◆SS2 出産準備と家族の絆
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ターシュエル城塞の一室。
「まぁまぁ、思ったより良いところじゃない!」
母、エレオノール・ド・フランシス侯爵夫人は、窓から外の景色を眺めながら楽しそうに言った。
「ええ、思ったより立派な城塞ですね」
クラーラの母、マルグリット・ド・モントルイユ夫人も、上品に頷く。
「母上、遠路はるばるありがとうございます」
グララド様が礼儀正しく頭を下げると、母はひらひらと手を振った。
「いいのよ、フランのためですもの。それに、ターシュエル領ってどんなところか興味もあったし」
「……母上、目的が若干違う気が……」
グララド様が小さくため息をつくが、母は全く気にする様子もない。
「ふふ、それよりフラン、体調はどう?」
「ええ、まだそれほど変化はないけれど、ちょっと疲れやすいくらいで」
「それならいいけれど……」
母がじっと私の顔を見つめた。
「何か?」
「……お肌の調子は悪くなさそうね。妊娠すると、肌荒れが出たり、髪がパサついたりすることがあるから、気をつけなさいね」
「……母上、そっちの心配ですか?」
グララド様が微妙な顔をする。
「大事なことよ? 貴族の女性は、いつだって美しくなければいけないの」
母は涼しい顔で言い放つ。
マルグリット夫人は苦笑しながらも、私に向き直った。
「フランシェ様、妊娠中は無理をせず、ゆっくりと過ごすことが大切です。日々の食事も見直し、必要な栄養をしっかり取るようにしましょう」
「ええ、ありがとうございます、マルグリット夫人」
「うんうん、マルグリットの言う通りよ。フラン、あなたは王都でも活発だったけれど、今回は特に慎重にならないと」
「分かっているわ、お母様」
とは言ったものの、私は元々じっとしているのが苦手だ。
そんな私の性格を見抜いている母は、じっと私の様子を観察している。
「……まさかとは思うけど、また領地を歩き回ろうなんて思ってないでしょうね?」
「えっ……」
「図星ね!」
「だ、大丈夫よ! 無茶なんてしないわ!」
「まったくもう……あなたは本当に私に似ちゃったのね」
母は呆れたように言いながらも、どこか楽しそうだった。
「エレオノール様、だから私が大変だったのですよ。フランシェ様は決してエレオノール様の真似はしないようにしてくださいね」
マルグリット夫人は呆れたような顔で母の事を見て、私に言った。
ん? なぜ横でクラーラが頷いているのよ!?
その日の夜——
グララド様は、執務室で難しい顔をしていた。
「……やはり、王都から助産婦を呼ぶべきでは?」
「えっ?」
私は驚いて顔を上げた。
「でも、ターシュエル領には十分な医療施設もあるし、王都の助産婦を呼ぶほどではないと思うけど……?」
「いや、何かあったらどうする。ここは辺境だぞ。医療設備が整った王都とは違う」
「でも、だからこそ母とマルグリット様が来てくださったのよ? それに私は聖女らしいから、何とかなるわよ」
「……それはそうだが……」
グララド様は腕を組んで、真剣に考え込んでいる。
(うう……こんなに悩ませるつもりじゃなかったのに……)
私は少しだけ微笑みながら、彼の手を握った。
「グララド様、大丈夫よ。私はあなたがいるから、何も怖くないわ」
「……フランシェ……」
「だから、そんなに心配しすぎなくてもいいのよ?」
グララド様は、少しだけ苦笑した。
「……分かった。ただ、できる限りの準備はしておく」
「それはもちろんよ。安心して、私も協力するから」
彼は私を抱きしめ、そっと囁いた。
「絶対に、お前も子供も無事に守る」
その言葉が、何よりも心強かった。
数日後——
私が城塞の庭を歩いていると、領民たちが次々と訪れてきた。
「フランシェ様、おめでとうございます!」
「この土地に新しい命が生まれるなんて、なんて素晴らしいことだ!」
「元気な子が生まれますように!」
「これ、身体に良いハーブティーです! ぜひ飲んでください!」
次々と差し出される贈り物に、私は胸が温かくなった。
「ありがとう、みんな……!」
ターシュエル領は、厳しい環境の中にある。
けれど、ここにいる人々はとても温かい。
それから数ヶ月——
お腹は大きくなり、いよいよ出産が近づいていた。
「フランシェ様、大丈夫ですか?」
クラーラが心配そうに寄り添う。
「ええ、少し疲れやすいけれど、まだ大丈夫よ」
しかし——
「フランシェ!」
グララド様が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「何かあったのか?」
「いえ、ただ少し動いたら疲れただけで……」
「そんな状態で歩き回るな!」
彼は私を抱きかかえ、すぐに部屋へ運んだ。
「も、もう、グララド様、大げさよ……」
「大げさじゃない。お前の体はもうお前一人のものじゃないんだ」
彼の真剣な言葉に、私は素直に頷いた。
そして——
「そろそろね……」
母とマルグリット夫人が静かに言った。
(いよいよ……私たちの子が生まれる……!)
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