おにぎり食べたい
ダンジョン前の広場に用意された休憩所のテントの一つを借りて、テーブルの上にお昼ご飯を並べていきます。
大皿二つにおにぎりの山、ショーユと砂糖で甘辛タレを作り焼いたお肉と絡ませたものと、下味にショーユを使った唐揚げ。
マヨネーズで和えたお芋のサラダとクリームスープにはお野菜をたっぷりと。
ついでにギルドハウスの畑で収穫した野菜で作ったピクルス。
飲み物は紅茶もありますが、ハズレドロップで手に入れた「緑茶」を冷やしたもの。
この薄緑色のお茶は、意外とおにぎりにぴったりな飲み物なのです。
「ひゃーっ! おいしそう」
ビアンカさんはさっそく両手にひとつずつおにぎりを掴んで交互に食べ始めました。
うーん、豪快な食べ方。
ディータさんはそんなビアンカさんに呆れた視線を投げたあと、お肉と唐揚げ、サラダをお皿に取って、まずはゆっくりとスープを味わいます。
大丈夫ですよ、おにぎりはいっぱいありますから!
「クルト、肉が入っているおにぎりはどれだ?」
「えーっ、答えを聞いちゃうんですか?」
おにぎりの中味を知らないまま食べてもいいんですよ? ちょっとワクワクしませんか?
「肉!」
はいはい。
ぼくは、三角に握られたおにぎりの天辺にゴマがちょこんと付いているのが具がお肉ですと答えた。
「よし! じゃあ、これとこれだなっ」
ハルトムートさんもビアンカさん同様、両手にひとつずつおにぎりを持ってガツガツと食べだした。
「もうっ!」
ぼくもひとつおにぎりを手に取り、かぷっと齧る。
うん! ほんのり塩味のご飯、おいしいですっ。
「上手に握れてますか?」
「ああ。クルトが作ってくれるご飯は、いつもおいしいよ」
オスカーさんも焼いた魚の身をほぐした具のおにぎり片手に、にっこりと満足そうに微笑んだ。
「いっぱい食べたら、今日中に中級ダンジョンを踏破するわよーっ」
「おーっ」
……口いっぱいに食べ物を入れて、大きな声を出さないでください。
ご飯粒が飛んじゃって、汚いです。
ぼくは、手に持ったおにぎりを急いで食べ終えて、テーブルに散ったご飯粒をキレイに掃除する。
うん? テーブルの上に影ができた。
そしてポツリと落ちる水滴。
「あれ? 雨でも降ってきました?」
顔をあげたぼくの目に映るのは、目が潰れそうに眩い人達だった。
「え? だれ?」
ぼけーっとぼくたちの休憩所のテントに入ってきたその人達を見ていたぼくの襟首を、ハルトムートさんが掴んで後ろへと引っ張った。
「ぐええっ」
そんな強く引っ張ったら、苦しいですぅぅぅっ。
「おい。何か用か?」
ハルトムートさんの本気の殺気混じりの低い声に、ぼくの肩がビクンと反応する。
そんな怖い声を聞いたことなかった……ハルトムートさんって本当にランクの高い冒険者なんだ。
ただの食いしん坊な娘激ラブなお父さんだと思っていました。
ぼくの肩を両手で優しく掴んで、さらに後ろへと導いたのは険しい顔をしたオスカーさんだ。
「白い輪ギルドのマスター、オスカーだ。何か用でもあるのか?」
礼儀正しく対応しているように見えるけど、やっぱりいつもより警戒しているみたいだった。
「あんたたち、だれ?」
「……っ」
口の周りに数粒のご飯粒を付けたままぼくの前に立つビアンカさんと、同じくぼくを守るように盾になってくれるディータさん。
そんなぼくたちと対峙しているのは……二人の冒険者だった。
しばらく無言で睨み合う……いやいや、この二人はじーっとおにぎりの山を見ていてこっちは無視してますよね?
なんだか二人の様子がおかしいことに、みなさんも気づいたようです。
「なんだ、お前ら? 腹、減ってんのか?」
ハルトムートさんが双剣の柄に伸ばしていた手を戻し、二人の顔を覗き込む。
「珍しい料理だから気になるんだろうか?」
オスカーさんが首を傾げるが、ハズレドロップのコメで作ったおにぎりだから珍しいでしょうし、ショーユの匂いもかなりしますからね?
「やだ、高ランク冒険者みたいだけど、ご飯をたかりに来たの?」
ビアンカさんがさり気なくおにぎりのお皿を移動させると、二人の視線もススーッと動く。
「目当てはおにぎりだな」
ディータさんが溜息混じりに呟くと、怪しい二人連れはグルンッと勢いよくディータさんの方へと顔を向ける。
「「おにぎり!」」
やっぱり、おにぎりに反応していたようです。
一人は背の高い男の人で剣士かな? 腰に青い見事な細工の長剣を差してます。
もう一人は小柄な女性で魔法使いが好んで着るローブを身に纏ってます。
着ている物や武器でかなり強い冒険者だということがわかるんですが、この二人は本当に強い高ランク冒険者なのでしょうか?
だって、顔もとっても整っている二人なのにおにぎりを見て、たらーっと涎を垂らしているんだもの。




