ギルド選びは大事です
ギルド支部ダンジョン出張所は、ダンジョン攻略するギルドの人たちで朝と夕方は大混雑する。
今朝、ぼくたちは自前の馬車でダンジョン受付広場まで来ると、馬車の預かりをディータさんに任せて受付窓口へと移動した。
でも、こう、ダンジョンに挑戦する冒険者の人って体が大きくて武器が猛々しくて荷物が多いから、こんなに混雑しているとチビのぼくは歩くのも大変です。
ハルトムートさんは、そもそも強い人で高ランク冒険者の威厳でもって人の波をかき分けることもなくスタスタと歩いていて、周りの人がサッと避けてました。
ビアンカさんは、そんなハルトムートさんの後ろに引っ付いて要領よく足を運んでいきます。
なんか、ズルい。
オスカーさんは育ちもいいし人も好いので、いちいち「すまない」と声をかけて人と人の間を通り抜けていってます。
ぼ、ぼくもスマートに通り抜けるぞと思った途端、分厚い人の体にドシンとぶつかり、尻もちをつくことになってしまった。
「ご、ごめんなさ……」
尻もちをついたまま、顔だけを上げて謝罪すると、そこにはオーガかと思う恐ろしい顔をした大男が立っていた。
「ひっ!」
反射的に漏れる悲鳴を両手で口を押えて、咄嗟に俯いた。
こ、怖いよう。
「なんだ、このくそチビ」
ひぃーっ、怒ってるらっしゃるううぅぅっ。
ぼくは素早く立ち上がるとペコリと頭を深く下げて、ピューッと走り出した。
「すみませんでしたーっ」
「おい、コラ。待ちやがれ」
ごめんなさい、待ちません!
怖い気持ちもありますが、それよりもぼくを「チビ」呼びして悪意を向けたときから、レオが敵認定してしまったので、たいへんなのです!
肩からかけた鞄を胸に抱えて、ぼくは必死に走ってその場を去りました。
腕の力を抜くと怒ったレオがぴょんと飛び出して、冒険者のおじさんにもの凄い攻撃を与えてしまいそうで……あー、怖かった。
鞄の中でスライムの体を激しく動かしているレオを宥めるようにポンポンッと軽く叩く。
「レオ。ぼくは大丈夫だから、落ち着いて。目立ってしまうよ」
小声で話しかければ、ピタリと動きが止まって静かになった。
ここダンジョンに挑戦するギルドやソロ冒険者たちが集うギルド支部出張所には、いろいろな人が集まる。
特にここは、初級から上級までのダンジョンに挑戦するあらゆるランクの冒険者が訪れるのである。
前にオスカーさんが話してくれた、魔物を研究しているヤバい人たちが揃ったギルドもいるかもしれない。
そんな人たちに珍しいスライムのレオが見つかったら……ブルルル、想像するだけでも恐ろしいよ。
「オスカーさんたちが受付を済ませてくるまでここで待っていよう」
人混みから離れた場所でポツンと立っていれば、オスカーさんかディータさんが気づいてくれるだろう。
ぼくは大きな木に背を持たれてゆっくりと息を吐いた。
だがしかし、運の悪いぼくは、ダンジョン攻略の許可を貰おうと冒険者たちはどんどん増えてきているというのに、さっきぶつかったオーガもどきの冒険者を発見してしまった。
「ヤバい」
咄嗟に持っていた鞄で顔を隠し、そぉーっと覗き見てみる。
何やら、誰かと揉めているみたいだぞ?
怒鳴り声がここまで届いた。
「てめえ、この愚図。もっとしっかりしろよ」
ドガッ!
「す、すみません」
「ほら、こっちの荷物も持てよ。いいか落とすなよ」
ドサドサドササッ。
「うっ」
「おい、バカ。それは食料だし、さっきの鞄にはポーションが入ってるんだ。丁寧に扱え」
バシンッ!
「いたっ!」
………………、あれは、なんだろう?
「イジメ?」
見たところオーガもどきの冒険者のギルド仲間だろう冒険者が数名、まだ子供と見える少年を囲んで暴力を奮っている。
でも、あの子もギルドメンバーなのかもしれない。
ギルド中での役目は「荷物持ち」なのかもしれないが、マジックバックを持っているようには見えないし、種族的に怪力持ちには見えないんだけど。
もしかして「怪力」スキルでも持っているのかな?
鞄で顔を隠しながらハラハラとそのギルドのやりとりを見ていたぼくは、突然肩を叩かれて飛び上がって驚いた。
「ひゃああああっ!」
「おっと、すまん。驚かしたか?」
振り向いた先には、ぼくの大げさなリアクションに目をパチクリさせたオスカーさんたちが立っていました。
「そう、そんなことがあったの」
ビアンカさんは痛ましそうに目を細めて、静かにお茶を口に運んだ。
「クルト。もしかしてその子供というのは?」
オスカーさんの問いにぼくは頷いて答えた。
何度か同じくギルド支部出張所の窓口で、ギルドメンバーから罵詈雑言を浴び暴力を受けていた子だと思う。
「でも、前に見たときとギルドメンバーが変わっていたような?」
前は剣士風のお兄さんと魔法使い風の人がいたけど、今回はオーガもどきの人といい、他の人もオークのような体をした人、筋骨逞しい頭の中身まで筋肉でできていそうな人たちだった。
「以前見たときにギルド職員が仲裁に入っていたから、ギルドを移ったのかもしれないなぁ」
「しかし、今どきギルド内で生贄ごっこをしているバカがいるとはなっ」
ハルトムートさんは、ぼくが見た虐げられた子供の話を聞いたときからご機嫌が斜めだ。
「生贄ごっこってなあに?」
ビアンカさんが小首を傾げてハルトムートさんに尋ねると、ハルトムートさんは苦虫百匹噛み潰した顔で教えてくれた。
「そのままだ。ギルド内でのお荷物メンバーをいざとなったらダンジョンで囮にして逃げるんだよ」
「えっ……」
あまりの衝撃発言に手に持っていたお茶請けのお菓子をポトリと落としてしまった。




