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気休めでも

 座敷にて、夕食の後の雑談が続く。


 今、古川様には竜の巫女が憑依(ひょうい)している。

 先程は、結界で出来なくなっていた憑依が行われている事に驚いて、思わずその話をしてしまった。

 だが、竜の巫女は、本来は竜帝城での話合いの打ち合わせのため、憑依したに違いない。


 そう考えた私は、


「ところで、古川様。

 竜帝城での話合いは、明後日に決まったのだそうですね。」


と話を振ってみた。

 古川様は、少し顔を上げつつ、


「そのようじゃな。」


と返事をするが、ただそれだけ。

 その後の会話をする様子がない。

 私は、


「正式には、明日、使者が来るそうですね。」


と伝えたところ、古川様は、


「聞いておる。」


と返し、


「何が聞きたいのじゃ?」


と確認をしてきた。

 私は、巫女様こそ用事があるのだろうと考えていたので、


「いえ。

 私は食事の前に聞いたものですから、詳細を存じ上げません。

 もし、ご存知(ぞんじ)でしたら、お聞かせ願いたく。」


と伝えると、古川様は、


「全部聞こうという事か。」


()(いき)()かれてしまった。

 私は、


「全部という事は、沢山あるので?」


と確認すると、古川様は、


「それは、そうじゃ。

 例えば、4つの神社の話とかな。」


と当然のように言ってきた。私は、


「今は、3社ですよね。

 まさか、里に4人目の巫女もいらっしゃるので?」


と質問をすると、古川様は、


「解っておるではないか。

 そういう事じゃ。」


と返した。更科さんが、


「今、里にいる巫女様は、竜の巫女様と稲荷の巫女様の2人じゃないの?」


と確認すると、佳央様が、


「今日、竜山神社って所に行ってきたのよ。

 で、そこにも巫女様がいてね。」


と3人目を示し、


「和人も巫女なんだって。」


と付け加えた。私が、


「いえ、そのような筈は・・・。」


と否定すると、古川様が、


「そういう扱いとなるか。」


と納得顔。私は、


「ですが、巫女は女性なのでは?」


と確認した所、古川様は、


「まぁ、普通はのぅ。」


と苦笑い。そして、


「じゃが、(まれ)に男の巫子(みこ)もおるのじゃ。」


と説明した。


私が、


「男の巫女ですか。」


と返すと、古川様が、


(ちな)みに、巫子の『こ』は、文字で書くと子供の『子』じゃな。」


と付け加えた。つまり、私が知らないだけで『巫女』の他に『巫子』もいるらしい。

 私は、


「そうなので?」


と確認すると、古川様は、


「来週、舞うように言われたのじゃろう?」


と返してきた。確かに、稲荷神からそのように(おお)せつかっている。

 私は、


「はい。」


と頷くと、古川様は、


「それが、何よりの証拠じゃ。」


と答えた。つまり、私は『巫子』という事らしい。

 私が、


「そう、・・・なのですね。」


と困惑していると、更科さんが、


「つまり、和人も入れたら4人目ね。」


と納得顔となった。だが、里の巫女に、外の神社の巫女である竜の巫女は含まれない。

 私は、


「いえ。

 この里には、今はありませんが、昔、稲荷神社と反対側にも神社があったそうでして。

 昔は、そこにも巫女がいたのではないかと思いましてね。」


と説明すると、古川様は、


「うむ。

 それに、山上が巫子となる前までは、谷竜稲荷(ろくりょういなり)にも巫女はおらなんだ。

 それがどういう意味か解るか?」


と聞いてきた。私は、


「ひょっとして、瘴気の流れにも影響があったので?」


と答えを確認すると、古川様は、


「うむ。」


と頷いた。佳央様が、


「つまり、いつ、また溢れ返ってもおかしくなかったって事?」


と確認すると、古川様は、


「そういう事じゃな。」


と同意した。そして、


「そうならぬよう、先日、妾が術を(ほどこ)したのじゃがな。

