ムーちゃんが仲介なしで
白い空間での暇潰しが続く。
話しが出来る相手は、禍津日神の分け御霊のみ。
私は、どうせ何か聞いても、『高く付く』と返されるだけだろうと思い、久しぶりに魔法を使ったお手玉の練習を始める事にした。
重さ魔法で玉を2個作り、お手玉を始める。
前の練習から少し時間が経っていたが、以前の通り、上手く出来た。
気を良くして、3個目の重さ魔法の玉を作る。
が、例によって3個に増やすと、手元に戻ってこない。
仕方がないので、体を動かして、魔法の玉を取りに行く。
禍津日神の分け御霊が、赤、白、黒の3個の魔法の玉を作ると、
「こうか?」
と言いながら簡単にやってのけてしまう。
私は、上手いものだと思いながら、
「流石は、禍津日神の分け御霊様です。
何かコツはありますか?」
と尋ねると、禍津日神の分け御霊はお手玉を続けたままで、
「高く付くぞ?」
とお決まりの文句。
──少しくらい、教えてくれても良いのに。
そう思ったが、相手は神様。
私は溜め息を吐いて、
「そうでした。」
と返したが、これは少々、神様に不敬な態度。
私は、
「申し訳ありません。」
と謝った。
禍津日神の分け御霊が、微妙な顔つきだが、
「うむ。」
と謝罪を受け入れてくれた。
気に入ったのか、禍津日神の分け御霊がお手玉を続けている。
私は、お手本になるので助かると思いながら、
「もう少し、頑張ってみます。」
と宣言をした。
しっかりと禍津日神の分け御霊の手元を確認しつつ、真似をする。
完璧なお手本なだけに、参考になる。
暫く真似をしていると、偶にだが、何度か続けて成功するようになった。
禍津日神の分け御霊が、
「来たのではないか?」
と教えてくれる。
私は、
「そうえいば、佳央様を待っていたのでした。」
と本来の目的を口にし、お手玉の手本になってくれたので、
「ありがとうございました。」
とお礼を伝えた。禍津日神の分け御霊が、
「うむ。」
と頷く。私は、
「では。」
と挨拶をして、目を開いた。
瞑想を始める前と変わらない顔ぶれ。
先程は気づかなかったが、水仙の花が生けてある。
意識すれば微かに花の香もするのだが、緊張してか、今まで気づかなかった。
なるべく遠くまで、周囲の気配を探ってみる。
遠くの方で、佳央様が近づいてくる気配を見つける。
私が、
「もうすぐ、到着するようです。」
と告げると、竜山の巫女は、
「そうか。」
と返事をした。
佳央様がどこまで近づいたか、気配を追いかけて時間を潰す。
偶に、余計な方向転換をしている事に気がつく。
恐らく、占いに則った動きをしているのだろう。
──真っ直ぐに来れば良いのに。
そう思ったが、途中、佳央様の隣には白いムササビのムーちゃんと、他にもう一人いる事に気がついた。
庄内様や清川様ならば、気配で判る。
しかし、気配が違うので、それ以外の人の模様。
誰だろうと考えているうちに、2人と1匹が竜山神社に到着した。
私は、
「ご苦労様でした。」
と労いの言葉を掛けつつ後ろを振り返ると、佳央様の横には、久しぶりに見た赤谷様が並んでいた。
赤谷様は、坂倉様の付き人だったか。
その赤谷様が、
「ありがたきお言葉。」
と返事をする。私は、
「ムーちゃんも、久しぶりです。」
と挨拶をすると、頭の中に、
<<そうよ。
ご無沙汰たい。>>
と挨拶が聞こえてきた。この独特の言い回しからして、ムーちゃんだ。
以前、佳央様が仲介する形で念話をした事はあったが、直接、念話を出来るようになったようだ。
思わず、ぎょっとする。
私は、
「直接、お話できるようになったのですね。」
と喜びの言葉を伝えたが、ムーちゃんから、
「前も話したとに、もう、忘れとぅと?」
と苦言。恐らく、谷竜稲荷の社で瞑想をした時の事を言っているのだろう。
私は、
「あれは、念話とは違うではありませんか。」
と指摘したが、ムーちゃんは、
<<似たような物たい。
寧ろ、同調する方が難しいとよ?>>
と反論した。私は、
「そうなので?」
と古川様に確認したが、古川様は、
「何・・・が?」
と首を捻り、ムーちゃんを見て、
「あぁ、・・・そういう話・・・ね。」
と納得顔。ムーちゃんが念話で話をしたのかもしれない。
古川様は、
「同調させるのは、・・・難しいわ・・・よ。」
と答え、
「あの時、・・・私も手間取っていた・・・でしょ?」
と付け加える。言われてみれば、そうだったような気がする。
私は、
「そうなのですね。」
と納得すると、ムーちゃんから、
