三大公爵家
ぼくたち「白い輪」ギルドが主に活動している土地の領主バルツァー公爵は、王国三大公爵家の一つで「財」を司る公爵家として有名です。
冒険者たちの稼ぎ場所であるダンジョンを多く保有しており、王都に隣接したバルツァー公爵家が治める領地の領都には、初級、中級、上級ダンジョンが揃っている恵まれた地です。
ぼくたちも、もっとギルドのランクが上がれば依頼を受けて他の町や村に行ってみてもいいかな? と思ってますし、海や鉱山のダンジョンにアタックするのもいいかな? て野望もあります。
え? ぼくの場合、山の幸海の幸目当てだろうって?
ハハハ、いや、新しい食材とか心浮き立ちますよね?
ただ、この三大公爵家って互いにいがみ合っているらしいんです。
王城で活躍している「知」を司るフェルスター侯爵家は、その公爵様が宰相職を担っており縁者は大臣も多く、文官のほぼ半数以上はフェルスター家の息がかかっているとか。
治めている領地も農地が多くを占め、どちらかと言えば長閑なところで、人口が多いのは平民でも診てくれる医者や病院があり、教会が施す無料治癒魔法もあるからだそうです。
もう一つの公爵家は「武」を司るクロイツ公爵家で、領地は険しい山も別の大陸へと繋がる海もあり、ダンジョン以外にも魔物の出没が頻繁で、村人でさえ屈強な人が多いとか……怖いです。
海にも面しているので海軍があり、幾つもの軍船を所有しているそうですよ。
もちろん、公爵様は王国騎士団の騎士団長であり、全ての軍事力を握っています。
この三家が王家の寵愛を競っているので、なにかと意識して監視し合っている……厄介な関係だそうです。
でも、冒険者ギルドには関係のない話ですよね?
「そうなんだが、ここで私の出自が問題になるんだよ」
オスカーさんが申し訳なさそうに肩を竦める。
「私の実家、侯爵家はバルツァー公爵派なのでね。私の出自がわかれば他の公爵派の地では、嫌がらせの一つや二つあるかもしれない」
「ああ……。ギルド本体は各国に支部があるが基本は独立組織だから、たとえ一国の王でも自由にはできないが……、そりゃ建前だからな」
いろいろ冒険者として経験してきたハルトムートさんが口を尖らせる。
「具体的にはどういう嫌がらせがあるの?」
「んー、ダンジョンに入る許可が出ないとか、貴族の指名依頼で足止めさせられるとか。面倒事だな」
……地味に嫌ないやがらせだなぁ。
「俺たちのランクでは、違う町に行くのもまだ先のことだ」
ディータさんがさり気なくオスカーさんを慰める言葉をかける。
「そうね。まだ中級ダンジョンだって踏破していないんですもの。まだ先のことよ」
ビアンカさんも大きな口でマフィンを齧ると、一際明るい声で言い放った。
「……それが、これがギルド支部から届いた」
スッとオスカーさんが差し出したのは、ギルド支部からのギルドランクアップの通知だった。
「「ええーっ!」」
「まだ、見つからないのか!」
ダンッと重厚な机を拳で打ち付けるのは、三大公爵家が一つフェルスター公爵その人だ。
ライナルト・フェルスター公爵は普段は宰相として王城に詰めていることが多いが、最近屋敷での不祥事が重なりここ王都の屋敷で過ごすことも増えていた。
気難しい顔を始終しているため、精緻な骨董のような美貌に些か陰ができているが本人は気にしていない。
そして、その横に控えるのは代々フェルスター家に仕える男爵家当主であり、フェルスター家の筆頭執事であるテオフェル・アーレンスだ。
こちらも無表情で彫刻のような美しさに、増々血の気が感じられない出来上がりである。
「父上。そのように喚いても見つからないのは見つからないのです。だいたい被害者家族なのはアーレンス家であって、我がフェルスター家は齢十の子供を保護できなかった非情な主人なのですよ」
ライナルトの前に立ち、飄々とした表情でそう言いのけた青年は、ローデリヒ・フェルスターでフェルスター公爵家嫡男である。
その横にはテオフェルによく似た顔立ちの青年、エドガー・アーレンスが控えている。
「……あのバカはどうした?」
「我が家の汚点、私のかわいい弟、グスタフは離れに監禁していますよ。周りは兵で固めていますし、メイドを人質にされても困るので身の回りの世話も騎士にさせています」
チッと舌打ちしたライナルトに、礼儀作法にうるさいテオフェルは厳しい視線を向けた。
「……すまん、テオ。お前の息子を助けてやれない自分が情けない」
「いいえ。これはアレにも問題があったことですから」
「……父上。あの子に問題なんてありません。あの子は心優しく素直な子です。グスタフ……様へ誠心誠意尽くそうとしていたのです」
我が子を冷たく切り捨てようとする父親に射殺すような視線を向け、エドガーは弟を庇う言葉を並べる。
「それは私も同意だ。あの子はいい子だ。あのグスタフが勝手に妬み、嫌ったのだ。しかもあんな恐ろしい企みまで」
ギリッと唇を噛むローデリヒの背中に手を当て落ち着かせるエドガーたちの主従愛を見て、胸を詰まらせるライナルトはため息を吐いた。
まさか、息子がアーレンス家の次男を嫌い屋敷から追い出すどころか、人買いに売ってしまうなんて考えもしなかった。
その後、必死に探しても売られた子供は見つからない。
「旦那様。もしかしたらフェルスター家の領地から出てしまっているのでは?」
「……他領地にまで捜索を広げるしかないか」
「ですが、あの子のスキルでは価値がなく、アーレンス家の名前がなければ買われることもないかと」
エドガーがほんの少し眉を寄せ心苦しく吐き出す理由は、家族愛の強いアーレンス家にとって不愉快なことだった。
最愛の妻が、母が残した愛しい我が子、弟のスキルが、世間ではハズレと蔑まれるものだとは。
そのスキルのせいで、公爵家の次男にいじめられ虐げられ、しかも売られてしまうなんて。
「……『器用貧乏』スキルか……」
ライナルトは絶望を隠せず、顔を天に向け嘆いた。




