オスカーさんの失態
今日は最後のギルド講習日です。
これでギルド立ち上げの条件を満たすので、オスカーさんはギルト支部からギルド証を発行してもらい持ち帰ってくるはずです。
それは、ギルドの受付の後ろの壁に額に入れて掲示することが義務付けられています。
オスカーさんが渋面で嫌がったマスターの執務室には、やっぱり立派な額に入れたギルドマスター合格証を掲示するんだよ。
ビアンカさんといつものお掃除を終えたあと、ぼくたちは市場に買い物に行きました。
調味料を買い足して美味しいものを作って食べさせてあげたい! と息込んでいましたが、いつもの食材を買って終わりにしました。
だって、これから出費がどれぐらいかかるかわからないんだもん。
そんなに高い調味料ばかりじゃないけど、節約しないとね。
それに、ディーターさんは質より量が大切かもしれない。
何気にビアンカさんもよく食べるし。
今日はお肉を焼いてサラダとスープとパンの食事で済ませます。
ギルド立ち上げのお祝いは、明日受付のミアさんを招待してお昼に行う予定なのです。
ビアンカさんとレオのつまみ食いを阻止しながら、ご飯を作っているとオスカーさんたちが帰ってきました。
「おかえりなさい、オスカーさん?」
はて? なんでオスカーさんはがっくりと肩を落として帰ってきたんだろう?
まさか、ギルド証が発行してもらえなかったとか?
いやいや、でもディーターさんは苦笑しながらオスカーさんの背中をポンポン慰めるように叩いているし……何があったの?
ビアンカさんと顔を見合わして、とりあえず食事にすることにしました。
「実は……忘れていたんだ」
「何をですか?」
オスカーさんはしょんぼりしたまま焼いたお肉を切って口に運んで、お肉が美味しかったのか口の端を上げる。
「そのぅ……」
言いにくそうに口をもごもご。
「オスカーはギルド名を決めるのを忘れていたんだ」
「えっ!」
そういえば、ギルド名なんて聞いたこともなかったな……。
「いや、ギルド名の候補を出してもエッカルトたちが文句を言うから後回しにしていたら……忘れたんだ」
講習の後にギルド支部の職員に呼び出されて思い出したらしい。
「明日中に申請に行かなければ」
つまり、後回しにしていたら締切が明日になってしまったので、今すぐにギルド名を決めなければいけないってことですね?
「あー、あたしはパス。そういうの苦手で」
ビアンカさんが片手を軽く振って不参加を表明。
「……俺も不得意」
「そう言ってこちらに押し付けてきたんだよな、お前たちは」
オスカーさんがジロッと二人を睨む。
「それは、エッカルトたちがうるさそうだったし」
てへっと笑って誤魔化すビアンカさんに、ディーターさんは同意するように激しく首を振る。
「明日、ミアさんと一緒に決めたらどうですか?」
ギルド名って適当に付けるものじゃないですし。
厄介な案件を後回しにして、ひとまず食事を再開するオスカーさんたち。
でも、明日には決めなきゃいけないから、全員一個は候補を上げることにしましょうね! と提案するとみんなの顔色が悪くなった。
もう! 協力し合いましょうね!
ぼくの足元でレオが何かを訴えるように見つめている……たぶん。
「お代わりほしいの?」
お肉が足りなかったかな?
でも、レオは体全体をブルルッと横に震わせて否定する。
も、もしかしてレオもギルドメンバーの一員としてギルド名の案を出したいとか? ハハハ、いや、まさかそんな?
じーっとレオを見つめていた視線をスーッと逸らすぼくでした。
次の日。
みんなの朝ご飯を手早く準備したあとに、ミアさんを招待した食事の用意をします。
気合を入れるぞ! おーっ!
レオもぼくの足元で右手の触手を高く突き上げます。
「それでは、食材を用意して『異世界レシピ』スキルを使おう」
ミートボールのトマト煮以来のスキル活用だけど、今日はとびっきり美味しいものが作りたいのです!
「お祝いだから甘い物も作っておきたいよね。とっておきの卵もあるし」
卵を市場で買っておいたけど、すぐに悪くなるからその日に使わないといけない食材だ。
これはオスカーさんの収納に入れておいてもらったので大丈夫だけど。
同じ理由でミルクも買ったらすぐに使わないといけない。
「あー、早く裏庭に家畜小屋ができないかなぁ。そうしたら鶏と牛を飼って、毎日新鮮な卵とミルクが手に入るのに」
ぼくの要望にオスカーさんは少し呆れ顔だったけど、ちゃんと侯爵家に連絡して裏庭の整備をしてもらえることになった。
どっちにしろ庭の訓練場にも現状維持の魔法陣を仕込むので、お金はかかるらしい。
なので、魔法障壁や魔法陣の仕込みに比べたら薬草畑も畑も家畜小屋も些細な出費扱いとなった。
ついでに薬草や野菜の種、苗ももらえるし、鶏と牛、馬車と馬も融通してくれるらしい。
「……オスカーさんって侯爵家の皆さんに愛されているよね」
オスカーさんは庶子だからと遠慮がちだが、侯爵家の皆さんはオスカーさんのことをとっても大事にしている気がする。
「さて。野菜にお肉、調味料。小麦粉と卵とミルクを揃えて」
あとは『異世界レシピ』に念じるだけ。
「この食材でできる簡単なお祝いメニュー、甘い物付きで!」
バンッと両手を合わせて目を瞑って願うぼくの前に「シュン」とお馴染みの半透明の画面が出てきた。
<リクエスト>簡単なお祝いメニューとスイーツ 食材指定




