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また神様でしたか

* 2025/8/3

 ルビが間違えていたので修正。(--;)

* 2025/9/7

 誤記や語尾等を修正しました。(--;)


 行列を作り、谷竜稲荷(ろくりょういなり)に向けて歩き始める。

 空は半分が青空で、残りは雲。

 だが、お天道様が出てきているので、昨日よりも暖かさを感じる。



 大通りに出ると、大八車(だいはちぐるま)とは違って(ぼう)の代わりに綱を掛けて引っ張る台車を見かける。

 沢山(たくさん)の荷物を運びたかったのだろうが、今は雪道。

 車が雪に(はま)って、上手く動けない様子。


 どうするのだろうと思ったが、綱を引く人は、


「これは、持ち上げた方が早いな。」


と苦笑い。台車を後ろから押していた人が、


「だぁから、役に立たん言うたやろぅが。」


と返す。どうやら、力技で解決する事にした様子。

 二人で台の前後を持った後は、流石(さすが)は竜人。ひょいと持ち上げていた。



 谷竜稲荷に着いた後は、いつもの通り祝詞(のりと)を上げる。

 その後、黙想。

 (しばら)くすると、私は白い空間にいた。


 周りを見渡すと、禍津日神(まがつひのかみ)()御霊(みたま)が目に入る。

 が、その隣に誰かがいるように感じた。

 私が、


「そちらにもう一人、いらっしゃいますか?」


と確認した所、禍津日神の分け御霊は、


「何の事だ?」


誤魔化(ごまか)そうとした。私は、


「分かりました。

 私は、知らない方が良い存在なのですね。」


と納得した所、禍津日神の分け御霊は、


「誰も、おらぬからな。」


と念押ししてきた。私は気配のする方をちらっと確認してから、


「はい。

 誰もおりません。」


と返した所、その気配が白い影となり、更に、子犬ほどの大きさの男の子に変わった。

 禍津日神の分け御霊の禍々(まがまが)しさとは真逆で、神々(こうごう)しさと言うか、清々(すがすが)しさと言うか。誠実さの(かたまり)のような気配を感じる。


 禍津日神の分け御霊が、(ひたい)に手を当てる。


 私は、


「誰もおりませんよ?」


と言ったのだが、禍津日神の分け御霊は、


「しっかり、認識しておるではないか。」


と不機嫌そうに言い、


「これは、直毘神(なほびのかみ)の分け御霊だ。」


と紹介してくれた。私は、


「また、神様でしたか。」


と正直な感想を口にした所、直毘神の分け御霊から、


「『また』とは何ですか。」


と怒られてしまった。私は、しまったと思いながら、


「申し訳ありません。」


と謝ったのだが、禍津日神の分け御霊は、


「謝らずとも良い。

 ここに来た神の分け御霊は3柱(みはしら)目。

 そういう感想にもなろう。」


と機嫌が良さそう。私が、


「お二柱は、仲がお悪いので?」


と聞いてみた所、直毘神の分け御霊が、


「僕は元々、禍津日神が悪さをしないようにと作られましたので。」


と笑った。が、笑顔がそのまま機嫌の良さを示しているとは限らない。

 これは、それがよく解る笑い方。

 私は、


「そうなのですね。」


となるべく無難に返すと、禍津日神の分け御霊は、


「迷惑な話だ。」


と苦笑い。こちらは機嫌の悪さがよく解る。


 私は、どうしてここに来たのか、いつまでいるのか等、直毘神の分け御霊に質問をしたいと思ったのだが、答えてくれるとは限らない。

 直毘神の分け御霊は、禍津日神の分け御霊と仲が悪い可能性が高いので、今は、機嫌が悪いのではないだろうか。

 仮にそうなら、今聞いても答えて貰いないに違いない。

 それでも聞いた方が良いだろうと思い、


「直毘神の分け御霊様。

 鏡は、ご入用(いりよう)で?」


と尋ねてみた。

 すると直毘神の分け御霊は、


「いりません。

 そこの禍津日神の分け御霊が出ていけば、僕も出ていきますので。」


と素直に答えてくれた。私は、少し安心しながら、


「分かりました。

 禍津日神の分け御霊様がいつまでいらっしゃるかも不明ですが、ゆっくりしていって下さい。」


と伝えると、直毘神の分け御霊は、


「はい。」


と頷き、


「なるべく早く、こちらも立ち去れるように勤めます。」


と付け加えた。


 直毘神の分け御霊が、


「ところで、少年。

 そこの禍津日神から、何か理不尽を押し付けられてはおりませんか?」


と確認してきた。私は、


「えっと、・・・借金の話でしょうか?

 それとも、子をなしてはならないという事でしょうか?」


と確認すると、直毘神の分け御霊は暫く目を(つむ)った。

 そして目を開けると、やや眉根を寄せつつ、


「なるほど。

 これは、少し過剰なようですね。」


と禍津日神の分け御霊を見た。私は、


「過剰なら、借金を少なくしてもらえるので?

