する筈がなかろうが
ここは、竜山神社の社。
その中には、竜山の巫女、呪いを纏った人、後、存在が薄い人と私の4人。
そして、社は扉が開かれており、その敷居の後ろに、古川様、蒼竜様、雫様の3人が座っている。
改めて、私に全員の注目が集まる。
代表して竜山の巫女が、
「次か?」
と不快そうに話す。子狐達の所属について決着したので、もう、話は終わったと考えていたからだろう。
私は、
「はい。」
と返事をすると、竜山の巫女が、
「暇ではないのだが?」
と聞き返してきた。が、暇でないと言うのは、追い返したい時の常套句。
だが、これは当初から聞くと決めていた事だったので、私は、
「申し訳ありませんが。」
と返し、
「子狐達に、何故、あのような指示をしたかについてです。」
と話を始めた。
竜山の巫女が、
「あのような指示とな?」
と眉根を寄せる。
私は、
「子狐達に人を困らせるよう、指示をしたのではないのですか?」
と質問すると、竜山の巫女は、
「そのような事、する筈がなかろうが。」
と文句を付け、だが、
「知っておるか?」
と呪いを纏った人と存在が薄い人に確認をした。
二人共、
「そのような指示は、致しておりませぬ。」
「存じ上げませぬ。」
と知らない様子。私は、
「ここにいる仲間は、皆なやっていると聞きましたよ?」
と指摘したが、呪いを纏った人が、
「そのような事をすれば、瘴気が増えるではないか。
何故、わざわざご神木の負荷が増すような事を指示せねばならぬ。」
と反論した。私にご神木の観点はなかったが、言われてみればその通りだ。
だが、子狐達は悪戯をし、皆やっていると言っていたのだ。
蒼竜様まで出張らなければいけないほど問題になっているのであれば、神社ぐるみと考えるのが自然。
私は、
「解っているのであれば、何故、そのような指示を?」
と質問をしたが、呪いを纏った人が、
「我らは、しておらぬと申しておろう。」
と声を荒げる。
──濡れ衣だったか?
私はそう感じたので、
「ならば、仮に指示をしていないとして、黙認していたのは宜しいので?」
と確認した。呪いを纏った人が、
「黙認?」
と眉間に皺を寄せる。
私は、
「知らないので?」
と聞くと、呪いを纏った人は、
「知らぬ。」
と言い切った。私はもう一度後ろを振り返り、
「蒼竜様も、怪奇現象の件でこちらに用があったのでしたよね。」
と話をするように促した。
蒼竜様が、
「拙者か?」
と急に振られて困惑している様子。私が、
「その話で、一緒に来たのでは?」
と確認すると、蒼竜様は、
「そうではあるが・・・。」
と困り顔。少し間を置き、
「では。」
と言うと、蒼竜様は、
「拙者、赤竜帝に仕える蒼竜と申します。
此度、こちらに伺ったのは、最近、里で不可解な事件が多発しているからにございます。」
と説明を始めた。私も、一つ頷く。
が、蒼竜様は、
「こちらは、小さいながらも古くからの由緒ある神社。
瘴気を御する神木もあり、何か存じ上げぬかと参った次第にございます。
些細な事でも構いませぬ。」
と協力を仰ぐ体で行くつもりだった模様。
──そういう切り口で話すのであれば、先に打ち合わせをして欲しい。
私はそのように思ったが、よく考えれば、話をはぐらかしたのは蒼竜様の方。
私はもやっとした気持ちになりながら、
「蒼竜様は、別に犯人がいるとお考えなのですね。」
と確認した。
呪いを纏った人から、
「事前に、話くらいして置かぬか。」
と素のお叱りの言葉をもらった。そう話したくなるのは、当然。
私は前を向き、
「近くで、偶然会いましたもので・・・。」
と言い訳をしたが、古川様から、
「山上・・・様。」
と一言。不用意な発言はするなと、言いたいのだろう。
私は、振り返って頭を下げて謝りたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢し、
「蒼竜様と私では、若干考えは違うようですが、先ずは知っている情報があれば、お教えいただきたく。」
と蒼竜様の方針で話す事に変えた。この方が、間違いであった場合にも角が立ちにくい。
呪いを纏った人が、
「む・・・。」
と少し唸る。文句の言葉を飲み込んだのだろう。
呪いを纏った人は、
「こちらとしては、先の通り、何も知らぬと申すしか無い。」
と話す。表情は能面だが、嘘を吐いている素振りもない。
──ならば、配下の者が勝手に悪戯をして楽しんでいたという事も考えられないか?
そう考えた私は、
「子狐達は、ここではみんな悪戯をしていると聞きました。
配下の者が、勝手に悪戯をして回っていたという事はありませんか?」
と確認すると、呪いを纏った人は、
「それは、・・・判らぬ。」
と言葉に詰まる。が、蒼竜様が、
「山上。
部下が私生活でやった事を、上司だから把握しているだろうと詰め寄るは、少々、乱暴ではないか?」
と注意してきた。私もその通りだと思ったので、
「はい。
ですので、指摘だけのつもりでした。
責めるような意図は、ありません。」
と返すと、呪いを纏った人は、
「・・・そうか。」
と返した。明らかに不満そうだが、そこは気が付かなかった事にする。
私は、
「はい。
ですので、思い当たる事があれば、何でも良いのでお聞かせ願えればと。」
と纏めた。
今度は、竜山の巫女が、
「そうは申しても、妾達はここ百年、社に籠もっておった。
外の様子など、判らぬ。」
と説明する。
──百年も籠もっていたと言うのは、本当なのだろうか?
私が後ろを振り返ると、蒼竜様が首を振る。
蒼竜様も、真偽は判らないのだろう。
私は、疑う気持ちはあったが、
「そういう事なら、仕方ありませんね。」
と同意した。竜山の巫女は、
「うむ。
じゃが、仮にそうだとするなら、竜山神社の名に傷も付こう。
集めて、話を聞く事としよう。」
と約束した。私は、後ろを振り返り、
「それで、宜しいでしょうか?」
と確認し、蒼竜様も、
「うむ。」
と頷いたので、私は、前を向き、
「宜しくお願いします。」
と調査を任せる事にした。
蜥蜴の尻尾切りという言葉が頭に浮かんだが、こじれると行けないので、ここでは口にしなかった。
山上くん、相変わらずのすり合わせしまくりでした。(^^;)
本日も少し短めです。
そして今回もネタを仕込みそこねたので、季節ネタで少しだけ。
今は薔薇の季節が始まりましたので、薔薇の話を少し。
江戸時代の頃、大名から庶民までいろいろな人達が園芸を楽しんでいましたが、その花の一つに、僅かに薔薇も含まれていました。
品種的には、日本原産の薔薇もありますが、ナニワイバラやコウシンバラのような中国から入ってきた品種が栽培されていたのだそうです。ただし、先にも「僅かに」と書いたとおり、あまり盛んではなかったそうです。
ただ、日本原産のノイバラは、園芸品種の薔薇の基本原種の一つになっているそうで、西洋に渡って交配に使われ、たくさんの品種が生み出したのだそうです。
・バラ
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・ロサ・キネンシス
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・ノイバラ
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