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第43食 その男の名はマナミツル

 

 老婆と猫とギャル、そして居候の大学生。


 今日も秋風家の居間には、全員が集まっていた。


「はい、ミツルにプレゼント!」



 ――分析開始。



 なに? こわいんですけど?


 っていうか、ネイルサロン行った?


 今までは星とかハートだけだったのに、


 いきなり見慣れないアルファベット文字が刻まれてるんですけど?



「爪、変えたんだ?」

「え? わかる!?」

「わかるよ。ぜんぜん、違うもん。なに、その文字は? どういう意味?」

「それは……いいの! とにかく、プレゼント受け取って!」



 なんか焦ってるし、『MM』って書かれてるけど。


 ……もしかして、出たの?


 そういう、大人の作品に。


 ダメだよ、お前。


 ふざけんな。


 俺を呼べ。出るにしても。



「なに怒ってるの、ミツル?」

「怒ってねぇし!」

「じゃあ、早く受け取ってよぉ」

「まだ受け取れないね! 聞かせてもらおうか!? いったい、どんなアルバイトをしてきたと言うのだい!?」


「ナーン……」



 ごめんな、カフェオレ。


 びっくりしたでしょう?


 大きい声、出しちゃって。


 出るわ、こんなもん。


 マジで。


 マジで焦ってます、今、この俺は。


 完全に白だと、清楚だと信じていたから。


 ヤダ。


 嫌だよ、俺。


 なんか、その包みの中身が、映像データの入ったやつだったりしたら。


 生きてけない!!


 見たくない!!


 ……いや、見たい、か? 見たい、ね。本当は。


 見たくないけど、見たくはある。


 そういうことじゃなくて、ヤダ!!


 ヤダヤダヤダ!!


 出てほしくない、というか、他のオスと、そういう、


 そういった行為をしてほしくない!!


 ……やってしまったのか、マジで?


 すごく知りたい!! 『MM』の真相を!!



「バイトなんかしてないよ」

「嘘をおっしゃい! それじゃあ、どうやってプレゼントを買ったというのだね?」

「この前、スロットで勝ったでしょ? 仲邑さんのおかげで、そのお金が丸々浮いたから……」



 ……ほんとぉ?



「なに? その目つき……悲しくなってくるから、やめてよ」



 やはり、清楚。


 だとして!


 はした金欲しさに『MM』的なものに、出演していないとして!


 そのプレゼントってのは、四万円もする何かということになるね?


 付き合ってないんだよ、俺たち?


 なんとも思っていないギャルが、俺にそんなことする?



「ごめん」

「ううん」



 ……もしかしてこいつ、俺のこと、好きなんじゃね?



「……ありがとう」



 聞けない!


 プレゼントは受け取ってしまったけど!


 真相は聞けない!


 秋風ノイチさん、あなた、私のこと、どう思ってるの?


 玉砕した場合のことを考えると、何もできない。


 あなただけではなく、可愛いカフェオレやばあちゃん、


 そしてなによりも住み処を失いますから。


 こっちはすでにアパート引き払っちゃってますから。


 普通に冷蔵庫開けて、アイスとか食ってるけど、


 よく考えたら、ここ、人んちですから。


 換気扇のフィルターとか、庭木の手入れとか、色々やってるから、


 まあまあまあ……。


 そこはいいとして。


 俺のこと、どう思っているの、このギャルは。


 教えておくれよ、その勝気なマインドで。


 俺は結構、というか、かなりイカれてるよ?


 秋風ノイチに。


 授業ある日はお弁当作ってくれるし、


 ボディタッチがバカみたいに多いし、


 呼んでもいないのに当たり前みたいに隣にいるから、


 いないと探しちゃうし。



「ナーン……」



 猫は可愛いし。



「はやく、開けてよ」

「おう……こういうの緊張するね? 包み紙をキレイに開ける男とかがモテたり」

「いいから、はやく!!」



 あんだよ!!


 勇気を出して、探りを入れようと思ったのに!!


 お望み通り、開けてやるよ!!


 田舎出身の男らしく、バリバリと、乱暴にな!!



「……これって」

「時計! なんか、いつもスマホで時間確認してるから、あったら便利だろうなって。そう思ったの!」





 文字盤に鮮やかなブルーがあしらわれた、絶妙なセンスが光る腕時計。


 ミツルはそれを丁寧に、自分の腕へと巻きつける。


「……どうかな?」

「似合う似合う! カッコいいじゃん!」

「ははは、ありがとう……本当に、ありがとう」


 居候の名前は真菜(まな)ミツル。


 彼は大学生にして初めて、意中の女性からプレゼントを貰うことの嬉しさを知った。


「気に入ってくれて、よかった……」


 ギャルの名前は秋風ノイチ。


 左の薬指の爪に刻まれた『MM』のイニシャルの持ち主こそが、彼女が心に決めた相手である。

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