ギルドクラッシャー
ギルドクラッシャー……って、なんか危ないイメージですけど、いったい何をしたんですか、この人たちは?
二人は気まずそうに視線を合わせると、そーっと互いに顔を背けた。
「そ、それは……」
「別に、ギルドを潰したわけじゃ……」
「お前たちにそのつもりがなくても、潰されたギルドが片手じゃ足りないとか?」
「ひええええっ」
あ、つい、悲鳴が出てしまった。
ぼくは慌てて自分の口を両手で押さえるが、ビアンカさんとディータさんも同じように口を手で押さえていた。
「とにかく、俺たちのギルドはお前さんたちの見立て通り立ち上げたばかりなんだ。悪いがまだ潰されるわけにはいかない。他に行ってくれ」
ハルトムートさんはフリフリと片手をぞんざいに振って、二人を追い出そうとしますが、二人の顔は絶望に染まっていますよ。
「ハルトムート。話だけでも聞いてやろう」
「オスカー。お前、甘いぞ?」
コツンとハルトムートさんに額を小突かれたオスカーさんは、自嘲的な笑いを浮かべ二人に向き合う。
「正直に話してくれないか? 今までのギルドでの活動を」
二人の顔がパアーッと明るくなり、ぼくもオスカーさんの優しさに胸が温かくなりました。
オスカーさんの優しさに救われたのは、ぼくもですから。
「本当に俺たちはギルドを潰そうと思ったわけじゃないんだ。ただ、俺たちの周りでトラブルが多かったことは事実だ」
「そうね。私たちは特に悪意を持っていたわけじゃないけど、私たちを利用しようとする人は多かったわ」
そして、二人はやや沈痛な面持ちで今までのことを話してくれました。
あ、生まれ育った里の話からてすか? 長寿種族ですから話が長そうですね。
「なにやってんだ、クルト?」
「え? お茶を入れ替えてお茶菓子も追加で出してます」
二人が懐かしいと言った緑茶とポテトチップスの山です!
「「うわわわわわっ。ポテトチップスだああああぁぁっ!」」
二人とも狂喜乱舞でした。
俺が育った里はドラゴニュートしかいなかった。
うん、元々排他的な種族で同族以外とは慣れ合わないらしい。
しかも、俺の里には守り竜がいてな、生まれてしばらく経つとご挨拶に伺うんだよ。
で、俺は異世界の記憶があることに生まれてすぐに気が付いたから、守り竜を見ても崇める気持ちよりもミーハーな気持ちが勝ってしまってな。
「つい、戦って勝ったら俺ってばドラゴンスレイヤーじゃんとか思ってしまった……」
それが守り竜にも通じてしまったのか、すぐに異端児扱いされ里の中ではハブられた。
なのに、転生特典なのか俺の能力は里一番で、俺は思ったよ……俺TUEEEEEEEができるって。
「バカなの? ゲームじゃないのよ? 強くたって精神が弱かったら無理ゲーじゃん」
「ハハハ、確かにな。でも、里でボッチもキツくてなぁ。まあ、すぐに里を飛び出したんだ」
その後は、運よくキャラバンに拾われて町まで行くことができ、冒険者として成長していく。
見習いの期間は問題なく過ぎていったが、いざ一人前の冒険者となったら問題が山積してきた。
入るギルド、入るギルド、トラブルに見舞われて、面倒毎を避けるため逃げ出す始末。
「主に女性関係だ。そんなつもりないのに女が寄ってくる。しかも恋人がいても結婚しててもなぜか寄って来る」
ぐしゃっと手に持っていたポテトチップスが砕かれる。
「ギルド内でも外でも引き抜きの話がひっきりなしで、心休まる時はないし、ギルマスにはその座を俺が狙っているとか疑われるし……辛い」
「その顔と能力じや、女は寄ってくるだろうよ。すっぱり断らんと人生かかっている女はしつこいぞ?」
ハルトムートさんの言葉にユリウスさんは力なく笑って、恥ずかしそうに俯く。
「前世じゃ女の子になかなか話しかけられなかったので、つい。それに、あの勢いと思い込みが怖くて」
「あー、そりゃ、ダメだ」
ハルトムートさんもユリウスに呆れて頭を軽く振る。
「次は私ね。私もあまり事情は変わらないわ」
森の奥深くエルフの里で生まれた私は、特に何もなく育ったわよ。
彼と一緒で生まれてすぐに前世を思い出したけど、子供のときにいくら魔法の能力が凄くてもどうしようもないじゃない?
