言いつつ、カトレアを別室へ連れて行こうとする教授たちに、慌ててログは駆け寄った。
「まてまてまて! カトレアは一応重要参考人だ! 寝泊まりは警察sh」
「何をいっとる! カトレアの借用期間は一週間程度なのだろう! 寝る間も惜しい! 当の本人も寝なくて大丈夫だと言っている! 睡眠などと言う無駄な時間を使う暇などない!」
ログと教授がやいのやいのと言い争いをしている隙に、別の研究員がカトレアをコソコソと連れ出す。この研究所の連係プレイはなかなかのものだ、とカトレアは手を引かれながら笑った。
「カトレアさん。もう暗くなりますが、お付き合いください。お話のあったとおり、我々が満足した一週間を過ごせたら、プロトタイプの一機をお譲りします」
「はい。大丈夫です。何でもやります」
「では、こちらを耳に入れてください。通信機です。防爆室で魔力炉に直接魔力を供給してもらいます。もちろん、爆発するまで」
「分かりました」
こうして、カトレアの人体実験が始まった。何とかして二週間以内にカトレアはユウキとフタバに合流したいと考えており、そのためには多少の無茶も辞さない構えだった。
そしてそれに答えてくれる教授たち研究者集団は非常に優秀だった。一週間という短い期間で全てのプロトタイプを試験し、危険な実験を行い、兎に角カトレア以外には出来ない実験を分単位で詰め込みまくった。
『これより、限界高度確認及び超高高度における魔力炉動作試験並びに音速突破試験を始める』
カトレアは計測機器がごてごてに取り付けられた魔ホウキに跨り、魔ホウキが登れる最高高度まで上昇を続ける。空気が薄くなろうが、大気圧が少なくなろうが、カトレアには関係ない。ただただ、寒いなぁという感覚だけがあった。
そして星が球体であることが分かり始める距離で、魔ホウキの上昇が止まった。魔力炉に魔力を込め続けてもこれ以上上昇しなくなったのだ。
耳に嵌めた機械からデータの取得が順調に行われている旨の説明がされる。その後指示に従い、魔力の込める量を増やしたり減らしたり、一瞬限界を超えさせたり、全く魔力を供給させず自由落下させてから再び魔力炉を起動させたりと、実験を繰り返した。そのたびに耳元で教授たちがピーピー叫んでいるため、少々煩わしいと感じる。
『では音速突破試験を開始する』
カトレアは魔ホウキを垂直落下させる。重力と魔力炉にくべられた魔力の燃焼により魔ホウキは狂ったように加速した。そしてあっというまに音の壁を突破する。耳元で教授たちの歓声が上がった。
『そのまま速度を上げてくれ! 限界まで!』
カトレアは魔ホウキの機首を上げ、水平飛行に移す。そして魔力炉の許容以上の魔力を込めて、さらに速度を上げた。空気抵抗により着ていた服がズタボロになっていくが、気にせずさらに魔力を込め続ける。魔ホウキからバチバチという異音が響き始めた。耳元の教授たちが忙しなく言葉を交わしている。
『そのままいけぇぇぇ!』
狂ったような教授の叫び声に答えるように、魔力をさらに魔力炉へねじ込む。
カトレアは音速を遥かに超える速度で飛行している。そのため、うかうかしていると、あっと言う間に研究室とカトレアとの通信範囲外に飛び出してしまう。
イヤホンからの雑音が増えた事を察し、カトレアは魔ホウキの進行方向を変えようと体を傾け、機首を少しだけ上げた。だが、超音速とも言える速度に達していた魔ホウキの本体はそのちょっとした動きで生じた高G、ようするに外へと行こうとする遠心力に耐えきれなかった。カトレアの体重の数十倍の重さが魔ホウキの芯をへし折る。
超音速のまま空中で真っ二つに折れた魔ホウキはいくつもの部品をばら撒きながら散る。そして限界を迎えた魔力炉が大爆発を起こした。当然ながら、カトレアはその爆発の衝撃で衣類を全損し、そのまま猛スピードで地上へ落下する。
慌てて進行方向に水魔法を使おうとするが、余りにも飛行速度が早すぎて魔法の行使が間に合わない。
カトレアは音を超える速度で地上へ激突する。
地表を抉り、木々を数百メートルほどなぎ倒し、ようやく止った。
「っああああ! 楽しいぃぃぃ!!」
カトレアは自分の上に倒れていた木を押しのけ立ち上がる。服は全損。カトレアは全裸のまま雄叫びを上げた。耳元で教授達のどよめきが聞こえる。
『どういう状況で壊れたか教えてくれ』
カトレアの体の心配ではなく、魔ホウキの事を聞いてくるあたり、マッド極まれり、といったところだが、カトレアは特に気にしていない。なぜならば、この調子でいけば数日後には自分だけの魔ホウキが手に入るからだ。
「多分、遠心力に本体が耐えられなかったみたい。真っすぐ飛ぶ分には大丈夫だけど、高い速度で曲がろうとすると、私の体重の何十倍という重さに座ってる部分が耐えられない。たぶんそれ以外にも、重い部品の取り付け金具とかは見直さないとダメだと思う」
『なるほど。ありがとう。迎えは出した。もうすぐ到着するだろう。次は高機動試験だ』
「その前にご飯を用意しておいてね」
『分かった』
カトレアは隕石が落ちてきたかのような現場の惨状を眺めつつ、自分の局部を隠せるような葉っぱとかないかな、と辺りをうろうろと彷徨うのだった。