 今日、竜山神社のご神木とやらの呪い(紫魔法)を、何者かが解いてしもうたのじゃ。」


とこちらを見た。


──はい。私が犯人です。


 私が、


「申し訳ありません。」


と謝ると、古川様は、


「どのみち、あの呪い(紫魔法)が解けるは、時間の問題であったろうよ。

 故に、気に病む必要はない。」


と返した。そして、


(むし)ろ、もう一度、術が施せるのじゃ。

 赤竜帝も、今頃、頭を抱えている事であろうな。」


とニヤリと笑った。私は、


「魑魅魍魎が出てきたら、大変ですからね。」


と同意すると、古川様は、


「何を言っておる。

 金子(きんす)の方じゃ。」


と良い笑顔。その金子(きんす)、原因を作った私に取り立てに来るのではないだろうか。


 私はゾッとしながら、


「私は、更に、借金が増えるのですね・・・。」


と溜め息を吐くと、古川様は、


「そこは、赤竜帝次第じゃな。」


と否定してくれた。だが、十中八九、増えるに違いない。

 私は、


「気休めでも、有難うございます・・・。」


と返したのだった。



 雑談の時間も終わり、自分達の部屋に戻る事となる。

 挨拶を済ませ、廊下(ろうか)に出る。


 廊下は、既に雨戸が閉まっており、外からは光が入らない。

 代わりに行灯(あんどん)が置いてあるのだが、正直言って、薄暗い。

 スキルで温度を見えるようにし、視界を確保する。


 先程、4人目の巫女がいるかどうか、聞きそびれた事に気がつく。

 失敗したななどと考えていると、更科さんが、


「大変な事になってるのね。」


と話しかけてきた。私は、


「はい。」


と同意すると、更科さんは、


「ご飯前に聞いた時、話してくれたら良かったのに。」


とチクリ。悩んでいるなら、話して欲しかったという様子。

 廊下は寒いが、他の寒さも加わる。


 私は、


「はい。

 ですが、私はともかく、竜の巫女様や稲荷の巫女様、竜山の巫女様のお3(かた)も加わるのです。

 後は任せておけば良いだけですので、悩むような事もありませんよ。」


と答えると、更科さんは、


「本当に、そう思ってる?」


と聞いてきた。私は、


「はい。」


と断言したが、更科さんから、


「でも、様子、変だったわよ?」


と指摘。夕食前にも、口数が少ないと指摘されていた。

 私は、


「はい。

 やらないといけない事は多いので、そちらに頭が行っていたかもしれません。」


辻褄(つじつま)を合わせると、更科さんは、


「そう・・・なのね。」


と納得してくれる模様。だが、


「対処が遅れたり失敗したら、魑魅魍魎が出てくるのよね?」


と確認してきた。私は、


「出てくる前に、呪い(紫魔法)で対処しますので。」


肯定(こうてい)もせず返すと、更科さんは、


「それなら、良いけど。」


と不安そう。私は、


「先程も言いましたが、3人も巫女が動くのですよ?

 大丈夫に決まっているではありませんか。」


と自信を持っている風に答え、更科さんを少しでも笑わせようと思い、


「赤竜帝が金子(きんす)を出し(しぶ)れば、別ですが。」


と冗談を付け加えた。すると、更科さんは、


「あぁ・・・。」


と先程の巫女様の話を思い出した模様。少し明るい声色で、


「そうかもね。」


と返事をした。私は、一先ず、納得してくれたようだと安心し、


「はい。」


と頷いて、更科さんの頭を()でたのだった。


 本日も少し短めです。

 後、江戸ネタを仕込み損ねたので、その他でしょうもないのを一つだけ。


 作中、男性の「巫子」が出てきます。

 一応、古代の頃は男性も巫女と同じ役割の巫子とか男巫と呼ばれる人が存在したそうですし、現代でも稀にいるそうです。

 巫子さんの衣装は、巫女装束ではなく普通の神職の人とあまり変わらない格好なのだそうですが、作中もそれになぞらえるかは、まだ秘密です。(^^;)


・巫

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