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これも自分本位

 昼食が終わり、谷竜稲荷(ろくりょういなり)に向けて行列を作って歩き始める。

 屋敷に戻ってきた時と同じく、足元が冷たい。

 黄色魔法(身体強化)で少しは()しになっている(はず)なのだが、雪焼け待ったなしのの冷たさだ。


──(くつ)でこれなのだから、草鞋(わらじ)だったら、もっと冷たかったに違いない。


 私は、今よりも(つら)い状況を思い浮かべて、今の方が増しだと考えながら、雪解け水の冷たさを乗り切った。



 谷竜稲荷に着いた後は、佳央様から手ぬぐいを貰い、()れた足を丁寧(ていねい)()く。

 その後、鏡の前の座布団(ざぶとん)に座る。

 ふと、昼食後の会話を思い出す。


 私は、



「そう言えば、佳央様。

 蒼竜様は、いつ頃いらっしゃると(おっしゃ)っていましたか?」


と確認すると、佳央様は、


「夕方よ。」


と一言。そして、少し首を傾けて考え、


「言われてみれば、さっき伝えるの、忘れてたわね。」


と苦笑い。私も、


「はい。

 ですが、あれは酒を飲んで良いかどうかの話が始まったのです。

 仕方ありませんよ。」


と苦笑いで返した。

 古川様が、


「そろそろ、・・・瞑想(めいそう)しよう・・・ね。」


(うなが)す。

 私は、少し話しただけなのにと思ったが、


「すみません。

 始めましょうか。」


と謝り、古川様も、


「そう・・・ね。」


(うなづ)いた。



 (ひと)呼吸して、瞑想を始める。

 例によって、周囲が白くなる。

 ぼんやりとした影が2つ浮かび上がり、それが小さな男の子の形へと整っていく。

 禍津日神(まがつひのかみ)()御霊(みたま)と、直毘神(なほびのかみ)の分け御霊だ。

 二柱で、仲良く話をしている様子。


 邪魔をしてはいけないとも考えたが、挨拶しないのも失礼だ。

 私は、


「こんにちは。」


と声を掛けると、禍津日神の分け御霊は、


「来たか。」


と笑顔の一方、直毘神の分け御霊は、ぎょっとした顔をしていた。

 私は直毘神の分け御霊に、


「どうかしましたか?」


(たず)ねると、直毘神の分け御霊は、


「普通、人は我々と会えば数日分の活力をごっそり持っていかれると聞く。

 なのに、もう来られるのか?」


と逆に質問された。だが、今までそのような事は、全然なかった。

 私が、


「活力をごっそりですか?」


と小首を(かし)げると、禍津日神の分け御霊が、


「ここは、こいつの中だぞ。

 高天原(たかまのはら)まで来たわけではないからな。」


と説明。高天原まで行くと、数日動けなくなる程、疲れるようだ。

 直毘神の分け御霊は、ハッとした表情で、


「そうでした。」


と納得し、


「つまり、頻繁にここに来ているという事ですか?」


と確認をした。禍津日神の分け御霊が、


「朝昼晩な。」


とニヤリと笑う。直毘神の分け御霊は、


「我々の恩恵を、受け放題という事ではないか!」


と驚き、困った顔になった。

 私はひょっとしたらと思い、


鬼籍(きせき)()らねばならないので?」


と確認したが、直毘神の分け御霊は、


「僕は、(した)の根の(かわ)かないうちに、前に言った事を(ひるがえ)すような真似(まね)はしないよ。」


と苦笑い。私は、


「それならば、妻に怒られずに済みます。」


と安心した。

 禍津日神の分け御霊が、


「死んだら、怒られるも何もないだろう。

 普通は、悲しませずに済むと言う物ではないか?」


と指摘。自分本意だった事に気付かされる。

 直毘神の分け御霊は、


「誰だって、人の本音は自分本位ですよ。」 


と笑うと、禍津日神の分け御霊も、


「そうだな。

 仮に妻の心配をしたとしても、本当に身内だと思っているなら、これも自分本位という物だ。」


とまとめた。が、これだと、私が更科さんの事を身内だと思っていないと言っているようにも聞こえる。

 私は、


「私は、佳織が妻だと思っていますよ。」


と抗議すると、禍津日神の分け御霊は、


「それは、解っている。」


と流された。直毘神の分け御霊も、


「そう思っているから、抗議したのですよね?」


と苦笑い。私が、


「そうです。」


と肯定すると、直毘神の分け御霊は、


「禍津日神は、昔から、ああいった誤解され易い言い回しを、好んでするのです。

 腹を立てても、仕方ありません。」


と表情を消して言ってきた。これが原因で、今まで何度も喧嘩(けんか)をしてきたのだろう。

 私は、


「面倒な友達という訳ですね。」


と言うと、禍津日神の分け御霊は、


「友ではない。」


と不機嫌そうに、直毘神の分け御霊は、


「違いますよ。」


とにこやかだが、かなりの圧で返してきた。

 私は、こちらに来た時も楽しげに話していたではないかと思ったが、


「そうでしたか。

 申し訳ありません。」


と謝っておいた。


 何となく、話が一区切りする。

 いつもならば、これで終わりして瞑想をやめるのだが、今夜は呪い(紫魔法)の件で飲み会をするとの事。

 私は、そこで話せる内容が聞けないかと、


「このような雰囲気の中で申し訳ありません。」


と前置きをし、


「里の呪い(紫魔法)について、どのように処理すれば瘴気が上手くいくのか、お話を(うかが)いたく・・・。」


と質問をした。

 しかし、まともに取り合う気がないのか、禍津日神の分け御霊は、


「それは、人の営みが原因なのは明らか。

 ならば里を捨て、小さな集落で暮らすように変えれば解決だな。」


と言ってきた。直毘神の分け御霊が、


「そのような、いい加減な事を・・・。」


と苦笑い。だが、確実に解消される案である事には違いない。

 私は、


「その案、酒の肴にさせていただきます。」


とネタとしてありがたく頂戴する事にした。

 禍津日神の分け御霊が、


「そうか。」


と笑う。私は、


「直毘神の分け御霊様は、何かございませんか?」


と聞くと、直毘神の分け御霊は、


「話しても良いのですが、対価が難しいですよ?」


と、ただでは教えてくれない模様。

 私は、


「対価ですか。

 今の私に準備が出来るとは思えませんので、皆で考えてみる事にします。」


と取り下げた。直毘神の分け御霊は、


「先ずは、そうするのが良いでしょう。」


と頷き、


「仮に対価を払ったとしても、他の人が同じ案を出してくるかもしれません。

 そちらで相談するのが先でしょう。」


と付け加えた。私は、


「そういう事も有り得るのですね。

 気をつけます。」


と返事をすると、禍津日神の分け御霊は、


「それも一つの、勉強だがな。」


と一言。そのような勉強は、あまりしたいものではない。

 私は、はははと笑い、


「それでは、この場はこれにて下がらせていただきます。」


と断って瞑想を終了した。


 本日も少し短めです。(というか、暫く短めがデフォになりそう)

 後書きも仕込めなかったので、江戸ネタ以外で小粒なやつを一つ。


 作中、「鬼籍(きせき)()る」という慣用句が出てきますが、こちらは死ぬという意味となります。

 「鬼」には「死者」という意味もあるそうで、籍は戸籍の事ですので、鬼籍というのは死亡者の戸籍となります。そこに入る(加わる)のですから、死んだという意味になるのだとか。

 閻魔大王が管理すると言われているため、別名、閻魔帳(えんまちょう)と呼ばれているそうです。(と言うか、閻魔帳の方が有名ですね)


・鬼籍

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