 あれは、釣り合いを取るには必要だと聞いておりますが・・・。」


と確認したが、直毘神の分け御霊は、


「子をなせぬ方です。」


と借金は減らない様子。

 禍津日神の分け御霊が、


「先の黒竜帝のせいで、既に運命の糸があらぬ事になっておる。

 ここで断ち切らねば、どれだけ影響が出るかも判らぬのだぞ。」


と渋い顔。直毘神の分け御霊は、


「しかし、少年が原因ではない。

 少々、(しわ)()()ぎではないか?」


と指摘。二柱の言い合いが始まる。

 私は、そろそろ戻って今日の仕事を初めないといけないのではないかと思い、


「では、お二柱のお話も続くようですので、私はこのあたりで・・・。」


暇乞(いとまご)いをしたが、直毘神の分け御霊から、


「まぁ、もう少しお付き合い下さい。」


と止められた。

 私は、ならばお手玉で魔法の練習でもするかと思ったのだが、今度は禍津日神の分け御霊から、


「ちゃんと聞け。」


と怒られた。そして、直毘神の分け御霊をちらっと見てから、


「意見も(ゆる)そう。」


と付け加える。

 直毘神の分け御霊が驚いた顔をすると、禍津日神の分け御霊が、


「問題あるまい?」


と確認した。直毘神の分け御霊は困っているように見えたので、私から、


「神様の話合いに入るのは、恐れ多いのですが・・・。」


と一歩引いたのだが、直毘神の分け御霊は、


「いや。

 少年自身の事です。

 質問があれば、発言を許しましょう。」


と認める事にした様子。私は、


「ならば、先ずはお二人で話合いをしていただきまして、私はここで戻りたく・・・。」


と伝えた所、禍津日神の分け御霊は、


「既に、大祓詞(おおはらえのことば)は、概ね覚えた筈だ。

 既にやる事もないだろう?」


と指摘した。私が、直毘神の分け御霊の顔を見ると、直毘神の分け御霊は、


「そうです。

 聞いて行きなさい。」


とゴリ押しされた。これから、私が知っておくべき何かを二人が話そうとしている模様。

 そう考えたのだが、直毘神の分け御霊は、


「構える必要はありません。

 我らの間で少年をどのように扱うか、知る機会が出来る。

 ただ、それだけの事です。」


と話した。私は、


「知る事に、どのような意味があるのでしょうか?」


と確認すると、直毘神の分け御霊は少し考え、


「・・・特にありませんね。」


と回答。禍津日神の分け御霊も、


「だろ?」


と一言。お二柱、思ったよりも仲が良いのかもしれない。

 禍津日神の分け御霊は、


「で、話を続けるが。

 ここは小さな高天原(たかまのはら)になっている。

 このような資質が子に受け継がれた日には、神と人の関係はどうなるか考えてみろ。」


と本題に戻った。直毘神の分け御霊は、


「この場所を、禍津日神はそのように解釈しているのですね。」


眉根(まゆね)()る。禍津日神の分け御霊は、


「うむ。

 高度な修行も受けていない、何処にでもいる凡庸(ぼんよう)な少年に構築された、神が二柱と白狐を入れてもビクともせぬ(うつわ)

 黒竜帝の(やつ)、とんでもないものを生み出しおったものだ。」


と、こちらは(あき)れ顔。直毘神の分け御霊は少し考え、


「なるほど、これは軽々に子をなさせる訳にはいきませんね。」


と納得すると、禍津日神の分け御霊も、


「だろ?」


と一言。直毘神の分け御霊は、


(むし)ろ、即刻、死んでもらった方が世のため、人のためです。」


と恐ろしいことを言い出した。思わず、ブルリと震える。

 直毘神の分け御霊は、


「ですが、この少年に(とが)はない。

 だから、生きる事は認めて、今の状況なのですか。」


と整理し、


「納得しました。」


と頷いた。つまり、状況は変わらずという事のようだ。

 私からも、


「妻はおりますが、養子を探してもらっております。

 子はなしませんので、死ぬのは勘弁(かんべん)して下さい。」


と伝えると、直毘神の分け御霊は、


「分かりました。」


と生きることを了承。私は、


「有難うございます。」


とお礼を伝え、この場はお開きとなった。


 久しぶりに通常サイズ。


 作中、「大八車(だいはちぐるま)とは違って(ぼう)の代わりに綱を掛けて引っ張る台車」という物が出てきますが、(山上くんは今回初めて見たので名称を知りませんでしたが)こちらはベカ(ぐるま)の事となります。

 このベカ車、大八車の荷台の部分が戸板(といた)でも載せたようになっていて、人が引くための棒が出ていない代わりに、縄を掛けやすいように取っ手を付けたような構造となっていました。

 前側の人が縄を掛けて台車を引っ張り、後側の人が押して移動しました。

 歌川貞広著の『街能噂(ちまたのうわさ)』によりますと、江戸では主に大八車が使われていましたが、大阪ではベカ車が使われたのだそうです。

 この2つ、どちらが便利かは不明ですが、収納面では人が引く棒が出ていない分だけ、大八車よりも場所を取らなかったと思われます。



・ベカ車

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%99%E3%82%AB%E8%BB%8A&oldid=105788493

・街能噂 4巻 冬 - 大坂

 https://dl.ndl.go.jp/pid/8942930/1/9

・歌川貞広

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%AD%8C%E5%B7%9D%E8%B2%9E%E5%BA%83&oldid=105382548

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