ギルドの失敗
微妙な空気感で始まった昼食会だったけど、食べながらお話しましょう、とはならなかった。
そんなに険悪な状態? ではなく、みんな食べるのに夢中で話をする余裕がなかったのだ。
「ちょっと! この芋サラダはあたしが手伝ったのよ? あたしのよ!」
違います、ビアンカさん。
「…………っ!」
無言でただひたすらにボア肉を食べないでください、ディーターさん。
「お、おいしい。おいしいけど…………」
ジト目でぼくを見ないでくださいよ、オスカーさん。
ミアさんとハルトムートさんはお互いに取り合いしながら、楽しく? 食べている。
ぼくとレオは作りながら味見もしていたので、大人しく食べて……、食べて……、レオ?
「なんだっ、このスライム。俺の肉を返せ!」
「きゃあ。それ、うちのチーズや!」
嘘でしょ、レオ……何やってんの?
結局、大量に作った料理は全部キレイに皆さんのお腹の中へと消えていきました。
カズたち、三人のおじさんたちの満足げな顔が眩しいです。
昼食後、改めて話がしたいとハルトムートさんからの申し出で、プリンを持ってギルドスペースのサロンまで移動してきました。
ハルトムートさんに請われて、なんと、ギルドスペースも既にご案内済でした。
「クルト。紅茶を淹れるのを手伝おう」
「あ、ありがとうございます」
オスカーさんも紅茶を淹れるのが上手なんですよ。
よく、お兄さんたちにも淹れてあげていたらしいです。
そのお兄さんって、侯爵家の御子息ですよね?
ハルトムートさんとディーターさんの目がテーブルの上のプリンに釘付けだけど、大丈夫かな。
「……ちょっと、父ちゃん」
「お、おお。すまん。コホン、あー、オスカー」
「はい」
「そのな、あのな。このギルドのことなんだが……」
めちゃくちゃ言いにくそうに話し始めたハルトムートさん。
そして、その話の内容にぼくたち「白い輪」ギルドの面々が顔色を青褪めさせることになるなんて。
「つまり、このままでは新しいメンバーを確保することができない、ということですか?」
震えるように声を絞り出すオスカーさんに向かって、ハルトムートさんは重々しく頷いた。
「うーん、かなり難しいなぁ」
ハルトムートさんは元冒険者で、新人ギルドのぼくたちよりもかなりの事情通だった。
つまり、ぼくたちは新人メンバーの募集をする時期を誤ってしまったらしい。
「だいたい、発足したばかりのギルドから脱会者がいたら、そのギルドに問題ありと思われる。しかも、剣士と魔法使いが出て行ったんだろう? このギルドは自分たちの能力に見合わないと判断したか、ギルド自体に問題があると思ったか。周りはそう思う」
「そんな! あいつらがオスカーに嫌がらせするために勝手に辞めたのよ?」
バンッとテーブルを叩いてビアンカさんが抗議をするが、ハルトムートさんは咄嗟にプリンのお皿を守っていた。
「だとしても、そんなこと言えないだろう? ギルドマスターとしての資質が問われて、結局新人メンバーなんて来ないぞ?」
「……前衛がいない」
ディーターさんは自分の手をじっと見つめる。
たぶん、盾役の自分が攻撃でも役に立てないか、考えているんだろうなぁ。
「すまない。私がもう少し考えて行動すればよかった……」
苦悩するオスカーさんに、ミアさんもどう言葉をかけていいのか迷っているみたいだ。
「時期としては、初級ダンジョンを踏破して中級ダンジョンに挑戦している頃に募集するのが正解だったな。どこでも初級ダンジョン後にメンバーが入れ替わることはあるあるだから」
どうやら、実際にダンジョン攻略してみて冒険者稼業が合わないと感じて辞める人は一定数いるらしい。
あと、バランスが悪いパーティーは他のギルドからメンバーを入れ替えたりとか、ギルド支部でもメンバー変更の斡旋もしているんだって。
「そうね、実際ダンジョンに潜ってみて、パーティーのバランスに気づく場合もあるし」
つい、気が合うからと剣士ばかりで挑戦して怪我だらけで逃げてきたり、魔法使いばかりで潜って素早い魔物相手に魔法が当たらず魔力切れを起こして救助されるパーティーもあるらしい。
「ど、どうします? オスカーさん」
ぼくの魔法では初級ダンジョンはともかく中級ダンジョン踏破は難しいんですよね?
「そもそも、クルトは魔法を使うときにちゃんと目を開けていないと危ないぞ」
「あ! すみません」
しゅんと頭を落とすぼく。
「しかし、メンバーは募集しないとこれからの活動が厳しい。気長に待つしかないな、しばらくは初級ダンジョンで時間を稼ごう」
ハハハと乾いた笑いをして、オスカーさんは背中を丸めてプリンを食べだす。
「そうね、焦ってもしょうがないし。ここまできたら、いい奴がくるまで辛抱強く待ちましょう」
「誘ってもいいしな…………」
なんとか前向きな意見で気分を持たそうとしている皆さんですが、プリンを食べても表情が暗いのでショックの程度がよくわかります。
このメンバーでは、パーティーのバランスが悪いし、いつまでも初級ダンジョン攻略ばかりでは、余計な噂が立てられそうです。
「むむむ」
「なぁ、父ちゃん。どうにかならんの?」
「なる」
「「「「えっ?」」」」
ハルトムートさんの言葉にぼくたち全員が思わず声を上げます。
「俺が、俺がこのギルドに加入する!」
ハルトムートさんは口の端にカラメルソースをちょっぴり付けて、右手にスプーンを掲げ立ち上がって宣言しました。




