ギルドハウスのリフォーム案 2
ぼくの「受付のミアさんの意見もちゃんと聞きたい」という要望を承諾してくれたオスカーさんたちは、明後日の昼間に屋敷に招待すべくディーターさんが受付のミアさんの家まで伝えにでかけて行きました。
ううっ、すみません。
「ディーターなら大丈夫よ。夜に出歩いても誰にも絡まれないだろうし、ギルドハウスのリフォームにもこだわりなんてないから」
同じ孤児院で育ったビアンカさんがカラカラと笑いながら、ぼくを慰めてくれる。
うん、気を取り直して二階のリフォーム案に移りましょう。
「そのぅ、執務室がやけに広くないか?」
テーブルと椅子と書棚が一つあればいいのでは? と遠慮がちに進言するオスカーさんに、笑顔を引き攣らせたビアンカさんが首を振る。
「ダメよ。言ったでしょ? 貴族の依頼を受ける可能性があるんだから、マスターの執務室には応接スペースも確保しなきゃ。いい? 調度品もそれなりに値が張るのを買うわよ? 足元見られて依頼料を出し渋られたら、かなわないわ」
フンッと鼻息荒く言い迫ってくるビアンカさんに対し、オスカーさんは完全に腰が引けていた。
リフォームにかかる費用は侯爵家で負担してくれるけど、調度品は自分たちで購入しないといけないもんね。
うーん、調度品だけでもかなりの出費になるなぁ。
「それはしょうがない。地道に稼いで少しずつ揃えていこう」
「そうね。後回しにできるものはできるだけ後で買い揃えて、生活に必要な物だけ購入しましょう」
……特にベッドとか寝具ですよね? ずっと部屋の中でテント生活ですもんね。
二階のギルド側にはデデーンと執務室、資料を揃えておく小部屋と、ぼくたちギルドメンバーが集うサロンと簡易キッチン、トイレ。
それぞれの階段を挟んだ真ん中に仕切りの壁を作って、プライベートスペースにはメンバーの個室を六部屋、トイレと女性用のお風呂。
二階の仕切り壁には二つのスペースを行き来できる扉を設置。
「クルト。一階のキッチン側に裏庭からの出入り口を作るんだが、地下に降りる階段はどうする?」
「ああ、それは今ある階段をそのまま利用しようと思います。食材をしまう食糧庫の場所は変わりませんから」
「魔法の練習場……訓練場との間の扉は耐久性を考えて金属の扉を付けることになるが、他は木の扉でいいか?」
「はい。あー、ワインセラーの扉には鍵を付けることをお勧めします」
ぼくの言葉にビアンカさんの肩がビクンと反応して、にししっと悪戯っ子のような笑顔。
オスカーさんとぼくは、ジトーッとした目付きでビアンカさんを見てしまった。
やっぱり、夜にこそっとワインを楽しむつもりだったんですね?
「……クルト。食糧庫にも鍵をつけよう」
「そうですね。そうしましょう」
「ええーっ! そんなぁ……」
そんなぁ……じゃないですよ!
「二階の部屋は全部同じ広さと造りにするぞ」
オスカーさんってば、マスターの部屋は広くするって意見に反対してたから、ここでも念を押してきましたね。
「はい。わかりました。二階はオスカーさん、ビアンカさん、ディーターさんで後は空き室です」
「「は?」」
オスカーさんとビアンカさんが変な声を出してぼくを見る。
「なんですか?」
「いやいやいや。クルトの部屋は? あたしたちと同じ二階でいいじゃん」
ビアンカさんがぼくの両肩を掴んでガックンガクン揺らしてくる。
「い、いや、いやいや。ぼくは使用人が使っていた三階の部屋で……」
「なんでだっ! クルトはちゃんとしたギルドメンバーなんだぞ! 二階の部屋を使いなさい。これはマスター命令だ!」
「え? ええーっ!」
ビアンカさんまで「よく言った」とオスカーさんの背中をバシバシ叩かないでください。
いいのかな? ぼくも二階に部屋をもらってしまって……しかも個室。
「クルトはレオとの二人部屋だからな。そこは我慢してくれ」
オスカーさんの言葉にぼくは目をパチパチ。
レオはテーブルの上で体を上下にみょーんと激しく動かしてオスカーさんへアピールしている。
お礼のつもりなのかな? オスカーさんには通じてないけど。
「はい、決まり! 次は三階ね」
三階は屋根裏を利用したスペースで勾配天井になっている。
もともと使用人たちが使っていた部屋らしく、プライベートスペースの上は家族用の二間にリビング、簡易キッチンとトイレ、シャワー室がある部屋で、ここはこのままの間取りでリフォームすることにした。
もしかしたら、いずれ誰かが家庭を持つかもしれないし、家族ごとギルドメンバーになるかもしれないからね。
ギルド側の上には、メンバー用の個室を三つ作ることにした。
後はトイレを増設する。
「全部でメンバー用の個室が九つ。充分すぎる間取りだな」
今のメンバーでは、どうしても攻撃面が弱いので剣士みたいな前衛タイプと魔法使いが加入してほしいと思う。
それ以外にも、遠隔攻撃手として弓とか、力技の斧、中距離攻撃が可能な槍もいいし、ダンジョン攻略を始めたら荷物持ちがいてもいいかも。
「どんな人が仲間になってくれるんでしょうね?」
「どっちにしても駆け出しのギルドにすり寄ってくるベテランは訳アリよ。見習いはクルトがいるからこれ以上は増やせないし」
ビアンカさんが頬杖をついてふうーっと息を吐き出す。
「まずは、ギルドに課せられたノルマを達成しよう。ダンジョン攻略はそれからだ」
ギルドの講習が終わってもすぐにダンジョンには潜れない。
まずは領都内にある簡単な依頼を決められた数こなしていき、それらを問題なく終えられたらダンジョン許可証が発行される。
「初級ダンジョンからの挑戦になるから、今のメンバーでも踏破することは可能だろう」
「たぶんね。でも、攻撃手がいないのは面倒だわ」
回復師のオスカーさんは貴族の嗜みで剣術を習っていたので、初級ダンジョン内では剣を握ることにしたそう。
うん、オスカーさんってば体だけ見たら歴戦の猛者ってかんじだもん。
「あ、オスカーさん。お庭のことなんですけど」
ぼくは間取り図とは別の紙をペラリとテーブルの上に広げる。
「これは……」
オスカーさんがぼくのお庭改造案に目を見張る。
表庭はお客様を迎える場所なので、キレイにします。
門から屋敷まで一直線の石畳みの道にして、左右に花壇。
あの、門扉も修理しないとダメでしょうねぇ……いっそのこと塀も煉瓦塀にしたらどうだろう?
来客用の馬車止めを新しく作って、庭をぐるり囲むように木々を植えて目隠しにしたいし。
表庭と裏庭の間には扉をしっかり造って、行き来を制限します。
裏庭はオスカーさん希望の訓練場を広めに取って、あとはいずれ手に入れたい馬車のスペースと馬場と馬屋。
裏庭は木の塀で囲んで門も木の門でいいんじゃないかな?
「ク、クルト。なんで裏庭に薬草畑と野菜畑と……家畜小屋がいるんだ?」
「え? だってみんな、おいしいご飯、食べたいですよね?」
ゴクリとオスカーさんたちの喉が動いた。