<<なんね。>>
と不機嫌そうな一言。
原因は、簡単。
私はムーちゃんを信用していなかったから、古川様に確認をした。
それに気がついたムーちゃんは、不機嫌になった。
そんな事をされたら、私だって不機嫌になる。
私は、
「ごめんなさい、ムーちゃん。」
と謝ると、ムーちゃんから、
<<大人気なかから、これ以上は言わんけどね。>>
と大人気のない言葉が返ってきた。
そこを指摘すると私も同類となるので、
「助かります。」
と軽く受け流す。
私は、
「それで、呪いの件は、あちらではどう対処すると言っていましたか?」
と質問をすると、赤谷様から、
「お二方とも、呪いの設置に協力するそうです。」
と返事をした。私が、
「それは、助かります。」
と頷くと、赤谷様は、
「ご神木への呪いは、早ければ早いほど良いとの事。
ですので、数日内に役割分担を明確にせねばならぬと申しておりました。」
と付け加える。私が、
「はい。
明日か明後日か。
まだ決まってはおりませんが、数日内に赤竜帝と巫女様達が集まる場を設ける事になりまして。
そこで、竜山の巫女様から必要な物を教えて頂く手筈となっております。
そのうち、使者が行くと思いますので、宜しくお願いします。」
と伝えると、赤谷様は、
「赤竜帝か。」
と眉根を寄せ、一拍置いたが、
「・・・伝えておこう。」
と返事をした。
私は、赤竜帝が絡むと不味い事でもあるのだろうかと思いつつも、
「宜しくお願いします。」
と話を締め括った。
正面に向き直り、帰りの挨拶を行う事にする。
私は、
「では、今日はここまででしょうかね。」
と伝えると、竜山の巫女も、
「そうじゃな。」
と同意した。
私は、
「では、これで引き上げさせていただきます。
年末の忙しい時に、申し訳ありませんでした。」
と挨拶をして、竜山神社の社から外に出た。
空を見上げると、相変わらずの分厚い雲。
社に入る前に降り出していた雪は上がっているが、いつ降り始めても不思議のない状況。
私は、
「では、私達は谷竜稲荷に戻りますが、蒼竜様はいかが致しますか?」
と聞いてみた。蒼竜様が、
「これから、竜帝城にな。」
と返事をする。赤竜帝と巫女様全員を集める段取りをするのだろう。
雫様が、
「なら、うちは家、帰っとくな。」
と蒼竜様に伝える。蒼竜様は、
「うむ。」
と頷き、赤谷様に視線を向ける。
赤谷様は、
「私も、急ぎ稲荷神社に戻り、お伝えいたします。」
と言うと、ムーちゃんが頷いている。
私が、
「ムーちゃんも、稲荷の巫女様に伝言で?」
と確認すると、ムーちゃんは、
<<そうたい。>>
と同意した。
私は、
「では、頑張ってくださいね。」
と伝えると、ムーちゃんは、
<<当然たい。>>
と小さな胸を張って言った。何となく、ほっこりする。
私は、
「では、私達は谷竜稲荷に戻りますので。」
と挨拶をして、古川様や佳央様と一緒に竜山神社を後にした。
本日も、少し短めです。
作中、水仙が出てきますが、こちらは日本水仙を想定しています。
この日本水仙、日本と付いてはいますが中国から入ってきた花だそうで、11月から4月にかけて咲くのだそうです。
江戸時代の頃、書院番も勤めた毛利梅園という旗本がいたのですが、この人が号を持つ絵書きでもあったそうで、そのスケッチに水仙が残っているのだそうです。
因みに、この毛利梅園ですが、wikiでは本草学者と書かれています。
ですが、学者としての交流があまりなく、生前に出版等の活動もないとの話ですので、趣味の範疇でやっていたものが死後に評価され、学者と呼ばれるようになったように見えるのは、おっさんだけでしょうかね。。。(^^;)
・スイセン属
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%83%B3%E5%B1%9E&oldid=105111061
・毛利梅園
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%AF%9B%E5%88%A9%E6%A2%85%E5%9C%92&oldid=95927600
・書院番
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%9B%B8%E9%99%A2%E7%95%AA&oldid=98102495
・梅園草木花譜冬之部 - 水仙花
https://dl.ndl.go.jp/pid/1286927/1/8