海の魚をな
竜帝城の一室での話し合いが続く。
今日は、社を建立する時の祝詞と、大工への説明という、2つの面倒事を引き受ける事になってしまった。
私は、これ以上の厄介事が増える前に退散しようと考え、
「では、今日はここまでにしましょう。」
と談合の〆に入った。
赤竜帝も、
「うむ。」
と同意する。だが、
「この後、飯はどうだ。」
と昼食に誘われた。梶本様が、
「酒は準備しておりませぬ。
ご安心召され。」
と付け加える。誘われた事自体は嬉しいが、また余計な事が増えるとも限らない。
私は、
「もう、そのような時間でしたか。」
と言いながら、どの様に断ろうかと考えた。
古川様が耳元に顔を近づけ、手を添えて小声で、
「えっと・・・。」
と話し始める。
──どうしたのだろう?
そう思い耳を傾けると、古川様は、
「こういう時は、・・・一度お断りしてから・・・受けるもの・・・よ。」
と言い出した。だが、私としては、余計な仕事が増えないよう、なるべく早く帰りたい。
私は、なんとかならないかとお断りの口上を考えながら、
「そいうものなので?」
と確認をした。
古川様が、
「誘うからには、・・・もう・・・準備も終わっている筈・・・よ。
なのに、・・・それを断るのは、・・・悪いから・・・ね。」
と説明をする。確かに、昼食をこれから作り始めれば、いつ食事が出来るか知れたものではない。
つまり、古川様が言う通り、既に準備が整っていると考えるのが自然だ。
だが、屋敷のお勝手の人達だって、同じだろう。
どちらを選ぼうとも、選ばなかった方の食事は無駄となる。
私は、まだモヤッとしていたが、竜帝城を選ばなかった方が、無駄になる仕事も多いだろうと考え、
「・・・そう言う事でしたら。」
と了承した。そして、
「では、お屋敷の皆さんにご連絡お願いします。」
と付け加える。古川様は、
「分かった・・・わ。」
と答えると、少し、目を瞑った。
念話が終わり、古川様が私を見て頷く。
私は、赤竜帝に、
「申し訳ありません。
折角のお申し出ですが、所用がありますので、本日はお断りいたします。」
と断ったところ、赤竜帝は、一瞬だけニヤリとしてから、
「そうか。
それは、残念だ。
では、別の機会でも設けるとするか。」
と頷いた。私は、話が違うと思い、古川様に、
「どうしましょう。」
と相談したが、古川様は、
「えっと、・・・。」
と困惑顔。見ると、梶本様もギョッとしている。
それを見た赤竜帝は、少し笑いながら、
「山上。
こういう時は、『所用がある』とか『お断りします』などとはっきり言わず、もう少し軽く断るものだ。
今回は一部始終、聞いていたから判るが、そのように言われては、普通は引き止められまい?」
と説明した。言われてみれば、その通り。
私は、
「そうですね。
ここはもう少し軽く、
『準備も大変でしょうから、本日はこれにて』
くらいで済ませるべきでした。」
と笑って返したが、赤竜帝は、
「いやいや。
まだ重い。
『いえ、また別の機会に』
くらいで良いだろう。
そうすれば、こちらも、
『そう言わずに』
と返し易い。」
と例を示した。私は、そういうものかと思いながら、
「ありがとうございます。
今度からは、そう受け答えします。」
と笑顔で返した。
梶本様が、
「では、準備して参ります。」
と告げ、部屋から退席する。
私は、
「今日は、何を食べさせていただけるのでしょうか?」
と質問をすると、赤竜帝は、
「海の魚をな。」
と答えた。私は、一体何が出てくるのだろうと思いながら、
「楽しみです。」
と笑顔を向け、梶本様が戻ってくるのを待った。
赤竜帝と雑談をしていると、部屋の外から、
「お待たせしました。」
と声がかかる。が、想定と違い、梶本様とは違う声。
誰だろうと思いながら見ていたが、入ってきた人は全く知らない人だった。
赤竜帝が、
「ご苦労。」
と労いの言葉を掛ける。
やや大きめの皿が、各人の前に置かれる。
皿には、何やら麺がぐるぐる巻きにしてある魚の煮物が入っている。
用事を済ませた知らない人は、
「では。」
と言って下がっていった。
少し気になったので、私は、
「今日は、梶本様は戻られないので?」
と質問をした。すると、赤竜帝は、
「梶本か。
梶本は、仕事が早いからな。
恐らく、もうどの棟梁に声を掛けるか、選んでいるのではないか?」
と答えた。私は、
「昼食も取らずにですか?」
と聞くと、赤竜帝は、
「俺も、以前気になって聞いたのだがな。
区切りまで仕事をせねば、落ち着いて食べられない性分らしい。」
と答えた。私は、
「性分では、仕方がありませんね。」
と返すと、赤竜帝は、
「そうだな。」
と同意。そして、
「では、食うか。」
と言ったので、私も、
「はい。」
と答え、料理に箸を付けた。
本日、帰省の余波でバタバタしていたため、やや短めです。(^^;)
作中の「何やら麺がぐるぐる巻きにしてある魚の煮物」は、長嵜鯛麪を想定しています。
こちらは、油を塗って焼いた鯛に茹でたそうめんを尻尾までぐるぐる巻いた後、鍋の底に春菊か三つ葉を敷いて乗せ、その上にしいたけの千切りや錦糸卵、花カツオなどを乗せて、だし醤油と酒等で煮た料理となります。
・鯛百珍料理秘密箱 - 長嵜鯛麪
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100249897/27?ln=ja
・鯛麺
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