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第8話 砦の構築と王家の誤算

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鳥たちのさえずりが朝の静けさを破り、心地よい風が窓辺から部屋に吹き込んだ。淡い陽光がカーテン越しに差し込み、私はゆっくりと目を開ける。


(すっかりここでの生活にも慣れてきたわね)


ターシュエル男爵家に到着して数日が経ち、私の心には少しずつ新たな日常が根付き始めていた。屋敷の素朴な雰囲気は、王都の華美な生活とは異なりながらも温かく、居心地が良い。


軽く伸びをしてベッドから起き上がると、クラーラがちょうど部屋に入ってきた。


「お嬢様、お目覚めですか?」


「ええ、おはよう、クラーラ」


「今日も良いお天気ですわ。グララド様が朝食時に重要なお話をされるとか」


「重要なお話?」


私は不思議に思いながら、朝の支度を整えた。



朝食の席には、グララド様が既に座っていた。彼はパンを豪快にちぎりながら、私に微笑みかけた。


「おはよう、フランシェ」


「おはようございます。今日は重要なお話があるとか?」


グララド様はパンを口に放り込み、少し真剣な表情になった。


「それが、少し問題があってな。君が前に話してくれた砦の件だけど、あれを本格的に進めようと思っているんだ。村の中央付近に避難砦を建てて、魔物の脅威から領民たちを守れるようにしたいのだ」


「それは素晴らしいわ。でも、何か問題が?」


「……予算だ」


グララド様は渋い顔をしてテーブルに肘をついた。


「石材や建築資材の費用、作業に必要な労働者の賃金も馬鹿にならない。今のターシュエル領では、全てを揃えるのは難しい。それで完成までには数年かかる見込みだ」


彼の言葉からは本気で領民たちのことを考えている気持ちが伝わってくる。


(うーーん、何とかしてあげたいわ……そうだわ)


「グララド様、私に良い案がありますよ」


「ん? なんだ?」


「私、結婚に際して王家から支度金をいただいています。それを使わせてください」


「な、何? 駄目だ。そのお金はフランシェが生活するために使うべきものだ。領地の運営資金ではない」


グララド様は驚いたように身を乗り出した。


「たしかに支度金は本来、私の生活のために使うべきものなのでしょう。でも、私の生活は、領民たちの生活の上で成り立っています。だから彼らが安心して暮らせるように、砦に充てても問題はありませんわ」


グララド様は目を見張り、やがて感動したように息を吐いた。


「君は……本当にすごい人だな」


「大したことではありませんわ」


「いや、大したことだ」


真剣な眼差しに見つめられ、私は少し照れくさくなった。



支度金を砦建設に使う話はすぐに領民たちの耳にも伝わった。


「フランシェ様が私たちのために、そんな大金を出してくださるなんて……」


「結婚の支度金を私たちの為に……なんてありがたいことだ!」


村人たちは感謝の言葉を口々に述べ、畑仕事の手を止めてまで挨拶してくれるようになった。


「フランシェ様! いつも、ありがとうございます!」


その言葉に微笑みを返す。


(領民の皆さんがこんなにも温かく迎えてくれるなんて……この土地をもっと良くしていきたいわ)



――――



そのころ王都では、王太子とその取り巻きの孤立が、さらに深刻化しつつあった――。


王城の広間には柔らかな陽光が差し込む中、侍従たちが慌ただしく動き回っていた。煌びやかな銀器や彩り豊かな花々が次々と並べられ、華やかな宴の準備が進められている。


「王太子婚約祝賀会の日程が正式に決まりました」


儀礼長の報告に、側近たちが誇らしげに頷いた。


「王太子殿下の婚約を祝う宴……きっと王都の貴族たちも心待ちにしていることでしょう」


「フランシェ・ド・フランシスなどより、リリア様こそ王太子妃にふさわしい」


しかし、その言葉には虚勢が混じっていることを、少しでも物事が読める者なら感じ取れただろう。広間に漂う微妙な緊張感と違和感を、王太子の隣に座るリリア・クレシュフォールだけは理解していなかった。


「リリア様、この宴の招待状は本日中に発送します」


「ええ、できるだけ早く送りなさい。特にフランシス侯爵家には丁寧な文面をお願いするわ」


(フランシス侯爵家だと?)


広間にいた者たちが、一瞬息を呑んだ。誰もが予測できる結果を思い浮かべていたからだ。



数日後、招待状が各家に届いたが、返ってきた返信に広間は再びざわめき始めた。


「……当主欠席、代理人出席、次男が同行……」


儀礼長が次々と内容を読み上げる。貴族社会の名だたる家々は口実をつけて欠席し、返事を寄せた者も次男や代理人ばかりだった。


「これはどういうことだ!」


王太子アドリアンは憤然と立ち上がり、手元の招待状リストを床に叩きつけた。


「俺の婚約祝賀会だぞ! どうして誰もまともな返事を寄こさないんだ!」


「殿下、あまりお気を悪くなさらず」


ヴィクトール・ド・モンレヴァン子爵が、慌てて声を上げる。


「何を考えているんだ、連中は! 王太子殿下の婚約を軽んじるなど前代未聞だ!」


シャルル・ダルモン男爵も勢いよく続いた。


「全くだ! この国の貴族たちは王家への礼儀というものを忘れたのか? フランシス侯爵などと違って、殿下はこれからの国を背負って立つお方だぞ!」


「そうだとも!」ヴィクトールが大きく頷いた。


「それなのに、なぜ当主たちは出席を拒むんだ! 調子に乗っているんじゃないのか!」


アドリアンはその言葉に激しく同意し、さらに八つ当たり気味に口を開いた。


「全く……! フランシス侯爵が裏で手を回したのじゃあないだろうな! あの陰湿なフランシェの父だからやりかねないぞ!」


ヴィクトールとシャルルはこれに同調するように怒鳴った。


「その通りですよ! フランシス家などは、あの貧乏男爵と共におとなしく辺境にでも引っ込んどけば良いのだ!」


「結局、貴族たちはリリア様が嫉妬されるほど美しく有能な方だから逆らっているんだ!」



この事態を理解できないアドリアンは、広間を苛立たしげに歩き回り、近くの侍従に怒鳴り散らした。


「おい、宴の準備はどうなっているんだ!」


「は、はい……王城料理人たちは現在、特別メニューの準備を――」


「遅い! この俺が主催する宴だぞ! なぜそんなに手間取るんだ!」


侍従は青ざめ、言葉を失った。


(どうしてこんなことになったんだ?)


アドリアンの胸には焦りばかりが募る。しかし、王太子と側近たちの傲慢な態度に嫌気が差した貴族社会が、すでに距離を置き始めている事実に気づくことはなかった。


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