話した気になっていた
瞑想を終え、目を開く。
正面には祭壇があり、そこには鏡等が並べられている。
その鏡を覗くと、谷竜稲荷の社の中が写っていた。
私の後ろの控えているのは、古川様と氷川様、それと佳央様の3人。
その中の古川様が代表して、
「今日は、・・・長かったわ・・・ね。」
と声を掛けてきた。
原因は、禍津日神の分け御霊と直毘神の分け御霊の話合いに、私が巻き込まれてしまったから。
私は、正直に伝えても大丈夫だろうと思いつつも、
「はい。
本日は、直毘神の分け御霊にも拝謁しましたので。」
と返事をした。すると、古川様は少し驚いた様子になり、
「直毘神と言うと、・・・穢れを祓う神様・・・ね。」
と確認してきた。が、私の聞いた話と、少し違うように感じる。
私は、
「どうなのでしょう。
私は、禍津日神のお目付け役だと聞きましたが。」
と首を傾げると、古川様は、
「えっと。
神様の御神徳は・・・覚えないと駄目・・・よ。」
と言われてしまった。
私は、
「そうですね。
申し訳ありません。」
と謝ると、古川様は、
「神様の方に・・・ね。」
と眉根を寄せる。古川様に謝っても、直毘神の分け御霊に謝った事になはらない。
当たり前の話なのだが、ついやってしまう。
私も、
「そうですね。」
と苦笑いした。
氷川様が、
「直毘神の分け御霊という事は、ご神木の呪いの件でおわしてくれたのか?」
と確認する。穢を祓う神様なのであれば、そう考えるのも道理。
だが、そのような確認は一切行っていない。
私は、
「分かりません。」
と正直に答えたが、氷川様は、
「しかし、無駄な事はすまい。」
と私に同意を促す。だが、聞いていないものは同意のしようもない。
そもそも、神様であれば無駄な事をしないという考えにもひっかかりを覚える。
私が、
「今回は、別件だと思いますよ。」
と否定すると、氷川様は、
「分け御霊が言うたのか?」
と確認する。私は、
「いえ。
ただ、ご神木の件は一切、話が出ませんでしたので。」
と返すと、氷川様は、
「ならば、何故、山上と会うたのだ?」
と質問をする。私が、
「禍津日神の分け御霊もいらっしゃったからでは?」
と答えると、氷川様が、ぎょっとした顔になる。
私は、
「どうかしましたか?」
と確認すると、氷川様、
「まっ・・・!」
と言葉が詰まる。私は、
「大丈夫ですか?」
と確認すると、氷川様は、
「大丈夫なものか!
禍津日神じゃと!」
と血相が変わる。そして、早口で、
「それを呼び込んだのか?!」
と聞いてきた。そこで、私は漸く、氷川様に禍津日神の事を話すのが初めてだった事に気がついた。
仮に話していたとしても、今までは話半分に聞いていたのかもしれない。
私は、
「もう、すっかり話した気になっていました。」
と話すと、氷川様は、
「知っておったのか?」
と周囲を見る。
古川様、佳央様、両名とも気まずそうに頷く。
すると、氷川様は、
「そうか。」
と震えている。かなり、怒っているように見える。
古川様が、
「氷川も、・・・秘密を守る側・・・という認識・・・よ?
『話した気になっていた』・・・という事だから・・・ね?」
と宥めるように言うと、氷川様は、
「そう・・・なるか。」
と少し怒りが収まった模様。古川様は、助け舟を出してくれたようだ。
私も、
「はい。
同じ神社の仲間ですから。」
ともうひと押しすると、氷川様は、
「そう・・・か。」
と納得してくれた模様。私は目を見て、
「はい。」
と頷いたのだった。
本日、短めです。
江戸ネタも、鐚銭なやつを一つだけ。
作中、鏡が出てきますが、この鏡は青銅鏡を想定しています。
江戸時代の頃はガラスを使った鏡が日本に伝わってきておりませんでした。
このため、鏡と言えば青銅鏡が普通でした。
江戸では、化粧の発達とともに、庶民にも手鏡が普及したのだそうです。
・銅鏡
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%8A%85%E9%8F%A1&oldid=105087637
・手鏡
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%89%8B%E9%8F%A1&oldid=104597007
・鏡
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%8F%A1&oldid=104838601




