王女と異邦人⑤
次の瞬間、巨大な火球が放たれた。
「伏せろ!!」
ハレはサラの腕を掴み、強引に床へ引き倒す。
ドォンッ!!
火球が床を叩き、爆ぜる。
炎が四方に広がった。
さらにキールの手が横へ振られる。
ゴォォォッ!!
今度は火炎放射のような魔法だった。
炎が線ではなく、面で押し寄せてくる。
床が焦げる。
壁が黒く焼ける。
空気が焼ける。
「……っ」
ハレは歯を食いしばり、サラを引きずるようにして柱の陰へ飛び込んだ。
石柱の表面が赤く焼ける。
キールは表情を変えない。
「逃げ場を削ります」
ハレは短く息を吐く。
「火力エグいな」
足元を見る。
さっきの火球で壁が砕け、石片が散っている。
(距離は……まだある)
ハレはリュックを開けた。
中からスリングショットを取り出す。
そして、床に散った石片を一つ拾う。
挟む。
引く。
放つ。
パシュッ!!
一撃目。
石片がキールの手に直撃する。
「……っ」
火炎の軌道がわずかに逸れた。
ハレは間を置かず、二発目を撃つ。
パシュッ!!
今度は足。
膝下に当たる。
キールの足が、一瞬だけ止まった。
だが三発目。
キールは半歩だけ身体をずらし、避ける。
四発目は、手で弾かれた。
キールの目が細くなる。
「魔力反応がない……」
一拍。
「探知できないのか」
ハレはスリングショットを軽く下げた。
「ただの石だよ」
「……なるほど。魔法ではない物理攻撃」
キールの声に動揺はない。
むしろ、理解した響きがあった。
「ですが、一度見れば十分です」
ハレは口の端を上げた。
「二発もらっといて、よく言うぜ」
キールの目が細くなる。
「三発目からは当たりません」
次の石は、当たらなかった。
キールは距離を詰めない。
真正面から潰しにも来ない。
ただ、ハレの手元を見ている。
(……読んでくるな)
ハレは小さく舌打ちした。
リュックに手を入れる。
取り出したのは、乾いた泥団子。
山で固めておいた、土と灰の塊だった。
そこに、ごく少量の熊よけスプレーを染み込ませて乾かしていた。
使えるか分からない。
だが、捨てずにリュックへ放り込んでいたものだ。
表面には、乾いた細かな粉がついている。
当てるための弾ではない。
崩すための弾だ。




