其の壱百五「わからない目印」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
みなさんは、何かは分からないのに、何かを意味していそうな“目印”を見たことはありませんか。
二年前、私はそんな目印を見つけました。
関連していそうな仕事をしている方に尋ねてみたのですが、その方も意味は分からないと言い、
「これは何だろうねえ」と、並んで腕を組みながら首を傾げたのを覚えています。
その経験から、こんな話が思い浮かびました。
◇◆◇
その街の外れにある古い遊歩道に、誰が描いたのか分からない奇妙な目印がある。
円とも三角ともつかない歪んだ線が石畳に刻まれており、
長い年月が経っているにもかかわらず、雨風にさらされても消える気配がない。
この街に昔から住む人たちは、その目印の意味を誰も知らない。
調べようとする者もいない。
ただひとつだけ、住人全員が口をそろえてこう言う。
――「あの目印に触れたら、何かが起こる。」と。
何が起こるのかと尋ねても、誰も答えられない。
「知らない」「聞いたことがない」「でも触れたら駄目だ」
そんな曖昧な返事ばかりが返ってくるのだ。
数年前、ある若者が興味本位でその目印に近づいたことがある。
だが、触れる前に突然顔を真っ青にして逃げ帰ってきた。
何を見たのかと問い詰められても、彼は震えながら「影が……」とだけ言ったという。
それ以来、誰もその目印には近づかない。
意味も分からず、正体も分からず、ただ“触れてはいけない”という噂だけが残り続けている。
今もその目印は、ひっそりと石畳の上にある。
誰も触れず、誰も確かめず、ただそこに放置されたまま。
この話、本当なんです。
◇◆◇
私が見つけた目印は、電柱の根元に青いペンキで描かれた、
一目では何を意味しているのか分からない奇妙な印でした。
あれはいったい何だったのか。あの目印は、今も残っているのだろうか。
そう思った私は、二年ぶりにその場所へ足を運びました。
そこには――
……青いペンキの目印が、以前とまったく同じ形で残っていました。
ただひとつ違ったのは――
目印のすぐ横に、見覚えのない“黒い影のような染み”が新しく増えていたことです。
私はそれ以上近づけず、そっとその場を離れました。
この話、本当なんです。