このままエルフの里にいてもいいかなと思わなかったわけじゃないけど、ただ一つ妥協できないことがあったの。
「信じられる? エルフってお肉食べないのよ?」
「へ?」
「豆とか木の実とか。あとは草と根っこよ! 森になんていっぱい獣がいるんだから食べればいいじゃない! なのに……」
プルプルと全身を震わせた彼女はグワッと顔を上げると叫んだ。
「私はベジタリアンでもなければヴィーガンでもないのよーっ!」
そして肉を求めてエルフの里を飛び出したそうだ。
べ、べじなんとかアンとかよくわからないけど、どうやらお肉は食べない主義らしいです。
「あまり、俺と変わらないじゃないか」
「厨二と一緒にしないでよ」
その後、彼女は森の中で冒険者たちに出会い、町へ案内され冒険者の道へ。
見習いのときまで順調だったのに、一人前の冒険者となったらトラブルに巻き込まれるようになった。
異性関係でのトラブルや引き抜きの話までは同じようだったが、違うのはギルド内での成果の取り合いだったという。
「私が討伐した魔物をトドメを刺したのは自分だと主張する間抜けな剣士とか、私が助けてやったのに治癒魔法をかけたのは自分だと宣う自称ヒーラーとか」
エルフである彼女が魔法使いなのは当たり前だが、その威力や使える魔法の多彩さは異常だった。
そのせいか、何度か彼女が使った魔法を自分が使ったと嘘を吐く仲間がいて、成果を横取りされたことがあったとか。
「だから腹を立てて、今度は私は魔法を使わなかったの。そうしたら大事になって……ギルドがペナルティで潰れたり、仲間割れしたりとかして。私のせいじゃないわよ?」
ただ、やられたことをやり返しただけだもんとぷくっと頬を膨らませた、年齢不詳のエルフのお姉さま。
「……で、その後は?」
二人は互いの顔を見合わせ、げんなりとした表情で話す。
たまたま潜っていたダンジョンで、ソロ冒険者として活動するお互いと会うことがあった。
警戒はしていたが、ひょんなことで互いが転生者で同じ異世界のしかも同じ国出身だったことがわかった。
「そこからは腐れ縁だ。もう、こっちの世界で過ごした年月のほうが長いのに、未だに前世への思いが強くてな」
「本当に。今生の両親なんて思い出しもしないけど、前世の両親や兄弟、友達は思い出すと懐かしいもん」
なんとなく二人でつるむようになり、あちこち転々としてきた。
基本はソロ冒険者だが、緊急時や高ランク魔物討伐などはギルドに臨時加入する場合もある。
「けど、今までのこと考えると、ギルドに本加入するのは躊躇われた」
「また、面倒なことが起きるのも嫌だし。探しものもあったしね」
「探しものですか?」
二人は神妙な顔で頷くと、苦し気な声で訴えるように話しを続けた。
とにかく「食」を探していた。
それも「故郷の味」だ。
前世の国はとにかく「食」への執着がすごい国で、他国の料理でさえ自国民の舌に合うように作ってしまう。
一見、食料にも見えないグロイものでも食材として生かし、珍味として普及させてしまう。
そんな二人の故郷の味を求め、この世界の端から端まで彷徨う旅が始まったとか。
「そして……」
「ようやく巡り合えたの!」
あ、嫌な予感がします。
「「お米に!」」
二人の眼がキラキラと輝き、お皿に残った米粒を見つめました。
「「だから、このギルドに入れてください!」」
あー、どうしよう……ちょっと、この二人のことがかわいそうになってきました……。




