芋のスープとチップス
さて、今日の晩ご飯はオスカーさんたちが帰りに屋台で買ってきてくれた肉串がメインです。
わかってましたけど、見事にお野菜がないですね……スープぐらい買ってきてもよかったのでは?
「……ビアンカがクルトの作る料理も食べたいと言って。そのぅ、スープぐらいなら作ってもらえるかと思ってな……」
オスカーさんはこのギルドのギルドマスターだし、侯爵家の御子息だし、ぼくより背か高いのに、そんな捨てられた子犬のようなウルウルの上目遣いで見ないでください!
「うーん、じゃあ何か作りますね」
「ありがとう! その前にクルト、先にお風呂に入っていいぞ」
今、ぼくたちはお風呂を順番で利用している。
一人ずつ入るので時間がかかる。
みんな晩ご飯の前に汗を流したいと思っているから、まずはぼくが先にお風呂に入ってスープ作りをすればいいんですね。
「わかりました」
ぼくはゲレオンさんが突貫で作った簡易階段を駆け上がり、お風呂に入る準備をした。
ふむ、今日のご飯用の食材、芋がいっぱいあるからこれでご要望のスープを作ろう。
あと、簡単なサラダとちょっとつまめる物も用意しよう。
ビアンカさんが嬉しそうに屋台で買った肉串の説明をしてくれたが、本当に肉串しか買ってこなかったみたいだから。
「うーん、明日の朝のパンも焼きたいけど、素人にはハードルが高いから練習してからかな?」
小麦粉はいっぱいあるから、時間を見てパン作りに挑戦しよう。
では、いざ『異世界レシピ』を。
「芋を使った簡単なスープとおつまみを教えてください」
パンッと両手を合わせてガバッと頭を下げる。
「シュン」と軽い音を響かせてお馴染みの半透明な画面が目の前に出現した。
「なになに」
<リクエスト>簡単なスープ料理とおつまみ 食材指定 芋
スープは芋をすり潰したポタージュみたいなレシピが表示されていて、おつまみには例のポテトフライに似た油で揚げるレシピだった。
「うん、今日はレオのお手伝いがないから不安だけど、このビシソワーズ? とポテトチップスなら作れそう」
まずは芋の皮を剥く。
レオがいればなぁ……と思いながら包丁でスルスルと剥いていくぼく。
『器用貧乏』スキルが活かされてます。
そして、芋を薄く切る?
「ポテトチップスって薄く切って油で揚げるだけなの?」
簡単だけど……美味しいのかな?
切った芋を水に漬けておく、その間にスープ用の芋はもう少し厚く切って玉ねぎも切っていく。
「スープ用のは玉ねぎをバターで炒めて……そのあとに芋を入れる」
大きめの鍋にバターをひと塊落として、溶けたらスライスした玉ねぎを一気に入れて炒めていく。
玉ねぎが透きとおってきたら芋も入れて、塩コショウ、前にオスカーさんに買ってもらったコンソメスープを粉末にした調味料をパパッと。
そしてお水です。
「このまま柔らかくなるまで煮るんだね」
噴きこぼれないように注意しなきゃ。
じゃあ、水にさらしていた芋の水気を切って……。
「乾燥が使えるかな?」
ぼくは薄くスライスした芋に【生活魔法】の【乾燥】を弱くかける。
ほどよく表面の水気が取れたかな?
油は二種類あるけど、このレシピにはどちらを使えと書かれてないから、安い油を使おう。
花油だ。
木の実油はちょっと高いからね。
「温度が上がるまでちょっと待つっと」
レシピにはポテトチップスの味付けについても数種類書かれているけど、やっぱりシンプルな塩味は外せないよね。
揚げ油に数枚ずつ芋を入れて、次々とこんがり揚げていく。
揚げた分はバットに紙を敷いた上に重ならないように置いていこう。
そのうち、スープの鍋もくつくつと音を立て始めた。
芋が柔らかくなったら、鍋の中で芋を潰していくよ!
玉ねぎも芋もトロトロになってしまうまで、しっかりと潰さないと。
粗方潰せたら、ちゃんと滑らかになるまで何回も漉します。
ううーん、ちょっとたいへんだけど、頑張りますっ。
これは冷たいスープらしいので、暫し冷ましておきましょう。
そのあとに冷たいミルクを加えて、飾りにパセリを散らせば完成です。
揚げたてのポテトチップスの半分に塩をパラパラと散らして、もう半分はチーズ味にしたいのです。
ドンッとチーズを調理台の上に載せて、おろし器で細く削っていきます。
削ったチーズを粉末にしたいんだけど……どうしよう?
ピコン!
「ん? なになに? 【風魔法初級 クラッシュ】を使用推奨……誰が魔法を使うの?」
今ここにレオはいない。
きっと今頃は、新しくできた後輩の指導に熱が入っていることだろう。
だからぼくのスキルを共有して魔法を行使することができない。
「ま、まさか、ぼくに魔法を使えって言ってるの?」
そんな、バカな! ぼくは『器用貧乏』スキルがあるから他の能力は何もないはず。
「でも『異世界レシピ』スキルがある」
本来なら『器用貧乏』スキルしか持てないはずのぼくが持つ、もう一つのスキル。
ゴクリと喉を鳴らして、ぼくは恐る恐る小さな声で詠唱する。
「【風魔法初級 クラッシュ】」
その瞬間、ぼくの手の中でクルクルと小さな竜巻が生じて、細く削られていたチーズへと襲い掛かるのを呆然と見ていた。




