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例えは悪いやもしれぬが

 谷竜稲荷(ろくりょういなり)での、話が続く。


 氷川様が、


「少々取り乱したが、山上の中には、直毘神(なほびのかみ)()御霊(みたま)禍津日神(まがつひのかみ)の分け御霊がおわすのだな?」


と確認する。

 私が、


「はい。」


と同意すると、氷川様は、少々困惑した表情になった。

 恐らく、禍津日神の分け御霊が私の中にいる事を知ったからなのだろう。

 私は少しでも不安を払拭(ふっしょく)しようと思い、


「直毘神の分け御霊がいらっしゃいますので、天秤(てんびん)の釣り合いが取れている状態です。

 良くも悪くもならない筈ですので、大丈夫ですよ。」


(なだ)めるように話した。

 氷川様が、


「天秤か。」


と一言。私は、


「一方的に良くなったり悪くなったりするのは、問題なのだそうです。」


ともうひと押しする。氷川様は少し考え、


「例えは悪いやもしれぬが、下手に趣味に精を出そうものなら、金子は手元に残らぬ。

 かと言うて、大枚(たいまい)を手に入れようと仕事に精を出せば、趣味に当てる時間はなくなる。

 そういう事か?」


と確認した。私は、


「趣味ですか?」


と聞き返すと、氷川様は、


「そうじゃ。

 例えば茶器を集める趣味などは、大枚(たいまい)を使うじゃろうが。」


と同意を求めてきた。私は、


「そうなので?」


と他の人に同意を求めると、佳央様が、


「熱を上げて、身上(しんじょう)(つぶ)した馬鹿がいるって聞いた事あるわ。」


と答えた。古川様も、


「趣味は、・・・歯止めが効かなくなると・・・怖いから・・・ね。」


と同意する。私は、


「茶器というのは、そんなに高いので?」


と確認すると、佳央様は、


「そうらしいわ。

 なのに、(いく)つも欲しがるから、(なお)、潰すのよ。」


と答えた。まとめると、茶器を沢山欲しくなって買ってしまうから、駄目(だめ)なようだ。

 私は、


「どうして、そんなに欲しがるのですか?」


と質問すると、佳央様は、


「さぁ。

 多分、他の人が持ってるのを見ると、(うらや)ましくなるんじゃない?」


と答えた。氷川様が、


「確かに、誰それが買った名物を自分も欲しいという者はおるじゃろうな。

 じゃが、それは真の趣味ではない。

 単なる、名誉欲じゃ。

 本物の数寄者(すきしゃ)は、好みの茶器は、全て手元に置きたいそうじゃからな。」


と付け加える。私は、


「一つでは足りないので?」


と聞くと、氷川様は、


「そうじゃな・・・。

 数寄者と評判がたった者であれば、四季、時間、相手の身分や好み、それぞれに合った物を準備するじゃろうな。

 また、来客は1人とは限らぬ。

 さて。

 これで幾つ必要じゃ?」


と逆に聞いてきた。私は、


「えっと・・・、十か廿(にじゅう)か・・・。

 沢山必要です。」


と答えると、氷川様は、


「そうじゃろう。」


と同意。そして、


「それに、気分でも変える事はあろう。

 そう考えただけでも、数え切れぬほど必要なのじゃ。

 これではいくら金子(きんす)があっても足りぬというもの。」


と説明した。私が、


「そうですね。」


相槌(あいづち)を打つと、氷川様は続けて、


「故に、真に高価な名物(めいぶつ)は、一つか、二つ。

 他は、妥協(だきょう)するものじゃ。」


と付け加えた。私は、


「だから、妥協できない人は手持ちの金子を全て茶器にしてしまうのですね。」


と納得した。が、古川様が、


「単に、・・・形が気にいた物を・・・際限なく買っちゃう人も・・・いるけど・・・ね。」


と付け加える。私は、


「手元に金子があると、そのような買い方をする場合もあるのですね。」


と返すと、佳央様が、


「ないのに買って、借金まみれの人もいるけどね。」


とニヤリ。私は、


「普通、借金は、やむにやまれぬ事情があるからなのでは?」


と聞き返すと、佳央様は、


「その、やむにやまれぬ事情が、趣味なんじゃない?」


と指摘。私は、


我慢(がまん)できない程、欲しいという事なのですね。」


と言うと、氷川様は、


「そういう事じゃ。」


肯定(こうてい)した。

 古川様が、


「話も・・・一区切りしたから、・・・そろそろ、・・・仕事を始めよう・・・ね。」


と指摘。私はすっかり忘れていたので、


「そのとおりです。

 申し訳ありません。」


と謝った。


 氷川様は、


「私の質問の回答がまだなのじゃが・・・。」


眉間(みけん)(しわ)を寄せていたが、古川様が、


「運命は、・・・概ね・・・良し悪しが・・・釣り合わないと・・・駄目。

 解り(やす)いと・・・思うけど。」


と苦言。氷川様は、


「まぁ、・・・そうか。」


と言っていた。


 本日も短めです。

 江戸ネタも、鐚銭(びたせん)にもならないようなやつを一つだけ。


 作中、茶器が登場しますが、こちらは茶道に使う道具、特に抹茶を入れる(うつわ)を指しています。

 特に、銘のある茶器は名物と呼ばれて重宝(ちょうほう)されていたようです。

 江戸時代には、玩貨名物記(がんかめいぶつき)という名物を一覧にした本が出版されていますが、こちらは器の()()しではなく、所有している家の格で名物を格付けしているとのこと。


 後、数寄者は(名物を所有するほど)茶の湯に入れあげている人を指しますが、山上くんは単に「好き者」というか、愛好家と解釈しています。


・茶器

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%8C%B6%E5%99%A8&oldid=96947794

・名物 (茶道具)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%90%8D%E7%89%A9_(%E8%8C%B6%E9%81%93%E5%85%B7)&oldid=89837287

・玩貨名物記

 https://dl.ndl.go.jp/pid/2538865/1/10

・数寄者

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%95%B0%E5%AF%84%E8%80%85&oldid=103101261

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